抱きしめたミルファのがどんどんと冷たくなっていく。

命がこぼれていく覚に怖気が走る。何もこんなところまで作り込まなくてもいいだろうにと、運営に対して恨み言を言いたくなってしまう。

散々楽しんでおいてと突っ込まれそうだけど、それはそれというやつだ。

既にＨＰを回復させるアイテムは、殘っていた初心者用の回復薬に至るまで全て使い切ってしまっていた。

「誰か！誰かいませんか！」

び過ぎてが枯れ果ててしまいそう。時折むせ返りながらも、それでもボクは彼の命を繋いでくれる人を求めて聲を上げ続けていた。

こんなことなら難易度が高いと分かっていても解毒薬を〔調薬〕で作っておくのだった。

周辺には毒持ちの魔がいないことや、材料の一部が購することでしか手にらなかったこともあって後回しにしていたのが裏目に出た形となってしまった。

溢れてくる涙を暴に拭い、今できることを考える。

が、事態を好転させるような名案が早々浮かんでくることなどあるはずもなく、結局は助けを呼び続けることしかできないのだった。

だからきっと、それはとても幸運なことで。

「あ、あの……。だ、大丈夫ですか？」

ふいに飛び込んできた言葉に顔を上げる暇も與えず、その人はボクの向かいへと座り込んでいた。

「ど、毒をけて……。治らないの」

辛うじて彼の容を伝えたボクの聲は、失うことへの恐怖で震えていた。

「毒……。で、できる限りのことをやってみます！」

自に満ち溢れた力強いものとは到底言えないものだったけれど、その一言はひび割れそうになっていた心に沁みってくるようだった。

脇に置いていた杖を手にして立ち上がると、キラキラとした燐が漂い始める。薄暗い路地の中ということもあって、その景はことさら神的に見えた。

その頃になって、ボクはようやくその人がであることに気が付いた。

銀にも見える白い髪が下からそよ風をけているかのように、または無重力空間のように広がっている。

そして何より特徴的だったのが、頭頂部付近にぴょこんと飛び出していた二つの耳だった。そう、彼はセリアンスロープだったのだ。

セリアンスロープと言えば、キャラクターメイキングでの基本的な魔力の値が一になる――ボーナスポイントを割り振ることはできる――という超絶的に魔法系技能に向いていない種族だ。

さらに練度上昇も他の種族に比べて遅いとされていて、プレイヤーの中ではセリアンスロープの＜マジシャン＞というとネタキャラの代名詞のような扱いとなっているほどだった。

まあ、これらのことを思い出したのは全てが終わったとのことだったのだけど。

この時はただただ、ミルファを助けてしいとだけ願っていたように思う。

周囲を取り巻く燐が強くなったところで、セリアンスロープのはカッと目を開く。

「聖なる息吹よ、彼の者の穢れを取り除け。【キュア】」

祈りの言葉のような臺詞を口ずさむと、両手で持っていた杖をボクたちの方へと傾けた。するとの周囲で踴っていたはずの燐がミルファのの中へとり込んでいく。

「くぅ……」

「ミルファ！？」

の毒素が消えていく影響なのか、燐がり込んだ瞬間小さくく。

が、それもすぐに治まり、あえぐように淺く繰り返されていた呼吸と合わせて、落ち著いたものへと変化していったのだった。

「良かった。魔法が効いたようです」

そんなミルファの様子に安心したのか、腰が抜けたかのような勢いで勢はペタンと地面に座り込んだのだった。

「……毒は抜けてしまっていますから、後は安靜にしていれば目を覚ますと思います」

「ありがとう！」

軽く診察を終えて、こちらに微笑みかけてくるへと極まって抱き著いてしまうボク。

「あわわっ！？」

「むぴょ！？」

當然、ボクの膝の上に乗っていたミルファの頭は地面へと落っこちることになり……。驚くの聲に重なるようにして、謎の悲鳴が発せられたのでした。

そんな時、ドタドタという複數の足音響かせて數名の鎧をに著けた人たちが現れた。

その先頭にはリーヴの姿もある。どうやら、集まって來た衛兵隊の人たちを案して來てくれたようだ。

「リュカリュカ君、大丈夫かね」

代表して尋ねてきたのは、衛兵隊の小隊長さんだった。何度か護衛と稱して採取のために街の外に出たボクたちに同行してくれたこともあったので、すっかり顔見知りとなった一人でもある。

「あ、はい。先走ったミルファが毒をけたけど、こちらの方のおで助かりました」

そう言って、抱きしめたままになっていたを紹介する。

ちなみに、當のミルファはボクの膝から落ちた時に頭でも打ったのか、「うきゅう……」と何やら可らしい鳴き聲を上げながら目を回していた。

漫畫とかなら確実に目が渦巻きになっているところだね。だけど、こんな暢気なことを考えていられるのも【キュア】をかけてくれたのおだ。本當に謝してもしたりないよ。

「んなっ！？毒だと！？」

一方で、衛兵隊の皆さんは毒と聞いて険しい顔つきになっていた。まあ、白晝の街中で堂々と襲撃した上に毒まで使用していたとなれば、そうなるのも當たり前かな。

ところで、しはミルファの心配もしてあげようよ。現公主様の従姉妹に當たり、その上宰相の娘で次期侯爵夫人になるですよ？

……うん。こうして並べてみると設定盛り過ぎ。

「すぐに騎士団にも連絡をれろ！」

「ああ、大丈夫ですよ。襲撃者だと思われる不審人ならやっつけましたから」

急いでき出そうとする衛兵隊員たちを宥めて、【ピアス】でぶっ飛ばした男の方を見やる。

石突きでの突きと、壁に背中を強(したた)かに打ち付けた痛みでイモムシ狀態だった不審者は、逆らう事もできずに衛兵隊に引っ立てられたのだった。

あ、リーヴが発見してくれていた兇も一緒に渡しておいた。ボクたちが持っていても仕方のないだから、捜査に役立ててもらえるならその方がいい。

ちなみに、投擲専用の小型のナイフのような形狀をしていた。

「仲間がいないとも言い切れないから、我々はまず騎士団と合同でクンビーラの警戒に當たる。悪いが今日一日は『猟犬のあくび亭』でじっとしていてくれ」

「ミルファもまだ目を覚まさないから、それは構いませんけど……。詳しい話とかしなくてもいいんですか？」

「お前さんなら逃げるようなことはしないだろうからな。後で宿に聞き取りをする者を向かわせるから、しばらくは休んできてくれ」

そう言い殘すと、殘る衛兵隊の人たちも去って行ってしまった。

ボクたちと、ミルファを癒してくれたを殘して。

この時はまさかこの、『大地の聖』こと白狼のネイトとこれから長い時間を一緒に過ごしていくことになるとは考えてもいなかった。