《星の海で遊ばせて》ロールプレイ(5)
「踴っておいでよ」
詩乃は、一度ぎゅっと柚子の手を握って安心させてから、そう言った。柚子も、それで納得して、先輩とともに、育館の真ん中あたりに歩いて行った。さっきとは違うワルツ曲が流れ始めた。詩乃は壁際の空いている椅子の一つに腰かけ、目をこすった。柚子が、外の男と踴っている姿は、やはり見たくはなかった。自分の中にある嫉妬や支配の醜さに気づきたくはなかった。
「水上、飲む?」
詩乃は聲をかけられて、顔を上げた。
紗枝だった。エプロンドレスの、メイド服スタイルである。メロンソーダのグラスを、詩乃に差し出していた。詩乃はそれをけ取り、ちゅうっと、ストローを吸った。紗枝は、詩乃の隣の椅子に座った。
「見學?」
「うん」
今日は隨分毒気が無いなと、紗枝は思った。
「振られた?」
「……」
「冗談よ。柚子が振るわけないの知ってるし」
ちゅうっと、詩乃は無言で緑の炭酸を口に含む。勝手に、ため息がれる。紗枝は、詩乃の視線の先で踴る柚子と先輩のペアを眺めた。詩乃は、またすぐに俯いてしまう。そんな顔をするくらいなら、今割り込んでいって奪い返せばいいでしょうが、と思う紗枝だったが、しかし一方で、そうできない詩乃の気持ちも、わかるような気がした。柚子の気持ちを思えば、そうやってけしかけてやりたい所ではあるが、水上にそれはできない。いや、水上でなくても、柚子を彼に持ったら、その相方は、こういう苦労を誰でもするのだろう。自信を持って、柚子をガッチリ摑んでおけるほどの男が、どれだけいるというのだろうか。そう思うと、紗枝は、詩乃にちょっとした同すら覚えてしまうのだった。
柚子と詩乃が付き合い始めた日――文化祭二日目の夜の出來事を、紗枝は、柚子から聞いて知っていた。それによると、詩乃は自分から柚子を抱き寄せた、という一幕があったらしい。そんなこと水上みたいな臆病な男ができるはずないと決めつけていた紗枝は、それを聞いて、詩乃を見直したとともに、ちょっとした謝罪の気持ちも持つようになっていた。
「彼が人気者じゃ、苦労もするんじゃない?」
詩乃は顔を上げて、紗枝を見た。
紗枝の口からそんな言葉が出てくるとは、詩乃は思ってもいなかった。あんた男でしょ、しゃんとしなさい、とか何とか、そんなことを言われると思っていたのだ。
「新見さんのせいじゃないんだよ」
「ん?」
「自分が勝手にさ、々……。新見さんって、いつもあんなに無防備なの?」
「え? 柚子? 無防備なの?」
「うん……」
「そうねぇ……」
紗枝はし考えてから答えた。
「無防備で天然っぽいけど、でも、絶対に明かさない部分がある、かなぁ。でも、水上の前だと、本當に無防備なのかもしれない」
「そうかな?」
詩乃は聞き返しながら、笑みをこぼしていた。
その表を柚子に見せてやりなさいよと、紗枝は思うのだった。髪を切って、見栄えの方もずいぶんと清潔が出て良くなった。いつももうちょっと笑顔でいれば、友達だってできるだろうにと、紗枝はそんなアドバイスをしてやりたかった。
「人気者ゆえの孤獨って、あるんだと思うよ。最近はかなり、〈壁〉もなくなってきたけど」
「そうなんだ」
紗枝は、しムっとしてを結んだ。
詩乃の、他人事みたいな反応が気にくわなかったのだ。紗枝は、柚子にじていた〈壁〉の正を良く知っている。友達なのに、そこに踏み込めない自分に、何度歯がゆい思いをしたことか。それを、水上詩乃というこの男子は、あっさり突き崩してしまった。詩乃が現れてから、柚子は明らかに変わったと、紗枝は思っていた。笑顔の種類が増えたこと、悲しいとか悔しいとか、事によっては、怒るような、そんなまで、出てくるようになったこと。今までの柚子には、考えられなかった。水上が、それを引き出したのだと、紗枝は確信していた。水上のことがからむと、本當に柚子は、悲しんだり、怒ったり、とにかく、笑顔以外の表を見せる。むき出しの。本人は自分のそんなや、思わずとってしまう行に振り回されているようだが、紗枝からすると、それは喜ばしいことだった。
「いいの? 他の男に躍らせてて」
「……」
詩乃は、一度柚子のダンスを見て、ぱっと目を逸らせた。
「柚子も、水上と踴りたいと思うよ?」
「うーん……」
詩乃は、眉間に深いしわを寄せて、蹲る様に考え込んでしまった。お腹でも痛くなったのかと、紗枝は心配になってしまった。やがて、詩乃は首を振りながら顔を上げると、飲みかけのメロンソーダを紗枝に渡しながら言った。
「全部は無理だよ……」
詩乃はそれだけを言い殘して、育館を後にした。中庭を橫切り、保健室に向かう。音を絞った靜かなBGMと街燈の明かりとその明かりの作る影の元、高校生のカップルたちが、ベンチに座っている。こっちのほうが良かったなぁと思いながら、詩乃は保健室にった。
「あれ、水上君、どうしたの?」
保健室には、白の須藤教諭がいた。
靴をいでガラス戸から直接ってきた詩乃に、教諭もし驚いてしまう。
「失禮します」
詩乃は保健室にると、開いているベッドに腰かけた。そして、街燈の明かりの燈る中庭を見つめ、ほうっと、深いため息をついた。
「何そんな、ため息なんかついちゃって」
須藤教諭は、あまりにも大きな詩乃のため息に、思わず笑ってしまった。
「疲れました。人混みが……」
「人混みって、ダンスでしょ?」
「注目されてなきゃ、まだ楽なんですけど……」
詩乃はそう言って頬杖を突く。
須藤教諭は、それでピンと來た。
「水上君、彼でもできたの?」
「……」
へぇー、やるじゃない、と須藤教諭は心呟く。
「あの子? 新見さん?」
「……」
ふふふっと、教諭は意味ありげなほほえみを浮かべ、コーヒーメーカーに、挽いたコーヒーと水をれた。コポコポと湯気が立ち、ポットの中にコーヒーのしずくがこぼれ始める。
「逃げてきちゃったの?」
「まぁ……そうですね……」
もう一度ため息をつく詩乃。
須藤教諭は、別段責めているわけでもなく、その聲のじにも、非難めいたものはなかった。どちらかというと、からかい口調である。潔く白狀した詩乃に、須藤教諭は、しょうがないわねぇと、微笑みかけた。
「逃げるよりは、ちゃんと話した方がいいんじゃない?」
「何を、ですか?」
「人混みが苦手とか――ダンスは嫌いじゃないの?」
「まぁ……」
詩乃は、中庭の奧を眺めた。その向こう側、育館の中で踴る柚子の事を考えた。あの先輩の他にも、新見さんと踴りたがってた生徒は、たくさんいた。曲ごとに、ペアを代えることになるのだろう。新見さんはダンス部だし、人前で踴ること、注目を浴びることには慣れているのだろう。でも、その心のはどうなのだろうか。
「これ飲んだら戻ってあげなさい」
そう言って、須藤教諭はカップにコーヒーを注いで、ソーサーごと詩乃に渡した。詩乃はそれをけ取り、淹れたてのコーヒーの黒いの中に映る自分を見つめた。
「あ、砂糖とミルクいる?」
「いえ、大丈夫です」
「そう」
ずずずっと、須藤教諭はコーヒーを啜った。詩乃も、それに釣られるように、カップを持ち上げて、コーヒーを飲んだ。酸味はあるけれど苦くない、味しいコーヒーだった。コーヒーを飲み終えた詩乃は、須藤教諭にお禮を言って、育館に戻った。
育館に戻った詩乃は、その片隅の壁際で、衝撃的なシーンを目撃してしまった。柚子と、さっき柚子にダンスを申し込んだ先輩が二人でいた。先輩が、何か話している。それをけて柚子は、何か答えずらそうな雰囲気で、首を振っている。先輩が、一歩柚子に近づく。柚子は、先輩に頭を下げると、とととっと、壁際から離れた。
「あいつ……」
詩乃は目を細めて、先輩を睨みつけた。
一言言ってやりたい衝にかられ、詩乃は気づくと、先輩の方へ、歩みを進めていた。
「先輩」
詩乃は、ほとんど初対面のその三年生に聲をかけた。
細い十字のネックレスがきらりとる。しかしその銀のの鋭さが似合うのは、先輩よりもむしろ、詩乃の方だった。先輩は、振り向いた先に詩乃を認めると、目を泳がせた。
「え? あ、あぁ……」
その反応で、さっきこの先輩が柚子に何を言ったのか、詩乃はほとんど察しがついた。新見さんに告白をして、振られた、そんな所だろう。新見さんを好きになったり、告白をしたことについてはまだ許せるが、詩乃が一番許せなかったのは、この男が、いけしゃあしゃあと、自分に噓を言った事だった。『取るつもりはない』、こいつは自分にそう言った。その舌のも乾かないうちに、この野郎――詩乃のは激流のような流れを作っていた。
「どういう了見ですか」
詩乃の言葉に、先輩は押し黙る。
「――お前より、俺の方が相応しいだろ、普通に考えて」
そんなことを、ぼそぼそっと、詩乃から目を逸らしながら言う。
けない奴だなと詩乃は思った。
「平気で人を騙すような男が、一時でも柚子と踴っていたことが不快です」
詩乃ははっきりとそう告げると、先輩に一瞥を投げかけ、育館を出た。
柚子は、育館の出口の所にいて、詩乃と柚子は、そこで再會した。いきなり抱き著いてきた柚子を、詩乃は軽く抱き止めた。周りにいた生徒が、口笛を吹いたりしてくる。はやし立ててくる生徒に対する怒りを抑えながら、ぽんぽんと、詩乃は柚子の背中を優しく叩いた。
やっぱり、新見さんを守れるような男にならないといけないのだろうかと、詩乃はそんなことを考えていた。
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