《愚者のフライングダンジョン》9-1 俺、まじおこなんだが

──〈ケー 視點〉──

どうやら俺の行はずっとモニターされていたらしい。神かな。神やろなあ。

ま、ええか。誰かと會話したのは久しぶりやな。でもこれで非対話最長記録は更新ならずか。悔しいなあ。

それよりもあれやな。ちょんまげ難すぎるな。

「神さまみとるかー! まげの結い方も教えてくれー!」

仲間にも姿は見せないって言ってたもんなあ。俺より引きこもってるわ。俺はリビングニートやしな。

あークソっ!

まげが結えないんじゃ落武者やんか。武者でもないのに落ちてんじゃん。

「ほらー! るちんちんやぞー! でてこーい!」

もしかして、モニターするのやめたんかな。いやいや、やめてないな。視線をじないけどわかる。ありゃあ研究者タイプの格だね。クイズ出すみたいに俺の知らない報をわざわざ教えてさ。テスト好きそうなじがプンプンしたもんな。ぜってえ見てくれてるよな。

「ふぁうあ。あくびが出るわ。マジでワープ裝置ないんか。どっかに隠されてないんか」

宮殿は一通り探し回ったけど手がかりがチリひとつ無え。本殿にいたクソでかいホタルのせいやな。しっかし、本殿にいたクソでかホタルのけても全然変形しとらんな、この宮殿の金屬。

「この裏に隠されてたりしねーかな。ちょっと壊してみっか」

臺座の後ろとかめっちゃ怪しいやろ。ゲームなら隠し通路があってもおかしくないぜ。

「てゅわあああああ! うおおおお! 黒紫のオーラあああああ!」

どぉん!

「いってー! かってえな……拳が割れるかと思ったぞ。でもちょっと壊れたな」

しかもこの金屬、味がするぞ。

「蜂より甘ぇ! うひゃー! もっとくれ! おっと! あぶねえ」

下から食べたら上から崩れてくるじゃん。上から食わないと………。

あーもうなくなる。腹に貯まらねーのに終わっちまう。これが最後の一欠片。

うー……満足満足!

「結構満足。マジで黒紫のオーラがあってよかったわ。こんな味しいもん見逃すところだったぜ。

……でもあれやな。ワープ裝置なかったな。隠し部屋もないしな。俺なら隠し部屋作るけどな」

宮殿の跡を見たら寂しくなってきた。宮殿がなくなったらこんなに殺風景な空間に変わっちまう。

これじゃあでっけえ壺の中みたいや。

「スマホがありゃあな。宮殿の寫真殘せたのに。もったいないことしちまったかな。ま、いいか。どうせ見返すこともないしな」

そんじゃ、戻りますか。嫌だなあ。すげえ長かったもんな。でもまあ、帰りは罠とか気にせずに行けるからいっか。

よーし。最高速度で帰るぜ。

指よし! よし! 手よし! 髪のが!

「ぶっは。髪が邪魔! マジでどうしようこれ。長いから固めないとウザいし、固めたら固めたで肩と背中に當たってウザいし。

ちょんまげやりてぇ。いや待てよ。兜っぽくならできるんじゃねえか」

とりあえず両角っぽくまとめて上にばしてみたけど邪魔だったから修正。お嬢様みたいな縦ロールにしてみたけど真ん中ハゲててキモいから修正。

最終的にコルク抜きみたいな巻きヅノで落ち著いたけど、すげえテンプレ悪魔っぽい。俺っぽくないけどしゃあない。なぜかしっくりきてしまった。

ヘアスタイルが決まったところでクラウチングスタート!

を平べったくしてクソ狹い隙間を通過!

あの時は心折れそうだったぜ! ざまぁみろ!

來るときよりも速く走行できるのが嬉しい。けどうつ伏せで走るから跳ねた土が顔に當たって痛い!

こんなの人間の走り方じゃない。ムカデの走り方だ。そんなの自覚してる。

でもこのフォームが一番速いからしょうがねえじゃん。見た目を気にして効率下げたら、行きと同じ時間がかかっちまう。だろ? 俺。

加速し始めは土が當たって痛いけど、速度がついてくると地面すれすれを飛んでるみたいで楽しいし。延々とマラソンするよりもテンション上がる。

指と手をあんまり速くかしすぎると地面を掘ってしまって空回りするから加減を間違えちゃいけない。

手の接地面をV字加工にしてみたらりにくくなったけどそれでも限界がある。

最終的にと踵の発から線を出して推進力を生み出す走行法で最速フォームが完した。

ジェットエンジンを積んだスーパーカーだぜ。

たぶんスーパーカーより俺の方がはえーけどな! 帰ったら都市高速を走ってみたいぜ!

行きは自宅から北海道まで歩いたんじゃないかってくらいクッソ時間かかったのに、帰りは多分4時間くらいしかかかってないぞ。

すげえ快適な旅だったわ。これはもう日本中俺の庭だな。

なにして遊ぼっかなあ。でもやっぱ金かかんのかな。野外スタジアムなら無料で観させてくんねーかな。青空は無料的な?

やべえ。遊び方がわかんねえな。京都いくか。

そうだ! 日本中の寺と神社を巡ってみっかな!

いや! その前に古墳行こう! 今なら空撮できるじゃん! ワクワクしてきたぞ!

……そうとなったら総當たり覚悟で帰るしかねえな。

「ん? あれ? 俺のキャンプ地になんかおるね。しかも結構おるよ。二本足やん! じゃあ人じゃん!」

あんまり発したら驚かせちゃうかな。出力下げよう。

「おーい! 助けてくれー!」

無反応だな。つーか、なんか……人にしては隨分と重そうな裝備してんな。全員フルプレートアーマー著込んでんのかよ。

まあ、ここのモンスター共は毒っ気が強いから全ガードするのが無難か。

俺もこんなじゃなきゃそーするもんな。そんなお金は無いし無理か。

俺の聲、あっちまで聞こえてねーのかな。やべーな。張してきた。

神さまとちゃんと話せたおかげでちょっと自信持てた気がしたけど、神さまはフレンドリーで話しやすかったから例外か。俺のこと詳しかったしな。

あーやっべ。そう考えたら急にめんどくさくなってきた。行きたくねえ。人と會いたくねえ。でも帰るには行くしかねえよな。大人數で來てるってことは帰る手段を持ってるってことだし。

「おーい……助けてくれー……」

無反応だな。うわー出て行きたくねえ!

なんかめっちゃ手作業で工事してるし!

なに運んでんだアレ。白い卵? 卵型弾か?

でも行くしかねえよな。あー行きたくねえ。あーめんどくせえ。

神さまみたいに上の立場の奴なら話しやすいかもしれないか。それに賭けて頼んでみっか。

「さーせーん! 責任者と話させてくださーい!」

返事がないね。あれ? みんな兜してるから聞こえないのかな?

俺のほう見て一瞬固まったけど作業再開してるし、なんかそっけない奴らだな。規則があんのかな。

「もしもーし! 責任者を出してくださーい! 助けてくださーい!」

闘技場の端っこでSOSをぶ。

いや、なんなんだよ。なんで無視できんの?

自分で言っちゃなんだけど、今の俺ってめちゃくちゃ化けだよ? 無視できる相手じゃないでしょ。

みんな同じような黒い鎧著てさ。ってかスタイリッシュな全鎧ってめちゃくちゃカッコいいな。

今の俺のじゃ著れないけどさ。つーか帰ったら服どうしよう。らないやんけ。

「カッコいいっすね。廚二心がくすぐられるっす。外國人っすか?」

背が高いの人に話しかけてみた。兜のスリットから目もとしかみえないけど人で長い黒髪が綺麗だ。

いま、目があったよね。聞こえてるよね。

あれ、なんか逃げられたんですけど。言語が通じなかったんかな。それとも俺の顔が骨剝き出しだから怖かったんかな。

まあいいや、聲をかけてまわろう。相手がしおらしいと話しかけやすいな。

……全然取り合ってくれん。

「うーん……なんでみんな逃げるんや。攻撃してこないってところにまだ救いがあるけど。ちょっと下の現場じゃ話にならねぇな」

現場監督とかいないんだな。つーか、しは不思議がれよ。化けがおんねんぞ。しは騒げって。危機ってものがないんかな。

階段を上がりながらだと闘技場がよく見えるね。

うじゃうじゃと人が労働しとるわ。はっはっは!

「さっせーん! 逃げるなよお……」

「さっせーん! あっもう……」

「さっ! あれー?」

なんか、俺の前に道ができたんだけど。進めってこと? それとも近寄りたくないだけ?

「さーせーん! あっ!」

隣にいた奴が廊下から飛び降りた!

「あっぶね! なにも落っこちるほど怖がらなくてもええやんか!

ほらもう、この手につかまりぃ。あぶないなあ。あれ、鎧著てるのに結構軽いね、へへっ」

「チュミィィィィィィィィ!!!」

「うわ! なに!?」

みんな作業やめて整列しとるやん。

なに今の。ホイッスル?

「え、通っていいんかな。なんか軍隊みたいやな。つーかの子多いな。ポリコレに配慮されてるやん。いや、男どこやねん」

みんなべっぴんさんやなあ。目もとと黒髪しかみえないけど人に違いないよ。

みんなボディラインが際立つスレンダーな鎧が似合ってる。

が見えないのにムラムラしてくるよね。

つーか結構長いな、闘技場の廊下。次までの階段が反対側なんだが。飛んでもええかな。駄目よな。相手を刺激するのは良くないわな。印象悪くなるよな。

「はあ。ストレスだわあ」

やっと最上階の4階だぜ。しかし、みんな禮儀正しいねえ。ピクリともしないよ。おでこツンツンしたくなっちゃうわ。

最上階の連中は隨分と裝備が整ってるなあ。

ってかアレ? 全部ラスボスの素材でできてるよね。俺の糸も使われてるやん。頑丈なのによく加工できたね。

俺の溶解並の化學薬品をダンジョンに持ち込んだのかな。

いやーしかし、隨分と闘技場が改造されてるなあ。ここの壁までボコボコにが空いてら。

4階のは……団子? ちょっと甘酸っぱい匂いがするね。床に直置きは衛生的にどうなんだろう。

「ん? なんで溶解トイレがここにあるんだ?

まさか……お前ら……殺したんか?

俺のマリアを」

いかんいかん。〖黒紫のオーラ〗出ちゃった。

あちゃ〜。ちょっとまずいか。空気悪くしちゃったね。

「まあまあ。矛を収めてくださいよー。ちょっとね。知り合いのところに置いてきたと似てるを見つけたんでね。おもらししちゃったんすよ。さーせんさーせん」

まあ、こっちは〖黒紫のオーラ〗を解くつもりないがね。

いざという時はちゃちゃっとやっちゃうよ。腹が立ってっから。

みんな矛を収める気配が全くないから、脅すつもりでその間をゆっくりと歩いてやった。

そしたら黒い鎧が並ぶ中でたった一人だけ白黒の鎧を著てる奴がおった。変わった奴をみるとからかいたくなるわけよ。

ちょっとビビらせてやったら槍を刺してきた。

でも〖黒紫のオーラ〗は貫通できないってわけよ。

今の槍はラスボスの甲殻から作られたっぽい。味がそれっぽかった。

「お、どうした。やんのか? 喧嘩しないほうがのためだぜ」

「チュミィィィィィィィィ!」

またホイッスルだ。槍を失った娘は配置に戻って知らんぷりした。たぶんお前が怒られたんだぜ。

ホイッスルの出所が責任者の場所なんだろうな。

「あれ……マリア……マリアじゃん」

闘技場の4階奧に空けられた。そこに以前と同じ白い姿のマリアがいた。

でも別れた頃より尾が長くて大きい。

ってことはだよ。いっぱい子どもを産んだってことだよね。

なるほどね。ここの娘連中はみんなマリアの子ってわけ?

でもアリがメスガキを産むには尾がいるやんけ。

ってことはだよ。俺の嫁がどっかのオスに寢取られたってわけ?

まあ、十中八九それは俺の息子イエス(無卵)だろうけど。

なんか、わかってたのにすげー嫌な気分。俺って寢取られの素質あったんだ。

「よ、よおマリア。ご無沙汰。

いっぱい家族増えたなぁ。やったね。すごいね。みんな長が早いじゃん。ところでイエスはどこだ」

まあ、わかってたけど無反応やな。でも襲ってこないし、俺のことはわかってる気がする。マリアがなにを考えてるかわからんから本當はどうか知らんけど。

のっしのっし、と結構重めな足音が近づいてきた。

なんだぁテメェ? ずいぶん重厚な鎧を著てるなあ。しかもでけぇ。近衛兵かな?

あの近衛兵、マリアの尾持ってなにやってんだろう。

あれー? ちょっとー……?

もしかして今、目の前でやっちゃってるー?

尾やっちゃってるー?

じゃあ、あのデカブツはオスか。アリのオスが生きてるなんて珍しいな。尾したオスは用済みでバラバラにされるのが一般的なのに。

でもよく考えたら小柄なマリアが沢山の子を産むには沢山の子が必要になるから生きてるのは當然といえば當然か。

でもそれにしては他のオスが見當たらないな。もしかして、デカブツが來た方向に散したゴミの山が全部オスか?

あれ。なんか、見覚えのある赤ん坊の首が飾られてるけど……。

あれ? 息子じゃね。俺のイエスじゃね?

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