《星の海で遊ばせて》一月目の櫂(4)
月曜日――柚子の誕生日の前日。
二年A組は朝から子を中心に盛り上がっていた。詩乃が、髪を切って登校してきたからである。髪型を変えると、詩乃に限らず、誰でも隨分と印象が変わる。それでもとりわけ詩乃の髪型についてなぜ教室がざわめいたのかといえば、それは、詩乃と柚子の仲を、皆が知るようになったからである。詩乃だけの事なら、気に留める人はいても、そこまで騒ぎにはならない。しかし詩乃が柚子の彼氏ということになると話は大きく違っていて、詩乃の行や言は、全部柚子に否応なく関連付けされてしまう。男子の方は、なんだよあいつ、彼できて浮かれてんな、という盛り上がり方をした。しかし子の場合は、詩乃の髪型を変えた意図までを一瞬で見抜いてしまう。明日が柚子の誕生日であることを、生徒たちは知っている。つまり詩乃が髪型を変えたのは、柚子とのデートのため――そう考えて、クラスのの子たちは、キャーキャーと盛り上がるのだった。
「髪型変えたんだね。いいと思うよ」
「水上君、似合ってるよ」
「そっちのほうがいいよー」
今まで一言も話したことも無いような子からもそんな聲をかけられて、詩乃はどうして良いのかもわからず、適當なくような返事を返した。男子生徒からは、チャカすようなにやついた笑みの洗禮をける。「行ってきなよ、褒めてあげなって」とか何とか、窓際の席で、柚子と友達がはしゃいでいる。
――あぁ、こんなことなら髪なんて切るんじゃなかった。
詩乃はそう思った。
格好いいとか、似合っているとか、言われるのは確かに嫌な気持ちはしないが、嬉しさよりも、この髪を切ったことによって出てきた煩わしさの方が、詩乃には圧倒的にストレスだった。自分の新見さんに向ける思いが、つまらない話のネタにされて、ゴシップのようにされるのが、堪らなく我慢ならなかった。
詩乃は一時間目が始まる前に、荷をまとめて教室を出、文蕓部の部室に逃げ込んだ。
スクールバックを部屋の隅に放り投げ、デスクチェアーに深く腰を下ろす。
そうしてしばらく瞑想し、気持ちが落ち著いてきた詩乃は、スクールバックにDVDをれていることを思い出した。本當は、今日の放課後見ようと思っていた。一昨日、帰り際に思い付きで買ったメリーポピンズの映畫だ。久しぶりに見てみよう、という気になっていた。最後に見たのは、小學校の六年生くらいだったか。
――詩乃が文蕓部で映畫を見始めた頃に一時間目の開始を告げるチャイムが鳴った。二年A組の教室は、詩乃が教室を出ていったことで、変な空気になっていた。その空気のまま、一時間目の授業に突する。なんだか妙な雰囲気だなと思いながら、教師は授業を始めた。
一時間目が終わり、二時間目、三時間目と授業は続き、しかし晝になっても、詩乃は教室に戻ってこなかった。柚子は授業の間も、詩乃の事ばかりが気になっていた。クラスの皆も、詩乃をからかいすぎたせいで出て行ってしまったと、そのことは何となく察していた。そんな向きになるなよ、協調が無いなと、そう思う生徒も多かった。しかし、今年の文化祭で詩乃に良いを持っていた子の數名は、詩乃と柚子に悪いことをしてしまったと、もやもやした気持ちで最初の三時間を過ごしていた。悠里も、その中の一人だった。
「ごめんね、新見さん」
三時間目の授業の後、おずおずと、悠里が柚子の席にやってきて、柚子にそう言った。柚子は、悠里に謝られるようなことをされた覚えはなかったので、驚いてしまった。
「え、なに、どうしたの?」
「水上君に、朝聲かけちゃって。髪型、似合ってたから」
「う、うん?」
「水上君、たぶん、そういうのが嫌だったんだよね……?」
悠里にそう言われて、やってそこで、柚子は悠里の伝えようとしていることが分かった。柚子は、ふんわりした笑顔で答えた。
「私も驚いちゃった。水上君、行っちゃったけど」
「ご、ごめん……」
「え、なんで近藤さんが謝るの! 大丈夫だよ、水上君は、ちょっと騒がしいのが苦手なだけだし、近藤さんのことを怒ってるわけじゃないから」
はぁあっと、近くで聞いていた紗枝がため息をつく。柚子もそうだが、悠里も大概不用だなと思っていた。
「ほら柚子、気になるなら行って來たら。たぶん、あそこでしょ」
「う、うん。じゃあ、ちょっと行ってくるかな!」
明るくそう言うと、柚子は弁當を持って、教室を出た。文蕓部の部室、詩乃が教室にいない時には大概そこにいるということを、柚子も紗枝も知していた。CL棟の一階の奧に文蕓部の部室はある。小さな長方形をした部屋である。
――コンコン。
「新見です。水上君、って良い?」
「あ、うん、どうぞ」
いつものやり取りで、柚子は部室にる。
椅子に座っている詩乃を見て、柚子はひとまず安心する。でも、落ち著かない。いつもと違う髪の。千代の詩乃に対する見立ての言葉を、柚子は思い出していた。それに何より、詩乃が、自分の事を思って髪を切ってくれたのかと思うと、それだけでが締め付けられてしまう。もしかすると、ただの気まぐれなのかもしれないが、そうだとしても、柚子はやはり嬉しかった。
「水上君、ご飯食べた?」
「ううん、まだ」
「一緒に食べよ」
そう言いながら、柚子は詩乃のPCデスクの向かって左隣に、新しく設営されたランチスペースの椅子に腰を下ろした。柚子が一緒に文蕓部でお弁當を食べに來るようになったので、詩乃はPCデスクの片側に、機二つを、PCデスクと合わせて〈カギカッコ〉型になるように配置したのだ。機は神原教諭に相談するとすぐに手にった。また椅子も、パイプ椅子ではなく、座板と背もたれが緑のクッションになったものを、置からとってきて磨いて、柚子専用の座席としてそこに置いた。詩乃は、椅子の向きを変えて、し機の方に移すれば二人で食事ができる。
詩乃も実際、食事の場所には困っていた。PCデスクは二人半か三人ほどがかけられる長めのものを使っている。デスクの正面に橫置きで設置したデスクトップPCの本とその上に置いたモニター、右手側のちょっとしたマウスを使うスペース、本來はその左右にテーブルの余りのスペースがあって、食事はそこでできるはずだった。ところが、詩乃の場合は、気づくと、そのスペースは、小説のための本やら資料やらで埋まって、弁當箱の置き場も怪しく、いつも詩乃は、膝に弁當箱を置いて食べていた。
柚子は緑クッションの椅子に座り、機に水筒と弁當箱を置いた。赤地に白い鹿の子模様のった風呂敷を解いて広げる。それだけで、柚子は幸せな気分になるのだった。詩乃の準備してくれた椅子に座り、その機に自分のお弁當を置く。それは何か、特別な意味があるのだと柚子はじていた。
詩乃も弁當の風呂敷を解いた。風呂敷はもとは紺だったが、もうずいぶん長く使っているせいで、そのは隨分薄くなっている。風呂敷を広げながら、詩乃は口を開いた。
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