《愚者のフライングダンジョン》12-3 ニート、家に帰ろう

ウヅキはケーちゃんの生態を解明するために映像の記録を忘れない。ヤヨイはこれらの報をまとめて上に掛け合うつもりでいるようだ。

番勤務をごまかしながらダンジョン探索を続けてきたヤヨイとウヅキだが、本格的に空対策課への異を考えて行に移っている。警察庁次長であるウヅキの父親から推薦してもらうつもりらしい。コネだけではまわりから反を買うのは必然。今後のためにヤヨイは上に実績を捧げて推薦狀を出させる算段でいる。実に政治力が高いである。

そんなたちにケーちゃんはさっそく利用されるようだ。

今夜、倉庫ダンジョンの存在が警察庁に伝わる。詳細は警察庁次長に送られ、後日ウヅキとヤヨイの二人は空対策課に配屬されることになった。引き続き、ケーちゃんの監視役に任命される。

ケーちゃんがダンジョンから出てきて數日が経った。

數日の間、何をしていたかというと晝間は買い溜めされていた週刊年誌を読んだり、まとめサイトを遡(さかのぼ)ってニュースを読む日々を送っていた。なにせ1年間の空白だ。半年程度だと思っていたケーちゃんは仰天した。ニートの時計は當てにならない。

深夜には1年の間に放送されたアニメの続編を違法視聴したり、毎週立ち読みする漫畫を違法サイトで閲覧したり、見たかった映畫を有料サイトで視聴したりしていた。

ケーちゃんはベッドを所したにも関わらず一度も睡眠を取っていない。尾と手で軽いを支えるため、ゲーミングチェアも使っていない。せっかく運んでもらったのにほとんどの家は片付けられていた。

家の中ではそんな不摂生な生活を送りつつもダンジョンには通っているようだ。気分転換にボス部屋へ遊びに行ったり、元旦那コロニーから居なくなっていたチェリーを見つけてベロチューすることを気晴らしにした。チェリーは新しいコロニーの王になっていた。人もモンスターもみんな生活様式が変化している。

ケーちゃんを迷子にして苦しめたダンジョンは今や彼の庭だ。いや、畑か。

そんな充実した日々は唐突に変わる。たった1つの投稿によって……。

{あれ、UFOかな?}

大手SNSサイトに投稿されたつぶやきには議を醸(かも)す映像が添付(てんぷ)されていた。

『あー、ほらみてみてー。なんか飛んでるよー。なんだろー』

『なんでしょうね。もしかしたらUFOかもしれないですー』

上空を八の字に飛び回る白い。すると次の瞬間。

『あー! 消えた!』

『消えましたねー』

映像はここで終了している。

突如現れた謎の白い。連投された投稿者のつぶやきによると白いは撮影開始前から數分ほど飛び回っていたらしい。

その映像を見た他のユーザーからはこんな聲も。

{すごーい。こんな高畫質のCGはじめてみたー}

{これってうちの地域じゃないか?}

{本當にCGなの? 投稿者さん! 真実を話して!}

番組側がお願いし、映像を見た宇宙理學に詳しい京都大學大學院の名譽教授はこう話す。

『これはUFOではありませんよ。投稿された映像を解析したところ、これはUFOというよりUMAといったところでしょうか。

低空を飛行していますし、が消える瞬間、しっかり翼をたたんで急降下していますよね。コウモリに似ていますが、これほどを放つ生は初めて見ましたよ』

映像が撮影された地域住民の反応は……

とあるがインタビューに答えてくれた。

〈この辺りでる人型のUMAが撮影されたという話はご存知ですか?〉

『大騒ぎだよ。近所の人たちもみんなUMAを探し回っとるし、いい迷さね』

〈UMAを見つけた方に賞金が出るそうですが、お母さんはご參加されないんですか?〉

『しないよ。馬鹿馬鹿しい。子どものイベントに大人が挑んでどうすんだい。みっともない』

〈すごく鍛えてらっしゃいますが、お母さんの年齢をお聞きしてもよろしいでしょうか?〉

『もうすぐ90だね』

UFO・UMAの話題をかき消す勢いでトレンド1位を獨占する『#妖怪筋婆さん』。のちに今年のトレンドワード大賞を賞する『〜どうすんだい。みっともない』はここで生まれた。

複數の意味で報道陣がとある地域に押し寄せた。

しかしもとを辿れば一つの家に繋がる。それを知っているのは警察庁の幹部と関係者のみ。

この投稿・発案者はヤヨイだ。彼はケーちゃんを安全な方法で世に解放するつもりだった。そのために空対策課の上司にかけ合い、トップの連中を巻き込んで話を進めた。

その甲斐あってすでにケーちゃんは警察庁のブラックリストりしていた。警察庁警備局から數名の公安警察が派遣され、周辺のアパートを借りて常に警戒を敷いている。

ケーちゃんはそのことに気づいていないし、気づいたところで行は変えない。

投稿が始まる以前、ヤヨイとウヅキはすでにケーちゃんが引きこもりの限界を迎えていると察していた。最初は泊まり込むこともなかったのに、最近は代しながらヤヨイかウヅキのどちらか片方が常にケーちゃんの側(そば)で監視している。

ケーちゃんはリビングニート。コミュ癥&労働をしないだけで外に出たがりな人間を持つ。

彼の深夜外出の頻度が増えたことを敷地に設置された複數の監視カメラが教えてくれた。

監視カメラの設置についてはサツキの許可を取っており、その映像は警戒態勢を敷く公安にも共有されている。

公安では違法ダウンロードでケーちゃんを摘発して刑務所で監視を継続するという話が出始めていた。

ヤヨイはこれに反対。好意からではなく純粋に危険だからという理由である。ケーちゃんの異常は刑務所に収まらないという判斷だった。

その理由の一つに団子中毒を挙げた。ケーちゃんは魔石を毎日摂取する。公安とヤヨイは彼のエネルギー源が魔石にあると見ていた。

公安はケーちゃんをエネルギー源から引き離し、裏に始末したいという考えが本にある。刑務所に隔離したのちに時期を見て殺害する算段で意見書を出した。

一方、ヤヨイはケーちゃんをエネルギー源から引き離すのは危険だと意見している。監視カメラでは伝わらないイライラを近くでじたからこそ彼の異常を中心に論理を展開した。ケーちゃんは自分が求めるもののためなら法を犯すことも躊躇(ちゅうちょ)しない。それは逮捕されない自信があるからではなく、もっと単純で直的な理由だと幹部役員を集めた會議室で訴えた。

「仮に刑務所へ対象を隔離したとします。その期間中、ダンジョンモンスターから獲れる核、通稱【魔石】を供給しなかった場合に対象が刑務所から抜け出す可能は大いにあります。

そもそも我々は彼を殺害できる生とみなし、エネルギー源が魔石であるという仮説を前提にして議論していますが、もしそうでなかった場合は失敗したときのリスクが大きいです。つい最近、海外では魔法を用いるダンジョンモンスターが確認されました。清華大學が公表した論文によると、魔法を用いるためのエネルギー源は質量保存の法則を破る自然回復機能を備えるとのことです。

彼は魔法が使えます。実際に録畫した映像をご覧ください。ウヅキよろしく」

會議室のスクリーンに映し出されたのは抜殻スーツを著込んだヤヨイとサツキの二人。先行するのは全を明るく発させたケーちゃん。撮影者はウヅキだ。

『これからボスエリアへ突します。ボスは巨大カブトムシです。彼には魔法のみで討伐するように要請しました。先輩!』

『ケーちゃん準備はいいー? ライト付けるよー。5分でんな技を見せてー』

サツキが持ってきた複數のLED投にポータブル電源を繋ぐ。

強烈ながボスエリア全を照らし、巨大カブトムシの全貌が明らかになった。

會議室では息をのむ音があちこちで聞こえた。映像のカブトムシほど巨大なモンスターは國でまだ発見されていない。

カブトムシに正面から向かっていくケーちゃん。サッ、サッ、と軽い足音が次第に重くなっていく。しまいにはズンズンと地鳴りが起きた。

『あれは重を変える魔法です。軽くて1グラムまで、重さの上限はわからないとのことです。市販の重計は壊れてしまうため、大型裝置での検証が必要と思われます』

次第にオークルが金に輝く。彼はの前でカッコつけたいのか過去最高に金だ。

ジャブを打つ覚でカブトムシの顔面を軽く小突いたら拳が手首まで埋まった。引き抜くと同時に距離を取ってツノを摑む。

『あれはさを変える魔法です。見ての通り、きは緩やかですがカブトムシの甲殻を砕くほどの威力と度を持っています』

ケーちゃんはカブトムシと力比べを始めた。しかし優勢なのはカブトムシ。力負けしないよう重をさらに重くして対応する。

『ケーちゃん! もっと見せてー!』

『うす!』

ヤヨイの聲に応えて大手をばし、粘著と糸をカブトムシの腳に巻きつけていく。巻きつけた糸を壁に接著してカブトムシを拘束した。勝負ありかと思える展開を作ってから溶解で糸を溶かす。

『一連の魔法は、粘著、糸、溶解です。もう1つ、神経毒なるものもありますが今回の検証では使えないため後日提出させていただきます。

糸は溶解以外では溶けないほど燃えにくく頑丈です。彼の証言では核弾レベルのけたときに溶けたとのことですが検証が必要です』

『あと2つしかないぜ。1つはみんなが危ないから使えねえや。上位互換は安全だから見せられっけど、照明が壊れるかもしれん! あれ高そうだしやめとこっか!』

『大丈夫大丈夫! バーベキュー用に買い換えるつもりだったから丁度いいのー! ぶっ壊すくらいの気持ちでやってー!』

『うす!』

ずいぶんと舌が良くなったケーちゃん。ヤヨイとウヅキに調教された結果だ。なんと罪づくりなたちだろう。これだけ変えられても彼は貞だ。彼の妄想は膨らむばかりで発寸前である。定期的に行われるチェリーとのベロチューが無ければすでに発していただろう。

「黒紫線!」

突如、暗闇がやってくる。巨大ホタルがボトボトと落ちる音が拾われた。

度カメラに切り替え、レンズ越しに黒紫のオーラを纏う怪の姿が映った。

の照明までも消え、自分たちの手すら見えない。小さい悲鳴があがり、會議室はどよめきに包まれた。しかし、その暗闇の中でもケーちゃんの姿は禍々しくはっきりと見える。まるで畫面を越えて來たかのような錯覚を起こしていた。

黒紫手がび、れた先からカブトムシの角が吸い込まれるようにねじ切れた。

『これが最も危険視すべき謎の力。通稱〖黒紫のオーラ〗です。

これを使ってを消滅させることを彼は黒紫食いと言っています。「食う」とはそのままの意味で消滅させたの味がわかるそうです。〖黒紫のオーラ〗は全を覆っていますが、地面にれても沈まずにいることから、消滅させる対象は彼の意思で選べると考えられます。

カブトムシとの勝負が終わりましたので、続いてどこまでのが消せるかの検証を軽く行いたいと思います。用意したのはこちらの投に含まれるタングステン。投のカバーには戦車に使われる合金を仕込んでいます』

『ケーちゃーん。壊れた投も黒紫食いしてー。おねがーい!』

『うす!』

の消滅を確認するとともに映像は終了。張で呼吸を止めていた面々は急いで肺に空気を送り込む。

「これはダンジョン奧地のボスエリアで撮影されたものです。彼が倒したボスの素材を一部持ち帰りましたので検証してください。

それらの質はおそらく刑務所の壁よりも頑丈な質と思われます。他にも彼自から貰った糸、抜け殻、3種の毒、牙、髪のを提出します。3種の毒にはラベルがられています。厳重注意の印をつけていますが、重ねて口頭でもお伝えします。溶解の取り扱いにはご注意ください。容は彼の素材でできており、試験管に移すことはできません。検証される際には抜殻スーツを著用のもとおこなってください」

幹部役員の面々はため息を吐いて會議室を出て行った。

そして翌日、SNSサイトに例の投稿を許可されたのだ。

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