《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》90 ミルファの実力
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毎度同じ言葉で恐ですが、読んでくれている方、覗きに來てくれている方、本當にありがとうございます。
リアル時間で明けて翌日、しかしゲームでは同日の午後、ボクたちはミルファをえての戦闘訓練などなどを行うため、例の砦跡がある場所の近くまでやって來ていた。
街の外ならどこでも良かったのだけど、どうせなら下見と周囲の魔の出現狀況を探っておこうという訳だ。
で、まずはそれぞれの強さがどれくらいなのか見せ合ったのだけど……。
「ミルファって本當に強かったんだね……」
お馴染みとなったトゥースラットやブレードラビットはともかく、新規登場のロンリーコヨーテを四苦八苦しながら倒したボクたちとは裏腹に、彼は金の髪を風にたなびかせたと思ったら、次の瞬間にはさっくりと打ち倒していたのだった。
ちなみにロンリーコヨーテというのは、大きさは大型犬サイズの狼型の魔だ。基本的には名前の通り一頭のみで登場する。
とはいえ、そこはリアルのような縄張りがある訳ではないゲームの中、運が悪いと『ロンリーコヨーテの群れ』という意味不明な集団に襲われてしまうこともあるのだとか。
「い頃から格上の騎士たち相手に訓練を積み重ねてきましたもの。このくらいはできて當然でしてよ」
照れているのかそっぽを向きながら答えるミルファ。
まあ、彼のレベルが十もあった時點で今のボクたちよりは斷然強いのだろうとは思っていたけれど、ここまで差があるとは思ってもみなかった。
「武が煌いたことしか分からなかったとか、どんだけ素早いのよ……」
「〔剣技〕の練度を最大まで上げれば、誰にでもできることですわ」
「〔剣技〕の練度を最大って、もしかしてミルファは〔剣技〕をマスターしちゃっているの!?」
技能の練度を最大にすることを、俗に『マスターする』と言う。元々これには正式な呼び方がなく、プレイヤー間でなんとなく使用されていたものだった。
ところが、分かり易いということでいつの間にかNPCたちにも浸していったという経緯があったりするため、こうして違和なくゲームでも使用することができるようになっていた。
「え、ええ。そうですわよ。おで〔細剣技〕や〔防用短剣技〕を習得できたので、戦いがかなり楽になりましたわ」
しかも派生した上位の技能を二つも習得してた!?
道理で強いはずだよ……。思い出してしい。レベル一だったボクやエッ君でさえ、練度二十くらいの技能でトゥースラットを瞬殺できてしまったのだ。
最初期の魔としては強いと言っても、ロンリーコヨーテは所詮(しょせん)トゥースラットやブレードラビットの次の段階の魔でしかない。
五レベルあれば一対一でも十分に勝ててしまう相手であり、さらに練度十で使用可能になる基礎的な闘技を使えるなら完封勝利だって狙える強さでしかないのだ。
どちらかというと、初見であることに焦ってしまい、実力のほとんどを発揮できなかったボクたちがヘッポコだっただけの話だったのかもしれない……。
その後もミルファの活躍は続いた。
「なんですと!?魔法も使えるの!?」
なんと、近づいてくる數の魔をり輝く針で一掃したのだ。
「使えると言っても〔屬魔法〕と〔雷屬魔法〕の二つだけわよ。しかもこちらはそれほど訓練できていないので、先日ようやくニードルを使えるようになったばかりですの」
「いやいやいやいや。十分に凄いから」
、闇、雷の三つは上位三屬という呼び方をされるけれど、習得すること自は特別な制限がある訳ではない。
が、自然四屬などと比べると練度が上がり難い設定になっていると、まことしやかに噂されていた。
「ボクだってまだニードル系の魔法しか使えないのに……」
いくらゲーム開始時點では全ての技能の練度が一から始まっているとはいえ、こうも同年代の彼と差がついてしまっていると、無為に時間を過ごしていたかのような気にさせられてしまう。
うぅ……。なんだか無に五歳児のの子に「ボーッと生きててゴメンナサイ」と懺悔したくなってしまいました。
「はあああぁぁぁぁ……」
と思いっきりため息を吐いたところで、ピシャリと両頬を叩く。そんなボクの様子に、ミルファが驚いて息をのんでいるのがじられた。
「よしっ!切り替えよう!」
ぐんっと背筋をばして真っ直ぐ前を見る。いつまでも落ち込んではいられない。
なにせ、可いうちの子たちが心配してしまうからね。
「リュカリュカは……、強いですわね」
「そうかな?まあ、ボクより凄い人がいるなんて當たり前の話だからね」
主にうちの従姉妹様とか。
「そう考えられるということが、何よりの証ですわよ。わたくしなんて何度現実をけられずに挫折しそうになったことか……」
例の従姉妹様の言葉だけど「辛かった記憶や苦しかった記憶というのは、飛躍のためのバネにもなるけど、足を引っ張る罠にもなるから。漫畫とかだと「あの時のことを思い出せ!」って簡単に言うけど、実は結構取扱注意なものなんだよね」ということらしい。
今のミルファはまさにその狀態で、過去の辛かった記憶に足を取られてしまっているのだろう。
……ああ、そうか。どうしてこの子のことを、ここまですんなりとけれられたのかようやく分かったよ。
ミルファと里っちゃん、一見すると全然違うようだけど、似ているところがあったのだ。
周りの願と自分の理想、それを一に背負ってひたすらに突っ走ってしまうのだ。
時に自分がどんなに傷ついているのかも分からずに。
「でも、ミルファはそれを乗り越えてきたんでしょう?だからここに居るんじゃない」
だからボクはそう言って笑ってやる。
他の誰かが、本人ですら否定しようとしたとしても、ボクだけはその頑張りを認めてあげるのだ。
「……もう、簡単にそんな優しいことを言わないでください」
見開いた瞳から零れ落ちる雫を見せまいと、ミルファがクルリとを回転させる。その姿に不安をじたのか、エッ君がトコトコと近付いて行く。
足元へとすり寄ってきたエッ君を抱き上げると、
「本當に、あなたたちはみんな優し過ぎます……」
そう言って彼は靜かに泣いた。
「さてと、それじゃあし休憩しようか。ボクはこっちを見張るから、リーヴは反対側の監視をお願いね」
ことさら大きな聲を出して指示する。するとリーヴはコクリと頷いた後でを翻(ひるが)すと、數歩離れた場所に威風堂々と立った。
その後ろ姿に頼りがいをじたためなのか、をけて輝く鎧がいつにも増して大きく見えるね。まあ、元が小っちゃいのであれなんだけど。
こうしてお互いの弱い部分を見せ合うことという予定外の展開によって、ボクたちは本當の仲間として急速にその距離をめていくことになったのだった。
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