《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》22話 上級探索者、遠山鳴人のは発見出來ず
今日も、また1人探索者が死んだ
「うえ。ヤベ、マジでやらかした。コレまじでやべえ」
語彙のない言葉がけない。遠山 鳴人は重い足取りで、ヨタヨタと一面の大草原を歩き続ける。
腹に空いた傷は大きい、遠山の來た道には痕がポタリと続く。歩くたびに中がれそうな予が強くなる。
「あー、コレヤバイ。死ぬ、今度こそ死ぬ、カッコつけるんじゃなかったわ、マジで」
ドサッ。
急に膝が抜けた。うつ伏せに倒れる。衝撃で臓がこぼれたかと錯覚するが、まだ大丈夫なようだ。
が妙に暖かくなってくる。ああ、自分の溜まりか。遠山はもう薄く笑うしかなかった。
草原の青い匂いと、の鉄錆の匂いが混じり合う。
「何匹殺した……? あいつら、逃げ切れたのか?」
うわごとのように、遠山は呟く。一ツ目草原オオザルの固い骨を砕くはもう手のひらから消えて久しい。
5匹殺した所までは覚えていたが、後は分からない。気付けばこんな風に朦朧と歩き続けていた。
「大草原が、死に場所か…… 出來ればベッドの上で死にたかったな」
赤茶の登山用パーカーのような上著、カーゴパンツに機能に秀でた加工ブーツ。
キツめのアウトドアスタイルにを包んだ遠山がブツブツと、を流しながら呟く。
遠山 鳴人は、探索者だ。
現代ダンジョン、バベルの大で仕事に従事するのを生業としている。
探索者を始めて3年。バベルの大が世界に現れるのと同時に探索者になった數ない古株の探索者だった。
「あー、クソ。せっかく上級になれたのに…… これから楽しくなる所だったのによー……」
素質はあった。生きを傷付けるのに抵抗はなかったし、鍛える事にも真摯に向き合って來た。探索の準備を怠る事もなく、己の力を過信せずに逃げる時は逃げ、生き延びて來た。
怪種を殺し、その素材を剝ぎ金にする。怪種の寶を奪い、金にする。
遠山 鳴人は探索者になってようやく、人生は割と楽しいものなんじゃないかと考えるようになっていた。
それでも、死ぬときは死ぬ。
今日がその時だ。
「どこで…… 間違えたんだ…… 俺」
眥に浮かぶのは涙。悔しさか怖さか、あるいは両方か。
依頼をけたのが間違いだったのか。
仲間を庇ったのが間違いだったのか。
仲間を作ったのが間違いだったのか。
それとも、
「探索者……なったのが間違いだったか……」
呟き、笑う。
馬鹿か、俺は。
遠山の頭の中に探索者になってからの3年が駆け巡る。
「楽しかった…… 本當に楽しかった。戦って、殺して、また戦って、殺し、殺されて……」
楽しかった、楽しかった、楽しかった。
遠山は楽しかったのだ。探索者というみどろの生き方が。何かから奪って、戦って生きる。その生き方がとても楽しかった。
まるでい頃に憧れた創作の登場人、ファンタジーに出てくる荒くれ者達、冒険者のような生き様が楽しかったのだ。
「……は、はは。次は、間違えねえ…… そうだ、戦を見直そう、早めにキリヤイバを使って…… 銃弾もケチらずに……」
頭に巡るは今回の戦闘の反省點、どこか貧乏が抜けなかった為に、切り札を使うのを躊躇った。
遠山はエリクサーは使わずに取っておくタイプの人間だった。
「あー… 次だ、次。次はもうドバドバ使お。開幕ブッパとかも、いいかな……」
ゴポリ、黒い塊のようながまろび出る。飲み込もうとしてもダメだ。に力がらない。
の力が抜けていく。
ず、ズズズズズ。
まるでがダンジョンに沈み込んでいくような錯覚。
「……ワオ、沈殿現象…… はは、絶対死ぬ奴じゃん」
錯覚ではない。
現代ダンジョンにおいて確認されている異常現象の1つ。
沈殿現象。
意味はその名の通り、その地帯が沈んで消えるのだ。
満創痍の死にかけ、もう指先しかけない遠山が靜かに、しかし確実にダンジョンへ沈んで行く。
遠山 鳴人はすら殘らない。このまま消えて行く。
遠山の意識がちぎれかけたその時、元のポケットにれていた端末が鳴り響いた。
[鳴人!! 鳴人!! 聞こえるか?! 俺だ! 今自衛軍の救援チームと合流した! 頼む、返事してくれ!!]
仲間の聲だ。
気の良い馬鹿だ。せっかく逃したのに來てどうすんだ、馬鹿。お前、來月結婚するんだろうが。
遠山は溢れる笑いを抑えなかった。
最期に、聲が聞こえてよかった。そう思った。
「鳩村…… 聞こえ、てる、無事か……」
[鳴人!! よかった……! おい、今どんな狀況だ?! 俺たちは無事だ! お前のおで、瀬奈も生きてる! 後はお前さえ生還すりゃ、大勝利なんだよ!]
「……ならいい。はは、大勝利じゃないかもしれねーが、まあ、お前らが生きてんなら、俺の勝ちだな…… 」
[おい…… 何言ってやがる?! お前今大丈夫なんだよな?! おい! 怪我は?]
端末の聲が割れて聞こえる。機械がダメになったんじゃなく自分の耳がダメになっている事に気付いた。
「鳩村…… もう、時間がない……、頼みが、あるんだ、聞いてくれ」
[な、なんだ! なんでも聞く、なんでも聞いてやるから! お前、頑張れよ!!]
「え…… 今、なんでも…? やめた…… 俺のHDにれてある蔵フォルダ…… ファンタジーコスプレモノのR18お寶畫像…… あとエルフとか吸鬼モノの薄い本、あれ処分しといて。品整理の時に恥ずかしいから…… それと、俺の異世界転生モノのなれる小説は全部お前にや……るから」
[ば、馬鹿野郎!!んなもんいらねえ!! 縁起でもねえ事言ってんじゃーー]
ブツッ。
回線が途切れる。
気付けばの半分以上が地面に沈んでいる。蟻地獄の巣の中にいるように周りの地面がすり鉢狀に沈んでいた。
「よし、これで、問題ねえ。仲間は生きてた。HDの蔵コレクションの削除も頼んだ…… なれる小説し勿ないが…… はは、俺の勝ちだな」
視界が暗くなる。
目を開けているのに、いや、目を開けている事すらわからなくなる。
今、自分がどんな狀況にいるのかも理解できなくて、無に寒くて、頼りなくて、寂しかった。
これが、死。
俺の、死。
俺の終わり。
怖くてたまらない、悔しくてたまらない。
だが、それでも最期に、遠山は笑った。
「ああ、愉しかった。また、やりたいな」
ひどい人生だったけど、最期にそう思えるのは、とても幸運な事だ。
遠山は満足げに笑ってーー
闇が
もう、何も分からない。
上級探索者、遠山鳴人の端末反応は二階層にて消失。
駆け付けた救援チームが最後の端末反応の地點を探すも、を発見出來ず。周囲には大規模な沈殿現象の痕跡有り。
の匂いに寄せられた怪種の攻撃をけ、救援チームは撤退。
後日
探索者組合より、上級探索者、遠山鳴人の捜索任務がとある探索者チームへと依頼された。
読んで頂きありがとうございます。
第二章に進行します。
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