《星の海で遊ばせて》トラバース(2)
ボーっとしているうちに一月二日が來て、それももうすぐ、日付が変わって三日になろうとしていた。年越しの日に蕎麥を食べたくらいで、詩乃は他に、年末らしいことも、そして正月らしいことも一切していなかった。刺も壽司もない初めての正月、餅も買ってきていない、雑煮の準備もない。茶漬けかのない焼きそばというメニューが一周間続いている。
深夜、詩乃は、自宅のPCモニターの前に座っていた。
たまにうとうとしながら、何時間もそうしている。
小説の構想を考えるわけでもなく、文章を書いているわけでもない。詩乃は、〈〉や〈〉というものについて考えていた。この數日間、それを考えるために參考にした本が、PCデスクの上や下に散している。
――つまるところ詩乃は、柚子との関係について、悩んでいた。
誕生日、そしてクリスマスと、デートでは大失敗を重ねてしまった。その失敗自にも、へこまないわけではない。しかし詩乃の悩みは、そこではなかった。あの失敗の裏には、自分の、どうしょうもない質が潛んでいるとじていた。
流行りの歌は、君は一人ではない、という。暗い道でも、先にはがあるらしい。太の輝く大空へ、君と一緒にはばたくのが良いらしい。――月々二千円を払って地上波放送とその他いくつかの特別な番組を観覧できる畫サイトに登録している詩乃は、大晦日も、何となく紅白歌合戦を流していた。一人じゃない、孤獨じゃない、が――しかし詩乃は、そういった歌詞でピンと來たためしがなかった。
先を爭って大きな船に乗るよりも、自分の好き場所から、小舟に一人乗り出して漕いで行った方が気軽でいい。飛ぶ必要なんてない。人間は飛べないのだから。だから、靜かにひっそりと、どこかの波打ち際の巖のあたりから、陸を離れる。
そんな風に生きて來て、今もってそれを間違っていると思っていない。そしてこの先もきっと、そういう風に生きていくのだろう。人と関わるということを、最初から求めず、むしろ避けてきた。だから、いざ自分のことを大事に扱ってくれるの子がいて、手を差しべてくれていても、どうしていいかわからなくなってしまう。
新見さんは何も、大船に一緒に乗ろう、と言っているわけじゃない。たぶん、自分の小舟に乗りたいだけなのだ。でも自分は、この舟に人を乗せたことがない。周りが真っ暗だろうと、燈臺の燈が見えなかろうと、それは恐怖ではない。でも、二人で行くというのが、どうも自分にはわからない。舵を滅茶苦茶にかして、新見さんを落っことしてしまう気がする。
そして詩乃のその〈気がする〉というのは、間違いなくそうなるという直を伴っていた。途中で振り落として溺れさせてしまうなら、最初から舟に乗せてはいけない。一人なら、由良の戸で舵をたえても流れに任せる心は気楽なものだが、二人なら、そうは言っていられない。
だからやっぱり、新見さんとは、別れなければいけない気がすると、詩乃はそんなことを思い始めていた。そしてそんなことを簡単に考えてしまう自分がまた、恐ろしかった。新見さんはあんなに健気に、こんな自分に盡くしてくれているのに、自分は平気で、〈別れる〉という考えを當たり前のように持っている。
きっと自分は、冷たい人間で、薄な人間に違いない。きっと先天的なものなのだろう。薄な父のを引いているのだから。――だからやっぱり、新見さんとは別れないといけない気がする。自分の小舟はたぶん、泥でできている。新見さんには小奇麗に映っているかもしれないけれど、自分にはわかる。
詩乃は一人頷き、コートを著ると、家を出た。
そうして河川敷まで歩き、空の遠くにある鋭い三日月を見つけ、ベンチに座った。あの鋭い切っ先は、々な縁を切るためのものなのかもしれない。
詩乃は暫く月を見て、それからまた、ひっそりと自宅へと戻っていった。
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