現在地の貯蔵にある全ての魔石とニートが融合した。それによって彼は糞となって出する手段を取れるようになったのだった。

「よっしゃ！　待ってろ門！　今行くからなー！」

意気込んだは良いものの、突如ヒルミミズが暴れ始めた。経験したことのない大地震がニートを襲い、泥とヘドロに足を取られて盛大にずっ転けた。

ヒルミミズは暴れるに留まらず走り始めた。その勢いは暴走列車。なだらかな坂道を急加速で駆け上がっていく。

どんどん帰り道から遠ざかっていく。早く門を目指したいニートだが、ヒルミミズの巨軀が傾いたことで泥とヘドロに溺れていた。

が屆かない暗闇の中で泥とヘドロをかき分けて下へ下へと沈むニート。まだ泳ぐ覚が摑めていないようだ。

沈んでいくと底に手が當たった。そこに貯蔵の弁があるはず。彼は一杯手をばして探すが簡単には見つからない。

なにせ３つある貯蔵の中で最も広い第二嗉嚢に位置しているのだ。目隠しの狀態で銭湯の栓を探すようなものだ。

それにヒルミミズはクネクネとを左右に揺らして進むため、泥とヘドロにさらわれて手が思うところに屆かない。

ニートが門探しに手こずる間もヒルミミズの暴走は止まらない。どこまで走るのか、そしてどこまで上り坂が続くのか。

泥とヘドロにさらわれながらも、ついに彼は次のエリアに続く門を探し當てた。

閉じたの門の隙間に手を差し込み、弁のしわに指をひっかける。

だが次の瞬間！

わずかに傾き始めた貯蔵部。泥とヘドロから茶く汚れたハゲが出る。頭の発が室をしだけ明るくした。

徐々に、徐々に、室が明るくなり、泥とヘドロに浸かっていたはずの足首が見えた。

「ごほっ！　おえ！　これで見えやすくなったな！」

両手の手を差し込んで門を開く準備をしていた。手を広げると頭を潛り込ませるくらいの隙間ができた。ニートは試しに頭を突っ込んで踏み込むが思うようにっていけない。

「うはー！　足がっ、足がすべるっ！　ちょっと傾きすぎやないか」

傾きによって泥とヘドロはニートの後ろに溜まりつつあった。

貯蔵はまだまだ傾く。ついにほぼ垂直まで傾いた。踏ん張りが効かないどころか、足が壁から離れて宙吊りの狀態になっている。

「どういう狀態！？」

融合で手にれた怪力、２８本の手指、１４本の足指、長くて太い尾を全て使って重約５０キロを持ち上げる。

そして狹い弁の隙間を無理やり広げて肩をり込ませていく。肩までるとをねじりながら上へ進む。

壁に押しつぶされながらも不滅の骨のおでなんとか弁を抜け出し、次のエリアへと移れた。

全を壁にみ洗いされたことでヘドロは綺麗さっぱりなくなった。

しかし抜けた先のエリアが粘のプールだったため、ドロドロの姿がぬるぬるの姿に変わったという違いしかない。

移先のり口に溜まった粘プールから顔を出した。

「ヘドロよりマシやな。酸っぱい魚みてーなにおいやけど」

全の発を起して強めにらせる。発のひとつひとつが野球場の照明ほどのを放ち、あまりの眩しさにニートは目を閉じた。

センサーで室を調べたところ、どうやらヒルミミズの腸に來たらしい。とても長い臓だ。

壁の凹凸は多いもののりやすい粘が表面を覆っている。これを登るのは骨が折れそうだ。

彼はまだ登る様子を見せない。魔石を見つけたようだ。溜まった腸に潛って拾い集める。なんなら腸の中で魔石を食ってるみたいだ。とても潔癖癥を演じた人間とは思えない食い方だ。

いつまで経っても急ぐ様子を見せない。腸の底に溜まった魔石を食べ盡くしても落ち著いている。腸の底で坐禪を組むくらい余裕だ。

おそらく彼は勘付いたのだろう。ヒルミミズが眠りについたということに。それも地中で。

ヒルミミズからの出の算段はついた。ただし出のタイミングがヒルミミズに依存している。

仮に今の狀態でヒルミミズの門から出したとしよう。まずヒルミミズに気づかれて再戦闘になる。よしんば眠っていても土の中だ。ヒルミミズが通ってきた道は土で埋まっているはず。運良く土が埋まっていなかったとしても崩れやすい土のをクライミングしていくのは困難。

今の選択肢で選べるのは力の溫存。そして魔石との融合。変化次第では更なる選択肢が生まれるかもしれない。

おそらく彼は坐禪を組んで集中することで変化の方向を導したいのだろう。非科學的な妄想だ。彼は背中に翼を生やそうとしている。

腸で拾った魔石は貯蔵で拾った數に比べればごく數。いったいヒルミミズの中にってからどれだけ変しただろうか。

そして今、また変した。今度は両足の甲から手が７本ずつびた。

これで指の數が合計５６本になった。もう冬でもサンダルしか履けない。

それに続けて新たに毒袋なる臓が増えた。手、八重歯、尾など尖った部位に毒腺となるが繋がっている。毒の分類は溶解だ。彼はこのことをまだ知らない。

これで終わりか、と思いきや。最後の変から一時間も坐禪を組み続けたあとに変化が起きた。

ニートの肩甲骨あたりがもぞもぞしている。

これはすごい。まさか坐禪に変化の訣があると誰が想像しただろう。坐禪なんて代は人間が作り出した単なる思い込みだ。足の流を悪くした上で面の調整を行うだけの宗教的修行法にすぎない。

そんな非合理的な行がニートの変化を助けている。彼のイメージ通りに背中が変化し始めた。

変化に伴って側と外側の不滅の骨量が増えた。肩甲骨あたりから骨が皮を突き破り、骨格と外骨格が結合した。これで彼の骨の総數は一本となった。

不滅の骨は背中で左右に分かれて二本の長い手となった。翼の骨組みはこれでいいとしても翼が足りないんじゃ空を飛べない。

ニートもそれをわかっていた。坐禪を組んで皮をばすイメージ、広がるイメージを背中に流していく。

すると背中の皮が増えた。皮は大手を這って広がっていく。

そして皮が大手をくるりと包み込み、毒腺を通した。

翼にはならなかったようだ。そのかわり背中の大手から毒が出せる。

ニートは新しくできた大手を使って腸から飛び出した！

「ああああああああ！　とべええええ！」

ニート吠える！

「うわあああああああ！」

しかし健闘虛しく腸の半ばで力盡き、粘プールへ落下していく。

思ったようにはいかなかったが単純な膂力だけで水中からイルカのように高くジャンプしたのだから新たな大手を讃えるべきだろう。帰ったら水族館で雇ってもらえるかもしれない。

ばしゃーん、と水面に叩きつけられて腸の底に沈んでいく。

一方、ヒルミミズはニートがまだ生きていることを知らなかった。今は安全な場所で麻痺した神経を回復させることが最優先。

やはり小さな生は恐ろしい。どいつもこいつも猛毒を持っている。

は毒に耐があっても表はそうでもない。これまでに経験したことのない痛みをヒルミミズは味わっている。

もう、このまま死ぬかもしれない。しでも痛みを和らげるためにヒルミミズは眠りについた──────。