《愚者のフライングダンジョン》12-2 ニート、家に帰ろう
「とーちゃーく! やーっと帰って來れたぜえ!」
外は明るく、真上に太がある。久々の青空に手をばしてグッと背びをした。
帰り道で思い出話という事聴取は済ませている。逆にケーちゃんは現在の社會勢を知らない。どれほど時間が経ったのかは自分で調べると言って耳を塞いだ。
日のに當たると怪が増す。外の人に見られたら通報ものだがケーちゃんは気にしない。彼の恥心は壊れている。布一枚付けていないのに間が隠れていれば問題ないという考えのもと畑の様子を見に行った。
「うわぁ。想像通りのボーボーやんけー」
一切手をつけられていない畑は枯れた野菜と高くびた雑草で埋まっていた。
前腕をL字にしたケーちゃんは破壊線を撃つ素振りを見せる。が、撃たなかった。一歩手前で我慢した。畑を放能で汚染するわけにはいかないと気づいたようだ。彼の力はダンジョンでは有用に使えてもリアルでは使いにくい能力のオンパレード。
諦め切れないケーちゃんは溶解をばら撒いて畑一帯をドロドロにした。有害無害関係なく微生まで死に絶える。地獄のようなニオイが畑から湧き上がるようになった。
「よし。すっきりしたぜ」
「えー。すごいなー。これが溶解ってやつ?」
「う、うす」
「屋に行こうか。サツキさんも待ってると思うよー」
「うす!」
監視するようにケーちゃんの後ろをついて回るヤヨイ。表には出さないが心は相當怯えている。彼の機嫌を損ねるのがどれだけ危ないか一連の作を見て推論を立てた。
(さっき畑を殺す前に何をしようとしたのよ。予備作が想像通りの構えなら畑を焼くつもりだった?
この人、後先考えなさすぎじゃないの。全部気分で決めてる?)
ケーちゃんとヤヨイが家に向かう前に、家の方からが足を引きずりながら走ってきた。ウヅキだ。
「せんぱーい!」
ウヅキはヤヨイのに飛び込み、互いに熱く抱きしめ合った。
「ウヅキー、あんた、ひとりで私たちを探してたみたいじゃないの」
「約束破ってごめんなさい。私、せんぱいがいないのが怖かったんです。どうしても諦めきれなくて……
だから、ひとりでダンジョンに潛っちゃいました」
「ったくもー。ありがと……あっ…」
「せんぱい?」
ヤヨイは聲だけでケーちゃんの心に気づいていた。そして、たとえくてわかりづらくてもケーちゃんには表がある。いつもヘラヘラして緩んでいる目元がを無くして真顔になっている。
ヤヨイとウヅキは固い絆で結ばれた人同士だ。同時にケーちゃんの脅威を知る者同士でもある。
ヤヨイはもう一度熱く抱きしめ、ウヅキの耳元で囁いた。
「ごめんウヅキ、ケーちゃんにもハグしてやって」
「なんでですか」
「彼、多分あんたに嫉妬してる。チラッと見てみて」
ケーちゃんの表は暗い。ボーっと口を開けて目が逝ってる。
「やばそうです。マジでゲロ吐く5秒前ってじです」
「とにかく今は従って、お願い」
「はい……」
離れたウヅキは笑顔に変えて……。
ケーちゃんのに飛び込んでいった。長はウヅキの方が若干高いためし屈んで抱きしめる。
「ありがとう。先輩を助けてくれて。ケーちゃんのこと信じてよかった」
「うす! ぜんぜん! 助かったのはみんなのおかげっす! あざっす!」
効き目抜群! 絶好調! ケーちゃんってばすっごい単純!
「頼りになるなー。これからもよろしくねー」
「うす! こちらこそ!」
なんとかケーちゃんのハートを傷つけずに修羅場を切り抜けたヤヨイとウヅキ。
両側から彼を挾んで建に連行する。3人はいまだに道路から見える位置にいる。即時ケーちゃんの隠蔽に移らなければ面倒ごとが増える。
「ほらケーちゃん! ニュースがありよるよ! みなくていいのかい!?」
「その前に自分家でシャワー浴びてくるわ。土足やし」
「「「ダメ!」」」
「裏庭なら囲いで隠せる。ホースで水浴びしな。2人に頼んでもいいかい?」
「はい。ケーちゃん、こっちに來てください」
「で、でも靴下がないけん……あがれない」
「ビニール袋持ってきたよー」
「でかした! ほら、これを靴の代わりに履いたらいいでしょう」
現世に戻ると潔癖癥まで演じ始めたのか。
ケーちゃんは嫌々と冷たい水を浴び、お縁の掃き出し窓の前でビニール袋をいで上がった。手間のかかる怪である。
和室だった部屋は改造農や弾が並ぶ武庫に変わっていた。笑顔な老夫の寫真が飾られた仏壇にはダイナマイトが供えられている。
隣り合わせの居間ではワイドショーが流れていた。テレビにコメンテーターたちが映り、専門的な分野に口を挾んでいる。素人目な意見にも専門家はしっかりけ答えする。これも大事なエンターテインメントだ。
「へえ。他にもダンジョンあるんやなあ。もしかして俺って最初のダンジョン攻略者だったりする!?」
「そうですね。ダンジョンが一般開放されていない日本は探索が海外に比べて遅れています。しかし世界初の完全攻略者は日本から出たことになりますね。表沙汰にはできませんが」
「テレビに出れるなあ。うわあ、なんてコメントしよう……」
「だから表沙汰にはできませんってば。日本は一般開放せずに行政機関が管理しているんです。なのに一般人からダンジョンクリア者が出たらおかしいでしょう」
「え、でも婆ちゃんは」
「倉庫のダンジョンはです。これはサツキさんも同意しています。ケーちゃんもを守ってください。いずれ報告しますが、今はまだ倉庫のダンジョンを知られるわけにはいかないんです」
「ほうほう。なるほど、そういうことっすね。そういうことなら俺もを守るっす」
(そういうことって、どういうことですか。なにか変な思い込みをしてそうなんですけど)
の約束に同意をして、今後ケーちゃんは関係者以外に姿を見せない約束まで結ばされた。
ケーちゃんの存在が明るみになれば、世間はダンジョンモンスターのスタンピードを疑うことになる。スタンピードは世界中のどこでもまだ起きていない。こんな怪が街を歩いていたら混は必至だろう。
ケーちゃんの今後の住処については祖母の家が第一候補に上がった。しかし、彼はこれを拒否。帰宅したいと3人に進言した。
「まず貓に會いたいやんか。スマホがないやんか。パソコンがないやんか。ゲームがないやんか。枕がいるやんか。家のベッドで寢たいやんか」
はやくも約束を破りそうな雰囲気が出ている。
ケーちゃん抜きで會議が行われた結果、助っ人を呼ぶことになった。
広い前庭にミニバンがってくる。たまたま今日が休日で來るのが早かった。車から降りてきたのはケーちゃんの家族。
彼の家族はサツキと定期的に會っていたため、行方不明の屆け出を出す前からサツキの変貌を知っている。しかし、それがレベルアップによるものとは知らない。
電話での連絡はせずにサツキが口頭で伝えてきたため、車からサツキも一緒に降りてきた。その肩にゲーミングチェアを擔ぎながら。
他にも折りたたみベッドやゲーミングモニターも重い荷は全て最年長のサツキが一人で運び込んでいる。
優しいケーちゃんは手伝おうと立ち上がったがすぐに座らされた。現在、彼の重は10キロ。すぐに抑えつけられるように重を減らせと頼まれたのだ。
「ケーちゃんおるのー?」
「ニャー」「ニャー」
「おーるよ」
両親は玄関で泣き崩れた。人目を憚(はばか)らず大聲で泣いた。
最初は祖母に任せておきながら、我慢に耐えきれず行方不明屆を出して半年以上が経った。
ほぼ1年間も行方不明だった息子の聲が返ってきてよほど嬉しかったのだろう。こんな家庭がニートを養っている。
ケーちゃんの家族は玄関先で止められていた。欠損もなく五満足で無事だと伝えられているが會えない理由は話されていない。顔を見たい気持ちはあるが、最大の恩人の頼みは斷れないと言い聞かせて玄関で踏みとどまっている。
「なんか窮屈やなあ。団子食いたい」
「かないでください。見つかったらどうするんですか」
「うーん。そうだ! 見つからなきゃええんやろ」
発からびたる手がお縁の掃き出し窓から出て行った。
「ちょっと! なにしてるんですか!」
「釣り」
る手は猛スピードでダンジョンをくだり、行ったことのない分岐路からボス部屋に侵する。手はなんの罪もない甲蟲の頭を貫いて魔石を絡めとった。
殘った死骸は黒紫線で処理される。もったいない神だ。
「お、1個ゲットー。何個食べよう。せっかくやしみんなの分だけ取るかあ」
手は雑魚モンスターを無視して未知のボス部屋を漁っていった。分枝した手がきっちり8人分の魔石を持ったまま戻ってくる。
「ほら、味しい団子だぜ。みんなの分もあるよ」
ケーちゃんはそう言ってウヅキに魔石を見せつけた。
魔石は猛毒だ。口にれるくらいなら大丈夫だが全て消化すれば半日で絶命する。それはモンスターでも同じこと。
ケーちゃんは好意からその危険を譲ろうとするがウヅキはけ取らない。何を言っても拒むため、ヤヨイに押しつけて家族に渡してもらった。
ケーちゃんはしっかり「団子」と伝えてヤヨイに渡したが、気持ちだけけ取って全て返卻された。
當然の対応である。生としての本能が魔石を拒否するのだ。
手元に返ってきた7つの魔石を彼は味しそうに食べている。これが強さの訣だが真似する者が現れたら大変な恨みを買うことになるだろう。
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【書籍化&コミカライズ決定!!】 アルバート・ヴァレスタインに授けられたのは、世界唯一の【全自動レベルアップ】スキルだった―― それはなにもしなくても自動的に経験値が溜まり、超高速でレベルアップしていく最強スキルである。 だがこの世界において、レベルという概念は存在しない。當の本人はもちろん、周囲の人間にもスキル內容がわからず―― 「使い方もわからない役立たず」という理由から、外れスキル認定されるのだった。 そんなアルバートに襲いかかる、何體もの難敵たち。 だがアルバート自身には戦闘経験がないため、デコピン一発で倒れていく強敵たちを「ただのザコ」としか思えない。 そうして無自覚に無雙を繰り広げながら、なんと王女様をも助け出してしまい――? これは、のんびり気ままに生きていたらいつの間にか世界を救ってしまっていた、ひとりの若者の物語である――!
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