《愚者のフライングダンジョン》9-5 俺、まじおこなんだが

いやー。やっぱ翼生やしてよかったぜ。いちいち階段を降りなくて済むわ。覚悟なしに4階から飛び降りるのはちょっと怖(こえ)ぇーけど。

サプライズだから例の通路でやろう。糸で口を塞いで向こうから見えないようにしてさ。

よし、じゃあ作業にとりかかるか。

まずは手の先っちょのを接著で塞いで、糸で結んで、二重に塞ぐじゃん。

いったん皮したら抜け殻を溶解で満たして、大きな割れ目を塞いだら完

溶解タンクのできあがり!

同じように神経毒タンクと粘著タンクを作って、これらを10個ずつでいいか。

あとは俺の糸玉を……そうだな。一般的な量でいいか。1000メートルだっけ。

それを指28本、小手28本、大手8本、尾1本だから…………

計65個分の糸玉を一気に作れるね。

この糸を何に巻き付けよう。歯でいいか。歯をばして、一気に本から取って、1回で34本か。

65個には足りないからもう一回やな。けっこう痛えなこれ。

よし、これで68本。

3本だけ歯が余ったけど長く鋭くしたから解ナイフとしても使えるぜ。

ナイフよりノコのほうがよかったか?

持ち手の部分と一緒に変形させてやっとくか。から分離しても変形させられるんか。便利やなこれ。

よし! 完璧! 一つは俺の分にしよう。腰に糸で巻き付けとくか。

あとは武と防やな。マリアのために一個ずつ作ろう。

はスーツにするか。じゃあマリアの型よりし大きめに変して、マリアの尾部分は大きめに調整して。うん。いいじ。

はやっぱ歯で作るしかないよな。手は取れないし。

けっこう痛いんだよなこれ。まあ我慢だ。

どうせなら八重歯で2本分作るか。そういえば、好戦的な槍使いがいたなあ。あれを真似て毒を流し込むとか作ってみる?

いや、使用者が危ねえか。

「おお! けっこう長くなるな俺の八重歯! これを変形させてー」

がいいよな。マリアはけないし。

「よし! 薙刀っぽくなった! これならけないマリアでもを守るくらいには扱えるやろ!」

これやったらみんな喜ぶぜ。まあ無反応だろうけど。

よーし。じゃあ順番に4階まで持っていくか!

まずは武と防やな!

「マーリア! サプラーイズ! どうよ。これ、俺からの贈りだぜ。うん。寢てるな。とりあえず著せとくか」

おー、似合ってんじゃん。もバッチリだから著せやすかったな。背中の糸を締めて完璧!

抜け殻って後から変形させられるんやな。ぐときに破れる時點で気付くべきやった。あとで3種の毒タンクを修正しとこ。

「なんか、サンタクロースになった気分やな。外はどうなってんのやろう。もうクリスマス過ぎてんのかな。今日やったら最高やな。人とクリスマスを過ごすとか初めてやんか」

せっかくのクリスマス気分やし、薙刀にリボン付けとくか。リボンはどうやってつくるんだ?

「俺の髪のって取れるんかな。神様のご褒なんだから俺の歯より萬能なはずや。おらっ!」

ぶちぶちぃ!

「おお! 抜ける! そして生える! さすが神様のご褒!」

これでリボンをつくるんよ。神様がくれた髪のって抜いたあともかせるんやな。さすがや。

悪魔の角になるように髪のを戻して作業開始。急にヘアスタイル変えたらびっくりされるかもしれんしな。

でもまあ、間男と戦ってるとき俺のが変幻自在にびたりんだりしてるところは見てるだろう。

今の俺は間男と同じ4メートルの型やし、今更ヘアスタイル変えたところでおどろきはせんか。マリアは大きい俺と元の俺のどっちが好みなんやろうか。

気にしても仕方ないか。ほんじゃ、通路に戻って毒タンクを修正したらマリアの部屋に運びますか。

それが終わったら出て行こう。言語がわからんなら使い方とか教えられねえし。思ったより賢いから有効に使うだろ。

「おし、これで最後の毒タンクだ。容の蛇口チェック、ヨシ!」

予備の薙刀と八重歯のノコギリはこっちに並べといて、糸玉はマリアの薙刀の隣に置いておくか。

「じゃあな、マリア。また會う日まで生きててくれよ」

寢ているマリアのおでこにキスしてドラマチックに去る。これが男のロマンってやつよ。

4階の吹き抜けから翼を広げてジャンプ。作業を邪魔しないようにしないとな。

「チュミイイイイイイ!!」

うお! なんだ!?

なんか働きアリたちが整列してるぞ。見たことあるなこの景。

「マリアが起きたか。もしかして、見送ってくれてんの?」

ガヤガヤ、ガヤガヤ。

なにやら4階でめ事が起きてるみたいなんだけど。大丈夫か。

「チュミイイ!」

「チュリチュ! チュリチュリ!」

「チュミ、チュー、チュミミン!」

「チューチーチュ! チュチチチュ!」

なんか喧嘩してるように聞こえるんだが。マリアと娘の誰かが。

「え、もしかしてマリアが會話してんの? 俺とはコミュニケーション取らなかったじゃん」

ん? なんや?

4階からこっちに飛んでくるぞ。あの娘、作ったばっかの薙刀持ってね?

あ、よかった。予備の方だ。

あの娘のことはよく覚えてる。働きアリの中で唯一目立つ白黒の鎧を著た娘。ちょっとからかったら槍で刺してきた奴だ。俺のに十文字の傷をつけた娘だ。の傷は殘ってないけど記憶には殘ってる。

「なんだぁ。薙刀をマリアから貰ったのか?」

「チュリ!」

カシャンと薙刀を構える白黒娘。やる気か?

つーか、なにこの子、武を構えた立ち姿がどうして様になってんの。前世は武士か?

「お、どうした。やんのかコラ。こいオラ。手加減してやるぜ」

「シャッ!」

息を吐き出すと同時に踏み込むとか、薙刀の名人か?

しかも突き技から來るとか。こいつ相當殺意が高いぜ。

「危ねえから!」

飛ぶときには重落としてるけど、戦闘時にはとりあえず重を増やすことを心がけよう。

王様との戦いでに染みて重量の大切さを學んだからな。

あと表の度もあげよう。普段のままでも怪我はしねぇけど痛いんだよね。

「シャッ!」

初太刀は外したけど、即座に返す刀で二の太刀がきた。足捌きが上手い。

こいつ、モンスターのくせに武の基本をにつけてんだ。えらいね。

「危ねえから! いったん止めるぜ!」

俺の歯から作った薙刀だから怪我しそうだし、素手で止めるのはちょっと怖かった。でもなんとか斬られずに止めたぞ。

を叩き落としてもよかったけど怪我させたくないからな。

薙刀を封じたことだし、糸で捕縛しますか。

「シャッ!」

「あっぶね!」

薙刀捨てて八重歯ノコで刺してきやがった!

どこの流派で習ったのよ。こんなエグい技。

手があって本當に良かった。これがなきゃ、あとほんのしのところで刺さってた。

死にはしないだろうけど絶対痛いもんな。

「おめー。名前は?」

「チュリー!」

「そうか、チェリーね。なんか親近が湧くなあ。俺はチェリーボーイだからさ」

「チュリー!」

ブゥン!

うわ。蹴りを放ってきた。

「どうしたのぉ。喧嘩っ早いなおめー。なんたって俺を殺そうとすんだ。俺がナニしたって言うんだ!」

「シャッ!」

ブゥン!

危ねえな。蹴りも鋭いし、武蕓全般が得意分野かい。天才か。

「チュミイイイイイイ! チュリーイイ!」

「おいチェリー! マリアがなんか言ってるぞ」

「チュリイイ! チュリティイチュ!」

「チュミイイ! チュリーチュミイイ!」

「チュリ……」

チェリーがあからさまに落ち込んで闘志を無くしとる。泣くな泣くな。

「お、どうしたチェリー。急に大人しくなって」

捕縛中の手をポンポンと叩かれた。まるで降參のジェスチャーのようだ。

「なんだなんだ。離せってか。けっこう意思疎通できてるなチェリー。天才か」

手を離したらチェリーが矛を収めた。まじで頭がいいらしい。

マリアとの間でどんな話がわされたのかわからんけど、チェリーはもう俺の方を見ていない。

「チュリイイイイイイイ!」

「チュミイイイイイイイ!」

「「「カチカチカチカチ」」」

アリたちの大合唱だ。大合唱は俺たちに向けられている。どういうことだ。わからん。

働きアリの大合唱が延々と続く。チェリーは闘技場り口に背を向けたままこうとしない。

チェリーはかず、大合唱も止まない。

「「「カチカチカチカチ」」」

いつまで続けさせんだ。働きアリの顎が外れるぞ。

「ああ! もしかしてそういうこと?

俺への見送りの挨拶やったとね! さーせんさーせん。今出ていくって。あばよみんな。じゃあなチェリー。また會いに來るぜマリアあああ!」

マリアのコロニーと化した闘技場から出るとアリの大合唱が止んだ。そして、代わりに後ろから足音が聞こえるようになった。

あれれ。もしかしてチェリーがついてきてません?

センサーは信頼してる。でも確認のために立ち止まって振り返ってみると、目つきの悪い娘が俺を追い抜いていった。

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