《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》84 冠とティアラ

「リュカリュカよ、これに見覚えはあるか?」

ボクと宰相さんたちの間にある機の上には、侍さんの手によって置かれた冠とティアラが。

それを見つめながら靜かに頷いた。

あれは確かとある貴族からの依頼で探ししている最中に見つけたものだったはずだ。

どことなく品の良さをじたということもあるけれど、それ以上に途中経過で見せた時に依頼主が大慌てで飛び出していったということがあったのでよく覚えていたのだ。

そしてそれがここにあるということは……。

まあ、十中八九クンビーラ公主家に関わる品だったということになるのだろう。

「見間違えでなければ、以前ある依頼の際に見つけたとそっくりです」

「やはりシグイム男爵の依頼でやって來た冒険者というのはリュカリュカの事だったか」

あー、そういえばそんな名前だったかも。

「宰相さんの依頼というのは、この冠に関係することなんですか?」

「うむ。……ここから先はの話となる。くれぐれも他言無用で頼む」

やっぱりそういう系統の話ですか。

ある程度覚悟はしていたけれど、あんまり面倒じゃないことだといいなあ……。

「その前に、だ。リュカリュカはこの地についてどれくらいのことを知っている?」

「ええと……、大陸統一國家時代には『風卿』と呼ばれていた大貴族が支配していた土地であり、現在ある都市國家の元首はそのを引いていることになっている、以上です」

これが大陸中央南部のことを『風卿エリア』と呼び慣らされている理由だ。そしてもうお分かりだとは思うけど、殘る三地域もそれぞれ『水卿』と『土卿』と『火卿』が支配していたため、関連する名前の國があるのだった。

ついでに『風卿エリア』の地形についても説明しておくね。極端に言うと北部の平野地帯と南部の高地・山岳地帯に分けられる。

北部の平野地帯には全ての都市國家があり、ゲーム用語として『風卿エリア』という場合はこちらを指すことが一般的だったりする。

一方の南部は西のジオグラントから続く山脈に覆われており、厳しい自然環境のためほとんどが未開地域であり、エルフやドワーフ、一部のセリアンスロープたちによる小規模な集落が點在しているだけなのだそうだ。

海岸部も斷崖絶壁が続いていて、東部のフレイムタンと接する極わずかな場所でしか沿岸部を利用する事はできなくなっているらしい。

そして何より特徴的なのが、中央部にそびえ立つ『大霊山』の存在だ。平野部と山岳部の境目付近にあるこの山は、裾野の方はともかく中腹以降はほぼ垂直に切り立つというリアルではまずありえない形をしている。

高さも一萬メートルを超えるとされていて、『風卿エリア』のどこからでも見ることができるとすら言われている。

『大霊山』という呼び名も、その威容から固有名詞を付けられることが躊躇われたためなのだとか。

「決して適當な名前が思い付かなかったからじゃありませんので、あしからず!」とは『OAW』の解説ページに書かれてある一文だ。

が、明らかに突っ込み待ちなじであることから、未だにプレイヤーからは放置され続けていて正式な固有名稱がつかない、ということになっているようだ。

「南方の貧しい寒村の出だと聞いていたが、基本的なことは知っているようだな」

という宰相さんの言葉は、南北による地域差や教育機會の違いについて的確に表していた。

特にクンビーラは自由易都市を名乗っていることもあって、読み書きそろばんだけでなく地域のり立ちなどについても私塾などで學ぶことができるのだ。

「実はこの冠とティアラは、大陸統一國家があった頃の『風卿』の証として大陸統一國家から與えられていたものだったのだ」

「ええっ!?」

その臺詞をけて、改めて機の上に置かれた二つの品をしげしげと見回してみる。

しかし、し古びた様子はあるものの、それほど貴重な品とは思えなかった。

「正直なところ、そこまでのとは到底思えないんですが……」

こっそり〔鑑定〕技能も使ってみたけれど「過去に実際に使用されていた歴史的価値がある代」だということしか分からなかった。

「どうしてそう思う?」

「証という割に、この冠にもティアラにもそれらしい一見して分かるような特徴のある裝飾がありません。かといって全が何かを図案化しているようにも見えないですし。まあ、特定の統を知するなんていう珍しい魔法がかけられている、ということならボク程度では見破る事もできないでしょうけど」

「もしもそんな魔法があるなら、各國が総出で探させているだろうな」

「それじゃあ、やっぱり?」

「うむ。先ほど言ったような特別な代ではない。だが、今より十代近く前のクンビーラ公主たちがかぶっていた由緒正しいではあるぞ」

宰相さんの話によると『風卿エリア』各地に未だ大きな爪痕を殘している『三國戦爭』が起きる以前のクンビーラで公主と公主妃の頭上を飾っただったそうだ。

ちなみに、記録で確認できる限りクンビーラ公主関連の冠は七回、公主妃のティアラは五回これまでに代替わりしているとのこと。

「それにしても、どうしてそんなが男爵家の倉庫にあったんでしょうか?」

実は例の貴族は先代が急病で亡くなったために代替わりした直後で、その依頼というのは倉庫に山のように積まれたの中から爵位継承の儀式のときに使用する品を探すというものだった。

この亡くなった先代というのがなかなかに厄介な人で、し変わった代に目がないという収集癖の持ち主だった。

しかも手にれたことで満足してしまう質で、集めたものは片っ端から碌に分類もせずに倉庫に放り込んでいたのだ。

その上代々倉庫の管理は男爵家の當主がやる仕事ということになっていたので、使用人の人たちも手が出せない魔窟と化してしまっていた。

あの時も本當は新當主自らが探さなくちゃいけなかったんだけど、爵位継承の儀式の準備で手も時間も足りなくなってしまったため、とてもそんな余裕はない!ということで仕方なく冒険者協會へ依頼を出したという経緯があったのでした。

「記録によればこの冠とティアラは最終的に七代前の公主と公主妃の埋葬品とされたものだったようなのだ。この時の公主というのがまた変わり者でな……。何を思ったのか歴代公主一族が眠る墓地ではなく、別の場所に極で墓を作らせたらしいのだよ」

「……つまり、盜掘された可能がある、と?」

「うむ。それが前シグイム男爵の元へと回り回って行ったのであろうな」

冠やティアラも故郷へ帰りたかったということなのかもしれない。

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