《愚者のフライングダンジョン》11-2 俺、辿るロープ

たぶん地上で何かあったんだろうなぁ。婆ちゃん大丈夫かなぁ。

でもどうして一人なんだろう。俺を探しに來たんなら來たで一人でいるのはおかしいでしょ。

「あ、あのー、ひ、ひとりでここまで來たんすか?」

「ついてこないでください。話しかけないでください。人間ならそうします」

確かに! 質問を口にするのは人として失格の行為だ! どうかしてたぜ。

ガッガッ、と大質量で地面を均しながら歩く。まだまだ平坦な道が続いてるな。もうずいぶんと歩いたのにのぼり坂が來ない。

しかし靜かな人だな。足音がぜんぜんしないし、農を改造したような武に加え、刀を抱えてるのに姿勢が良い。

つーか、刀が抜きだと危ねえなあ。

「剝き出しの刃が當たったら危ないんで、鞘つくったんで、どうぞ。腰に巻いて、どうぞ」

帯にするか下緒にするか迷ったけど、下緒にしておいた。俺の糸は々使えて有能やしな。太くて短い帯より細くて長い下緒がいい。

「あ、どうも。え、つくったって。

……噓、ぴったり合う。この力はいったい。あなたは人の記憶を盜むモンスターですか」

「どちらかっちゅーと、モンスター化した人ですねぇ。生きていくにはモンスター食うしか無いんで。食ってるうちにこうなっちやったみたいな。まあおかげで裏ボス倒せたんすけど」

「急に饒舌になりましたね。いいでしょう。まだ信用したわけではありませんがしおしゃべりしましょうか。

そうですね。あなたの事が知りたいので質問に答えてくれますか?」

「うす。全部しゃべりまっせ」

「じゃあ、ひとつ目。どうしてあなたはダンジョンにろうと思ったんですか?」

「そうっすね長くなるけど……」

過去を振り返りながら支離滅裂に語った。何度も何度も修正をお願いされるから思ったよりもかなり時間がかかった。

でもそのおかげでお喋りスキルが矯正されたと思う。主語を付ける意識と余計な枕詞と誇張は付けない意識を持てるようになったよ。たぶん今だけやけど。

「なるほど。もう一度整理して話してください。功談は全部省いていいです。フローチャートにするイメージでお願いします」

「祖母の倉庫に大。安全確認から帰還。翌日に本格的な探索を開始。ボス部屋にてゲジゲジと戦。戦闘終了後に出口を見失う。通路で超巨大なミミズに敗北。ミミズのに長期間寄生して怪化。ミミズの死亡後、巨大アリの巣を殲滅。マリアと長期間の共同生活を送る」

「マリアじゃないでしょう。ちゃんと説明してください」

「擬人化したアリの王マリアと共同生活を長期間送る。離別後正規ルートを発見。先へ進み巨大ムカデのボスを討伐。ラスボス部屋の闘技場に到達。ラスボスと戦闘終了後、長期間のキャンプでラスボスを食べ盡くしてから謎の通路に挑戦。長期間かけて謎の通路を踏破。謎の通路は人間の攻略を想定していないものでした」

「謎の通路の詳細を明らかにしてください」

「謎の通路のり口はラスボスの糸で詰まっており重機を持ち込まない限り進行は不可。進むにつれて空気が無くなるため酸素ボンベが必要。ボンベの必要量は車ならなく見積もって10日分、歩きなら1ヶ月分以上。道中にモンスターはおらず代わりに試練がある。水中を數日進み、視界が悪い煙の中を數日進み、灼熱空間を數日進み、無重力空間を數日進み、凍結の道を數日進む。その後、子どもひとり分しかない隙間を這って抜けて裏ボス部屋に到著」

「ラスボスは昆蟲を合したような見た目と言っていましたね。裏ボス部屋は黃金の宮殿だとも。裏ボスはどんな姿でしたか」

「裏ボスはホタル。ほら、天井にいるやつと同じや。これのめっちゃデカいやつでパーッと発すんのよ。とてつもない放線量でねえ。ありゃあ核発やね」

「それをどうやって耐えたんですか」

「その時にはもうね、熱いの大丈夫やったから。ただほとんどけんからどうやって倒そうと思ってね。さてここで問題、この時俺はどうやって裏ボスを倒したでしょうか!」

「石を投げた」「ぶー。宮殿に持てるはありませーん」

「飛んで毆った」「ぶー。上から圧力がかけられていて翼が広がりませーん」

「その手をばした」「ぶー。その時はそんなに長くびませーん」

「どうやって倒したんですか?」

「正解はー。『放線を食べる』でしたー。どのくらい食い続けたか忘れたけど、たぶん10日以上はそのまま食べ続けたね。そしたら向こうが勝手に力盡きたんよ。ほんで、」

『それ以降は話すな。この私と神鏡のことはにしろ』

「うわ! どこ! ちょんまげの結い方教えて!」

『今、あなたの脳に直接語りかけています』

「急にどうしたんですか。続きを話しなさい」

「いいからちょんまげ教えてよ!」

『口止め料がそれなら安いものだが、web検索すればわかる程度の願いを葉えるのは神の矜恃に傷がつく。願いポイントストックだ。この私にしかできないことを次までに考えておけ』

「いや、なら別ににしなくていいんやけど。さーせんさーせん、ちょっと幻聴が聞こえとった。ほんで、ホタルを倒したら⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎たんよ」

「は? ふざけてるんですか?」

「いやいや噓やないって、本當の話やからね。この髪のも⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎やし」

ずっと背中しか見せなかったのに振り返ってくれた。やっぱかわいい。もう惚れた。

「もう一度、裏ボスのところから同じ話をしてください。チャートをイメージして」

「お、おう。裏ボス部屋に到著。黃金の宮殿を確認。回廊の天井に張り付いた巨大ホタルを逐次討伐。本殿にて裏ボスの超巨大ホタルと長期間戦闘ののち勝利。⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎。黃金の宮殿を食べて帰る。ラスボス部屋の闘技場にアリの巣が新たに出現。そこはマリア、共同生活していた蟻の王マリアのコロニーだった。コロニーをチェリーという名前の擬人化アリと出る。ボス部屋を渡り歩き、巨大な蟻塚を発見。チェリーを蟻塚に置いて出発。ビニール紐を発見。現在に至る」

「途中、時が止まったようにかなくなりましたけど。気付いてますか?」

「へ? あ、まさか。⬜︎⬜︎のとこ? ⬜︎⬜︎のとこが聞こえなくなってる?」

「"のとこ"って誰ですか?」

「いや知らん。のとこって誰?」

神様のせいなのね。そうなのね。

「あー……裏ボスの後のこと言いたいけど言えないっぽいんで言いませんわ。まあ、そんなに大したことないんで気にしなくていいっすよ」

「そうですか。気になりますが詮索しないでおきます。ただならぬ力が働いたように見えたので」

はそれだけ言うとまた背を向けて歩き出した。進むにつれて彼の片足が重くなってる。足を怪我しているみたいだ。

つーか、俺のことばっかり聞いて自分のこと全然話してくれないやん。名前も知らんぞ。これ會話じゃなくね。今更やけどこれ尋問やな。

「うっわあ! きたー! 俺ここ知ってるよー!」

ここは初めてヒルミミズと出會った場所だ。壊れた備中鍬が地面に埋れてる。

「ウエストポーチは回収されています。中の包丁も無事だったみたいですよ」

「あざっす」

「いえ、私にお禮を言われても困ります。先を急ぎましょう」

先を急ぐって、俺のこと認めてくれたんか。最初はついてくるなって言ってたのに。ツンデレか?

ツンデレめっちゃ好きよ。アニメキャラならね。

続いてゲジゲジのボス部屋だ。懐かしい。見たじボスは無限湧きじゃなさそうだ。隣りあった通路から強力な奴が流れ込んでくる形か。

ひとまわり小さいヒルミミズの死骸や巨大な芋蟲の死骸が部屋の隅に寄せられている。俺が知らない死骸だ。たぶんゲジゲジの後任ボスだと思う。ゲジゲジに比べると弱そう。

「黒紫線!」びびびー。

部屋のお掃除をかねて団子を回収しておく。ボス級の団子は格別だ。

「な、なんですかそれ……手から……」

「うん。味い。団子以外の味は最悪やけど」

「そ、その手から出たのはなんなんですか!」

「手以外からも出るぜ。ほら、手からも尾からも発からも全から出るぜ」

「魔法……ってやつですか?」

わからん。破壊線は魔法って言ってたけど、黒紫のオーラも魔法なんかな。

「わからん。⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎やけど、黒紫のオーラも魔法なんかな」

「あなた今、また止まりましたよ」

「え、本當? 基準がよくわからんなあ」

「やっぱり何かがあったんですね。このダンジョンはどこか他のと違っておかしな所が多すぎる」

「おおっ! きたああああああ! ホタルがいない通路きたあああああ!」

「あなたがもしこのダンジョンのモンスターなら先へは行けませんよ」

「……へ?」

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