《【書籍化決定】婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。》2-22
サルジュはあらかじめ、ジャナキ王國の王都に移すると兄達に伝えておいたようだ。
アメリアとカイド、そしてアロイスを連れてジャナキ王國の王都に移すると、そこには見慣れた顔がずらりと並んでいた。
マリーエとユリウス。
そしてアメリアの護衛である、リリアーネ。
さらに、王太子のアレクシスと王太子妃のソフィアまでいる。
「アメリア!」
「アメリア、無事でよかった」
彼らの姿を確認した途端、左右から抱きつかれる。
マリーエと、王太子妃のソフィアがアメリアを挾むように抱きしめていた。
帰國途中だったマリーエはともかく、ソフィアまでジャナキ王國に來ているとは思わなかった。
「大丈夫? 怪我はない?」
「無事でよかったわ。怖かったでしょう?」
「……マリーエ、ソフィア様」
ふたりの顔を見て、ほっとする。
「ありがとうございます。ご心配をお掛けしました」
し離れたところに、リリアーネが立っていた。
「アメリア様。お守りできずに申し訳ございません」
「ううん、リリアーネさんのせいじゃないわ。向こうはとても特殊な魔法を使うの」
正確には魔法ではないのかもしれないが、ここで説明すると長くなってしまうので、そう言っておく。
それに、誰にも告げずに何とかしようとした自分が一番悪い。そのせいで、サルジュまで危険に曬してしまったのだから。
「悪いのは、わたしなの。本當にごめんなさい」
リリアーネも、アメリアを抱きしめてくれた。
落ち著いてから周囲を見渡してみると、ここはどうやらジャナキ王國の王城にある大広間のようだ。
普通なら他國の人間が王城に転移することは許されない。
だがこの國の王であるクロエが原因となってしまったこともあり、許可が下りたのだろう。
周囲にはビーダイド王國から來たと思われる魔導師がたくさんいた。カイドが連れてきたアロイスを取り囲み、彼の指示でどこかに連れて行く。
サルジュの元には王太子のアレクシスと、ユリウスがいた。
あらかじめ何があったのか伝えていたようで、ふたりは大の経緯は知っているようである。だがサルジュはアロイスについて、さらに詳しく説明している様子だ。アレクシスとユリウスの顔が険しくなり、三人は真剣な様子で話し合いをしている。
「向こうは時間が掛かると思うから、アメリアはし休みましょう?」
「……でも」
自分ひとりだけ休むことはできないと、アメリアは首を振る。
サルジュはそんなアメリアの様子に気が付いたようで、兄達に斷ってこちらに歩いてきた。
「アメリア、し休んだ方がいい」
「サルジュ様。ですが……」
「あれだけの魔法を使ったからね。今は大丈夫かもしれないけれど、し気持ちが落ち著けば、今度は疲れが出てくると思うよ。だから今のうちにゆっくりと休んでほしい」
心配そうに言われてしまえば、斷ることはできなかった。
「わかりました。休ませていただきます」
「よかった。リリアーネ、アメリアを頼む」
「承知いたしました」
ユリウスとアレクシスにも軽く挨拶をして、マリーエ、リリアーネ、そしてソフィアに付き添われてこの場を退出する。
ジャナキ王國では客間を多數提供してくれたらしく、案してくれた侍に、その部屋のひとつに通された。アメリアに宛がわれた部屋はとても広くて、寢室の他に応接間と浴室もある。
侍が事前に準備をしてくれたようで、すぐに浴することができた。
魔法で綺麗にはしてきたが、ずっと乾燥した砂漠にいたので、溫かいお湯に浸かることができてほっとする。ゆっくりと浴を楽しんだあとに上がると、待っていたマリーエが風魔法で髪を乾かしてくれて、ソフィアが自らお茶を淹れてくれた。
いつも淹れてくれるハーブティーだ。わざわざ持ってきてくれたのだろう。
張していた心が、優しく解けていく。
気が付くとうとうとしていたようで、ふたりにベッドで休むように言われた。
「すみません……。せっかく一緒にいてくださったのに……」
「いいのよ。むしろゆっくりと休んでほしいわ」
「隣の応接間にいるから、安心して。リリアーネに付いてもらう?」
「……はい」
「アメリア様、こちらにどうぞ」
リリアーネに付き添われて、寢室に向かう。彼が傍にいてくれたので、ゆっくりと休むことができた。
サルジュが言っていたように、自覚はなかったが相當疲れていたらしい。そのまま翌日の朝までぐっすりと眠ってしまった。
起きて支度を整え、侍が持ってきてくれた朝食を食べる。
それからマリーエとソフィアが會いに來てくれて、ようやく気になっていたことを尋ねることができた。
「あの、クロエ王殿下はどうされていますか?」
昨日の禮を言ってからそう切り出すと、ふたりはし言いにくそうに顔を見合わせた。
「洗脳されていたとはいえ、あなたとサルジュを危険に曬したのは間違いないから、自室で謹慎しているわ。エストとの婚約も、解消という形になりそうよ」
「……そうですか」
ソフィアの答えに、アメリアは肩を落とす。
(魔力が低いせいで、アロイスの標的になってしまった。でも、それはクロエ王殿下のせいではないのに)
そうわかっていても、何の責任も問わないわけにはいかなかったのだろう。今は會うこともできないようで、アメリアは後から手紙を書いて屆けてもらうことにした。
「向こうでは、大変だったようね」
アメリアが眠っている間に、ソフィアはアレクシスから々と聞いたらしく、気遣うようにそう言ってくれた。
「砂漠に飛ばされて、そこに隠れ住むことになったなんて……」
「サルジュ様が一緒でしたから、そこまで大変ではありませんでした。サルジュ様の魔法は本當にすごくて」
植を一瞬で長させる土魔法に、再現魔法を改良した修繕魔法。さらに、それらをすべて元に戻す退化魔法まで。
向こうで起こったことをひとつずつ説明すると、ソフィアは深い溜息をついた。
「たしかに素晴らしいけれど、魔力不足で倒れてしまってはね。本當に、サルジュはアレクシスによく似ているわ。やり過ぎて倒れてしまうところも、そっくり。ユリウスはまだ常識があるけれど……」
「そうですね。ユリウス様は無謀なことは絶対にしませんから」
信頼しきっているマリーエの姿に、ソフィアは羨ましいわ、とぽつりと呟いていた。
彼もそれなりに苦労しているようだ。
それでもアレクシスのことを語るソフィアの瞳は熱を帯びていて、ふたりの間には、たしかな信頼関係があることがわかる。
自分とサルジュも、そうなれたらいいと思う。
(ふたりでいるとより心配だなんて言われているようでは、駄目ね。わたしがいるから安心だと言ってもらえるように、頑張らないと)
それにサルジュは、無理はしないと約束してくれた。きっと守ってくれるだろう。
アロイスがもしかしたらビーダイド王家のを引いているかもしれないということは、ふたりにも話さなかった。
アメリアにも詳しい話はわからないし、おそらく今頃は々と調査している頃だろう。
そのまま三人でゆったりと過ごし、晝食後にようやくサルジュと會うことができた。
アメリアと違い、彼はあれから休まなかったようで、ジャナキ王國のための、長促進魔法を付與した料のこと。さらに雨を降らせる魔導について、熱心に語っていたらしい。最後にはユリウスによって無理やり寢室に押し込められたようだ。
サルジュに會いに行く前にアメリアはユリウスに會い、サルジュの首に殘っていた指の跡のことを聞かれた。あれだけの力を込めていたのだから、殘ってしまっていたのだろう。
正直に、それがアロイスによるものだと答える。
彼の出自については、アレクシスも含めて、慎重に探っているらしい。
五十五年前に攫われた王には、子どもがいなかったことになっている。
ユリウスはそれだけ教えてくれた。
アロイスはビーダイド王家とはもともと関係がなかったのか。それとも子どもが生まれたものの、いなかったことにされたのか。
それは、これからの調査で判明すると思われる。
だがユリウスもアメリアも、互いに口には出さなかったが、サルジュが魔法の系統から縁関係ではないのかと考えたのならば、おそらく間違いないだろうと思っていた。
「明日も聞き取り調査を行う予定だが、そんな危険なことがあったのなら、サルジュには同席させないようにする。アメリア、サルジュを助けてくれてありがとう」
禮を言われて、アメリアは首を振る。
「いえ、わたしはただ夢中で。それにサルジュ様もいたのに魔法を放つなんて、むしろ罰せられても仕方のないことでした」
アメリアの魔法は運よくサルジュを避けてくれたが、コントロールができていない魔法だったことを考えると、とても危険な行為だった。
「いや、心配はいらない。とっさに放った魔法は、その人の本質を示している。アメリアの魔法が誰かを、ましてサルジュを傷付けるなんてことは、絶対にあり得ない」
信頼してくれる心が嬉しくて、だからこそけっして裏切れないと思う。
ユリウスと別れてからサルジュに會いに行くと、彼はベルツ帝國から持ち帰ったデータをまとめていた。よほど熱中しているらしく、アメリアにもすぐには気が付かなかったくらいだ。
「ああ、アメリア」
ようやく気が付いたサルジュは、手にしていた資料をすべて機の上に置いて、アメリアに手を差しべる。
いつものようにその手を握り、導かれるまま、彼の隣に座る。
「昨日はゆっくり眠れたかい?」
「はい、お蔭様で。サルジュ様もきちんと休まれてくださいね」
「……そうだね。さすがに今日は休むことにするよ」
そう言いながらも、サルジュの話は新しく開発する予定の料や魔導の話ばかりだった。
「無理はしないと、約束してくださいましたよね」
その言葉に、サルジュははっとしたようにアメリアを見て、そしてらかく微笑んだ。
「そうだったね。もちろん、約束は守る。アメリアとの約束だからね」
資料を片付けたサルジュと一緒に、ゆっくりとお茶を楽しんだ。
こんなにゆったりとした時間を過ごしたのは、出會ってから初めてかもしれない。
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