《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》19話 和服人と遊ぼう!

「おお、ってくれえ。つーか、味山、グレン、てめえらがそこにいたら邪魔だろうがぁ、早く適當に座りやがれえ」

「あ、はい。鮫島さん」

「わかったっす、鮫島さん」

「お、おお…… なんだ、お前らそんなに素直な奴らだったか? 気持ち悪いんどけどよお」

クリクリしたつぶらな瞳、本人たちはそう信じている目をしながら味山とグレンは、ちょこんと長機を挾み、鮫島の対面に座る。

……やべ、めっちゃいい匂いする。この部屋。甘いくだもののような香りが味山の鼻をくすぐる。

味山は、端的に言えば張していた。

ぶっちゃけ、あまり遊び慣れていないのだ、味山もグレンも。

こんこん、

「お、悪い、ってくれえ、問題ねえ」

ノックの音に鮫島が聲をかける。その様子は落ち著き払っており、借りてきた貓のように大人しくなっている味山達と比べるべくもない。

やばい、鮫島がなんかかっこよく見える。シスコンで姪コンをこじらせているどうしようもないやつなのに。

味山が複雑な面持ちで、目の前で和服人をあしらいながら酒を飲む友人を見つめた。

「あ? 味山ぁ、なんかお前失禮な事考えてたか?」

「いえ、滅相もないです、鮫島さん」

ならいいけどよお、と鮫島が流す。

そして、

「失禮いたします」

「失禮しまーす!!」

ふすまが開かれる。

「うお」

「わあ」

味山と、グレンが聲を上げた。

可憐。

和服を著たエライ人が2人、正座した狀態でふすまを開けた。

「こんばんは、本日はご來店誠にありがとうございます。はじめまして、雨霧と申します」

「こんばんは!! えっと、ご來店マジ……じゃないや。まことにありがとうございまーす! 朝日っていいます! よろしくお願いします!」

味山とグレンはポカンと口を開いて固まっていた。

アレタやソフィと言った人と普段チームを組んでいるために、2人ともそれなりに人耐はあったはずだが、それでも2人とも、ダメだった。

「ああ? おい、朝霧ちゃんや。雨霧に朝日って言えばよお、この店のナンバー1とナンバー3じゃねえか。いいのか、こんな連中にそんな良いの子つけてよお」

「ふふ、私のお気にりの鮫島さんのお友達が來るって聞いたからね。まあ、でも雨ちゃんと、朝ちゃん2人共と仲が良いんだ、私」

「おお、マジかぁ、そりゃ、こいつらには勿ねーよな気がするなあ……」

「ふふ、鮫島さんも2人の方が良かった?」

「けっ、意地悪いなあ…… 俺ぁ、アンタが好きだぜぇ、朝霧ちゃん」

「鮫島さん……」

味山とグレンをほったらかしにして、鮫島が和服のアンニュイな人といちゃつく。

え、なにあれ。いつもの鮫島じゃないじゃん。

味山がぼーとその様子を眺めていると。

ふわり、良い匂いが。

「お隣、失禮してもよろしいでしょうか? 味山様」

「じゃあ、朝日は灰の髪のグレンさんの隣っ! いーい?」

いつのまにか、音もなく味山、グレンのそれぞれ隣にが侍る。

グレンについたは、い顔立ちに金のツインテールの活発そうな子、しかし顔立ちに似合わず、満なが著を押し上げていた。

そのの著はヒヨコの刺繍があしらわれたシンプルなピンクの著、よく似合っていた。

「ももも、もちろんっす! グレン・ウォーカーっす!よろしくお願いしゃす!」

「あははー、知ってるー、店長……いや、月川から聞いてるよー、あたし、朝日! よろしくねー!」

グレンに侍る活発な人、いやの距離はやけに近い。

味山は橫目で、どんどんグレンの顔がにやけてとろけていくのに気付いた。

あいつ、巨に弱いからなあ。

味山が友人の微妙にけない姿に心、ため息をついた。

「もし、もし……」

か細い聲に気づく、そうだ、俺の隣にもド級の人が。

味山はその聲、橫に顔を向けてーー

息を、呑んだ。

小さな顔に張り付いたパーツはどう見ても神様が贔屓して作ったとしか思えないほど整っている。

溢れそうな瞳、右目の下についた泣き黒子がやけにっぽい。

羽の濡れた長い髪はロングのポニーテールに縛られて彼の小さな顔が映える。

そんな人の目が潤んでいた。

「もし、もし。味山様、やはり私のような暗いよりも、朝日のように明るい子がお好みでしたでしょうか? 宜しければ、他の明るく可らしい子と代わりーー」

味山は反的に、黒髪の人の手を握ろうとし、そしてびたりときを止めた。

やべ、お止だった。

味山が固まる。

ひたり、固まった味山の手にひんやりしたが。

え。

「……あ。申し訳ございません…… その、お嫌でしたか?」

「いいえ!!! お嫌なわけがごっざいません!! 貴がようございます!」

手を握られたまま、味山が頭を下げる。

社會人時代から頭を下げる事だけは得意だった。

「まあ…… ふふ、ありがとうございます。改めまして、私、雨霧と申します」

「あ、雨霧さんですね、お…… いや、僕は味山と申しますです、はい」

「ええ、存じておりますとも。味山様…… お噂はかねがね……」

濡れた瞳、しかしその中にが宿る。味山は一瞬違和を覚えたが、きゅっと握られたらかな手のひらのに、全てを忘れた。

「……まあ、私ったらはしたない。失禮いたしました」

「あら、雨霧ちゃんが男の人にるの初めて見たかもねえ」

「あ、ほんとだ! 雨っち、普段そんなにひっつかないのに!」

「あ、う。失禮いたしました……」

まわりのの子が雨霧の様子を見て驚いたり、はしゃいだり。

おずおずと味山のゴツゴツした手を握っていた小さな手が離れる。

ええー、なんかいい。

このじ。なんかいい。

味山はもうすでにはしゃぎ初めていた。

「あれ、僕の名前なんで知ってるんですか?」

「あめりやの主人、月川より伝えられております…… ただ、その味山様のことは前より存じ上げておりました……」

「え? 前から?」

「はい…… 私、探索者様に憧れておりまして、かのお星様…… アレタ・アシュフィールドのファンでございますので…… かの星が補佐を選んだとの報を聞いてより……存じ上げておりました」

頰を染めてにこりと笑う雨霧。わお、なにこれめちゃ可い。

「んふふ、雨っちは探索者さん好きだよねー、朝日も好きだけどさー。わ、グレンさん、すごい筋!」

「えっ?! そうすか? 分かるっす?」

「ふふ、鮫島さん…… 約束守ってまたきてくれたのね」

「おお、人との約束は守るって決めてんだよ、俺ぁ」

味山の隣ではグレンが、正面では鮫島が。それぞれのと仲睦まじく、酒を舐めながら、流している。

味山も目の前の人との會話に意識を傾けることにした。

「意外ですね、雨霧さんのような上品な方からは探索者っていうのは嫌われているかと」

「いいえ、とんでもない。まるでお伽話の存在のように、地下に広がる戦場で、怪相手の大立ち回りをなされる…… 私のような弱い者からすれば、あなたがたはまるで、お伽話に出てくる勇者達と同じです」

「褒めすぎですよ、でも雨霧さんにそう言われると、嬉しいです、まあ俺は殘念ながらそんな眩しい存在でもないんだけど」

「まあ…… なにをおっしゃいますか。あなた様はあのアレタ・アシュフィールドが嵐を墮としたときからずっと空席だった座を勝ち取った英傑でございます。そんな謙遜などしないでくださいまし」

潤んだ瞳が味山を見つめる。

ヤベ、普段こんなじの人とは接していなかったからテンションが定まんねえ。

味山が必死にポーカーフェイスを保つ。

雨霧の艶かな黒髪は黒い生地に金の刺繍模様の著とよく似合う。

わずかに、はだけた首から覗く白いが眩しい。味山はそこに目線が集中しないように、なるべく雨霧の顔を見続けた。

「あ、う。味山様、そうまで無言で見つめられると、恥ずかしゅうございます……」

「あ! す、すみません!! 失禮しました!!」

「い、いえ、嫌でございませんので…… どうぞ、まずはご一獻……」

雨霧が裾に用意していたお豬口と、徳利を差し出した。

辺りを見れば、グレンも鮫島も飲みながら談笑している。

「あ、どうも」

お豬口をけ取り、差し出す。

おずおずとなれた手つきで雨霧が白い徳利を傾けた。

澄んだ水のような酒が音もなく、お豬口を満たす。

「いただきます」

「ふふ、召し上がれ」

ぐびり。

を満たす酒の味。

飲みやすい、癖がまったくない。

なんの抵抗もなくを通り、胃に落ちていく。

味しい…… あまり酒は飲まないんですけど、これは、うまい」

「ふふ、私もです。このお店のお酒はとても飲みやすく…… あまり他では売っていないお酒らしいですよ」

へえ、こりゃいいや。味山は二口でお豬口を飲み干す。

その様子を雨霧が穏やかに見つめていた。

「味山ぁ、グレン、そろそろ慣れてきたかぁ?」

不意に鮫島から聲がかかった。

見れば何かメニュー表のようなものを覗き込みながら鮫島がこちらを見ている。

「あ、ああ。よくしてもらってるけど」

「あめりや最高っす!!」

「はっ、そりゃ良かったぜえ…… なあ、ここいらでよお、1つ余興で遊ばねえか? あめりやの名なんだよ」

「あ? 余興?」

「いいっすよ! もう楽しければなんでも!」

味山が首を傾げ、グレンは満面の笑みで首肯する。

「あらぁ、鮫島さんたち、アレをやってくれるの? なににしようかなあ」

「えー! 本當に? あたしもグレンさんに何してもらおうかな?!」

「まあ、……味山様、よろしいのですか?」

三者三様。

なにをするつもりだ、こいつ。

「で、タツキ、何するんすか!? まさか、王様ゲーム的な??!」

「バカ、違えよ。こういう店でそんな遊び方はなしだ。いいか、グレン、味山。ここでは俺らは確かに客だが、選ぶ側の存在じゃねえんだぞ」

鮫島がお豬口を飲み干し言葉を続ける。

「お前ら、いま楽しいだろお? そりゃそうだ、何の幸運かお前らと今一緒にいるのはこの店の1位、2位、3位と最上級のばかりなんだからよお」

「えへへー! ありがとー、鮫島さん! ちなみに朝日が3番目ね!」

朝日が明るい聲で応える。

「おお、どういたしまして。それでなあ、味山、グレン。お前らは今、品定めされてんだ。この男はこれからも指名していいのか? この男は自分に見合った存在なのか、とかなあ」

「やだなあ、鮫島さん。そんな偉そうなことは考えてないよ。私達」

「朝霧さんはこう言ってるが、まあ、察しろ。ようは俺たちはなんとか彼達にアピールしなきゃなんねえんだよ。他の男とは違う! てなあ。それが出來なきゃあめりやで遊ぶことは出來ねえ」

鮫島が確かな口調で呟く。

酔い初めているのか、三白眼が赤くなってより兇暴だ。

「なるほど…… つまり踴りでメスを呼び寄せる鳥! 巣をあしらえ、メスを呼ぶ魚のように俺らも何か甲斐を見せろってことっすね!」

「おお、珍しくグレンが正しい事を言ったなあ、その通りだ。俺らはこれからの余興をクリアしなけりゃならねえ。なあ、朝霧さん」

「あは、鮫島さんの素敵な所はぁ、そういう所よねえ」

朝霧がうっとりした顔で鮫島を見つめる。

「なるほど…… 一理ある…… 確かにこんな人に金を払っただけでお酌してもらえるというのは…… ムシが良すぎる」

味山がつぶやく。たいがい、こいつも酔い始めていた。

「それで、俺らは何するんすか? 朝日ちゃんに逆指名されるためなら俺、ちょっと本気出すっすよ!」

味山とグレンがを乗り出して鮫島に詰め寄る。その様子を達はニコニコと見守っていた。

「ああ、これより、逆指名を取るためのあめりや名、その名も"かぐや姫ゲーム"の開始だぁ」

「「うおおおお!!」」

味山とグレンがぶ。周りの迷にならない程度に。

かぐや姫ゲームって、なんだ?

味山の脳裏に小さな疑問、しかしそれを口に出すことはなかった。

バベル島の歩き方〜

歓楽街、"あめりや"について

みんな大好き和服人が集められた組合公認の飲食店。

武家屋敷のような広い店舗にいくつかの座敷部屋を設け、そこで接客を行う。

特徴的なのは、逆指名システム。客がを指名するのでなく、が客を指名する獨自のシステムが人気の

男どもは意中のしい和服のに気にられようと知恵と金と々なものを絞る。

あくまでおりは厳、しかしの子側からるのはあり。この緩い決まりがさらに男達の財布の紐を緩ませる。

人気ナンバー1のの名は"雨霧"。雨に紛れて漂う霧、すぐに晴れて消えてしまいそうなほどに儚く、しかししいが故にその名前を與えられた。

は"かぐや姫ゲーム"

竹取語でかぐや姫が求婚者に無茶な試練を與えたという話から、あめりやの主人月川が考案。

達が、男側に何かの試練を與え、それをクリアした男はある程度のご褒をもらえるというたのしい遊び。

今宵も浮かれた探索者がお財布を握りしめてその座敷へと向かう。

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