《星の海で遊ばせて》ロールプレイ(3)
十二月の初週、柚子とデートをした週、詩乃は〈フィルター〉という五萬文字の中編作品を完させた。クリスマスにあわせて刊行する部誌で、ラブストーリー。しかしそのはずが、最後にはの子のほうが男の子を振って終わる筋立てとなった。伊達眼鏡をつけていたの子が眼鏡を取るまでの話で、最後、クリスマスプレゼントに彼氏はの子に眼鏡を渡す。の子はそれを突き返して、そこで、語が終わる。書き上げてみると、なんだか、〈自分らしく〉とか〈冬の私コーデ〉とか、小説のために集めてきたファッション誌や報誌のキャッチコピーがそのまま反映されたような語になった。
十二月の二週目の頭に、印刷業者に印刷を依頼し、それで詩乃は、一仕事終えた充実を得た。しかしその充実も、柚子との誕生日デートで失敗してしまったその傷の痛みを帳消しにはできなかった。というよりも、作品の完は、その失敗を思い出したくないがために集中した結果だった。小説を書き終えてしまってからは、詩乃は、気を紛らわせる手段もなく、デートで泣いてしまった事を思い出しては頭を抱えた。
もうすぐクリスマスがやってくる。詩乃は今年ほど、クリスマスを疎ましく思ったことはなかった。付き合っているなら、一緒にいなければならない、デートをしなければならないという圧力が、一年の中で最も強くなる日だ。挽回する名譽もないが、きっと、新見さんも期待しているだろう。
仕方ないと、詩乃も覚悟を決めた。
新見さんをデートにおう。今度こそ、新見さんが喜ぶような。二十四日のクリスマスイブは終業式の後、クリスマスのダンス會がある。そっちの方はすでに、一緒に踴ろうと新見さんからわれている。そっちも気が重いが――デートは、二十五日のクリスマスだ。
「わなきゃなぁ……」
デートにうことのプレッシャーに、詩乃は早くもめげてしまいそうだった。
柚子は誕生日のデートの後も、二日か三日に一回は晝には文蕓部の部室にやってきて詩乃と食事を共にした。柚子は誕生日以來、しさを増していた。一どういうわけか、詩乃には良くわからなかったが、簡単なことだった。詩乃のプレゼントしたルージュを、に塗って登校してくるようになったのだ。ぷるぷると、瑞々しいに、多くの男子生徒が、吸い寄せられそうになっていた。教室でもダンス部でも、柚子のその変化は、男子の中ではこっそりと、子の中では大々的に話題になっていた。
プレゼントされたルージュを、その翌日から早速塗ってくるというのは、柚子にとっては詩乃に対する意思表示だった。詩乃からすれば、今回のプレゼントは不本意なものだったが、柚子にとってはそうではなかった。ルージュのキャップを開ける瞬間、それを手に持つ一瞬、そしてにそれを當てる時、その全ての瞬間に、柚子は幸せをじていた。毎朝、詩乃とキスをしてから登校しているような気分だった。
「新見さん、クリスマス……二十五日なんだけど――」
詩乃がやっとそう切り出したのは、十二月二週目の週末金曜日の晝休みだった。次のデートは私からおうと思っていた柚子にとっては、先手を打たれた気分だった。
「もし予定なかったら、どこかお出かけ――」
「する!」
そんなに期待しないでよと、詩乃は思ってしまった。まだ、前回のデートでの失敗の傷が尾を引いている。
詩乃は、〈フィルター〉の執筆に使った資料類を棚にれたり、使ったメモ帳をゴミ箱にれたりして、柚子の目から逃げた。詩乃には、上手くやれる自信が、やはりなかった。だけど、こんなに期待してくれているんだから、良いデートにしなければと、詩乃は思うのだった。
十二月の三週目、月曜日の放課後に印刷業者から部誌が屆いた。五十部、今回も文庫サイズ。柚子はダンス部の練習の後文蕓部の部室にやってきた。まるで自分の事の様に、部誌の完を喜ぶ柚子を見て、詩乃は、こんな子が自分の彼だなんて、何かの間違いなんじゃないかと、改めてそんなことを思うのだった。
「すごいね、水上君。お疲れ様。ねぇ、読んでいい?」
「今?」
「うん、今。家まで待てないよ」
なんでもないそんなやり取りだったが、詩乃にとっては、それはもはや、告白に近い意味を持っていた。椅子に座って柚子が本を読んでいる間、詩乃は、部室の片付けをしていた。詩乃にとっては、これが理想のデートだった。柚子が本を読んでいる時間、その空間というのは、一番心地が良い。本當はクリスマスも、そんなデートがしたい詩乃だった。そのためだったら、短編の二、三本くらいは書き上げることができそうだった。読みながら、途中で居眠りをしてしまうのも良い。あの、本を読みながら眠ってしまう時の気持ち良さというのは、何にも代えがたい。
しかし、ネットのどこを見ても、読書會デートなんてものは存在していなかった。詩乃は、次のデートは水族館に決めていた。品川にある、人気の水族館。水族館は、デートの定番で、楽しめるらしい。そんなネット界隈の報を參考にしたのだった。目下、詩乃の問題は、クリスマスプレゼントについてだった。唯一の切り札だったコスメは、誕生日に贈ってしまった。服やバックは、新見さんはもう、素敵なのをいくつも持っている。ルージュを買った日に購したネックレスを本當は渡したいが、それは〈非常識〉らしい。高価な贈りはかえって相手に気を使わせてしまう、とか何とか。
じゃあ、食べがいいだろうか?
確かに新見さんは、食べるのが好きだ。あのチーズフォンデュも、味しそうに食べていたし、お弁當も、いつも味しそうに食べている。でも、だからといって食べをあげるというのは、どうだろうか。例えば、自宅で、旬のものを使ったフルコースをご馳走するとか。でもそれは、果たしての子が喜ぶデートプランなのだろうか。やっぱり、水族館を見て回って、その後は近くの灑落た店でディナー、そこでプレゼントを渡す――というのがクリスマスデートの黃金パターンなのだろう。とすると、やっぱりプレゼントで食べというのはおかしい。
どうしたものか――頭を悩ます詩乃。
そうしているうちに、柚子は本を読み終えた。彼氏に眼鏡を突き返すラスト、ラブストーリーとは思えない爽快をもって締めくくられる。こういうラブストーリーの形もあるのかと、柚子は驚かされた。別れるけれど失ではない。自分を押し殺して〈彼〉を演じるの子が、最後、本當の自分を取り戻し、それを彼氏に突き付ける。
――水上君は、なんて素敵な話を作るのだろう。
柚子の心は震えていた。水上君の話は、読んだ後に、元気が出てくる。そういう話を作る詩乃の優しさを、柚子は、詩乃の語を読むたびにじるのだった。詩乃の本を読むことは、柚子にとっては、詩乃の優しさにれるのと同じことだった。
「すごくいい話。本當に、水上君、すごいよ。私、この話も大好き」
詩乃はPCデスクに座ったまま、まぶしそうに眉を顰め、両手で顔をぬぐうように隠した。その照れ隠しの仕草に、柚子はキュンとしてしまう。自分の言葉に詩乃が反応してくれることが、柚子には嬉しかった。
「こういうお話って、どうやったら思いつくの?」
柚子は詩乃に訊ねた。詩乃は、し考えてから言った。
「――結構、布団にった後とか、かな。いつも考えてるから、いつでも思いつくんだけど――」
「へぇ、そういうものなんだ。アイデアって、リラックスしてるときに思い浮かぶって言うもんね」
「うん、そうなんだと思う」
「じゃあ、私といる時とかは、どう?」
「え……」
困ってしまう詩乃だった。柚子の存在が創作の助けになっていることは間違いが無かったが、創作のアイデアそのものは、大抵一人でいる時に出てくる。柚子といる時には、詩乃はただただ、新見さん可いなぁとか、笑わせたいなぁとか、そういうことを考えるので頭がいっぱいになってしまう。
「リラックス、できてない?」
「うーん……」
俯いてしまう詩乃。柚子は、詩乃の膝の上にをねじ込ませ、詩乃の顔を覗き込む。詩乃は驚いて、背もたれに仰け反る。柚子はそのまま、詩乃の膝に乗っかって、詩乃のお腹に抱き著いた。貓のようにじゃれつかれて、詩乃は、その手をどこに置こうかと、困ってしまった。サッカー選手がノーファールアピールするように、満員電車でを前にした男が無害を主張するように、両手を上げる。でもそれも心もとなくなって、結局詩乃は、ゆっくりと驚かさないように、柚子の背中に手を置いた。
「あ、ごめん……重い?」
「全然、大丈夫だけど――」
「ごめんね、私重、結構あるんだ……」
「いやいや……」
柚子のの重量は、詩乃には良くわからなかった。柚子は背も高く顔も小さいから見た目は華奢に見えるが、おや太もも、腰回りはしっかりしている。的で、しかも健康的な柚子のに著されて、詩乃の心臓はバクバクと鳴ってしまうのだった。の子に、こんな風に甘えられたのは、詩乃は初めてだった。
柚子は、じいっと詩乃を見つめた。
窓、カーテン閉めてないんだけどなぁと思いながら、詩乃は、柚子の目の訴えに従って、柚子のに顔を近づけた。ぎゅうっと、押し付けるようなキス。押し付けたのは、柚子の方だった。こういう時の柚子の大膽さには、詩乃はいつも圧倒されてしまうのだった。
ぷはあっと、を離した詩乃は、深く息をついた。
「ごちそうさまでした」
にこっと、柚子がいたずらっぽい笑みを浮かべながら、そんなことを言う。無邪気というか何というか、こんな無防備で、この子はよく平気だなと、詩乃は思ってしまうのだった。「おかわり」と言えば、平気で大盛りをよそってくれそうだが、事には節度があると詩乃は考えて、の前に腕組みをして言った。
「そろそろ帰ろう。下校時刻だよ」
すでに時刻は、七時を過ぎている。二人が立ち上がると、ちょうど、生徒に下校を呼びかける放送が流れてきた。
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