《星の海で遊ばせて》トラバース(7)
――いや、いつ來てもね。
――ちょっと、竦むよね。
千代と紗枝は、柚子の家の前で立ち止まり、そんな會話をわした。
殿だとか、お屋敷、というほどの大きな家ではないが、文京區の高級住宅地に堂々と建つ二階建て庭付き、単純な箱型ではないアシンメトリーの建は、〈ただの家〉という以上の存在を放っている。駐車場には黒のBMWと真っ赤なアルファロメオが停められている。
紗枝がインターホンを押すと、程なく、玄関から柚子が出てきた。
千代がプレゼントしたペンギンの袖付き布を著ている。ぶふっと、思わず紗枝と柚子は笑ってしまった。千代と紗枝が一緒のお泊りというのはこれが初めてで、二人はこの會を隨分楽しみにしていた。しかし二人は、主催者の柚子を見て思い知った。この子が一番楽しみにしている、と。
「待ってたよー。上がって上がって」
ペンギンに先導されて、二人は柚子の家に上がった。広い玄関口からリビングを通り抜けて、階段を上がり、上がった先のすぐ左手に柚子の部屋がある。
柚子の部屋――。
紗枝も千代も、最初に來たときは、驚いたものだった。ガーリーでファンシーな、ふわふわした部屋に違いない、と二人は思っていたのだ。ところが柚子の部屋は、配で言うと、全にセピアがかっていて、雰囲気は、まるでホテルの客室のようなのだった。
って左手の真ん中には、背の低いダブルベッドが、でんと配置されている。ベッドにしては高さが低いのは、落ちても痛くないため。一人部屋なのにダブルベッドなのは、もとは姉の勧めでそうして、その快適さに今では自分でも気にっていると、紗枝も千代も、柚子に聞いて知っていた。広々とした部屋に家はないが、その數ないタンスや椅子、勉強機などはどれも木製――しかも、素人が見ても一目でわかるほど質の良いものだ。
「いつ來てもホテル柚子だねぇ」
千代は部屋を見渡してそう言いながら、ベッドの前の談話スペースにバックを置いた。今は扉が閉まっている大きな姿鏡の前、そのふわふわした座椅子クッションのある空間だけでも、四畳ほどある。紗枝もバックを置いてコートをいだ。柚子は二人のコートをもらって、ポールハンガーにかけた。そこにかかっている柚子のコートやバック、類を見て、千代がはしゃぎ始める。
「これ、ちょっと著みていい? あ、これも!」
「いいよいいよ!」
そうして次第に、ファッションショーとなっていく。紗枝も千代に便乗して、柚子の服を借りる。柚子も楽しくなって、クローゼットを開け放つ。姿鏡を開けて、柚子はベッドに座ってスマホで寫真を撮り始める。最初は恥ずかしがっていた紗枝も、だんだんと、柚子の持っている可らしい小や裝、そして千代のテンションと著せ替えの腕によって、〈モデル〉になっていった。
ファッションショーでひとしきり楽しんだ後は、隣の部屋でお菓子作り。柚子の母は、趣味でお菓子教室を開いていて、その教室にしている部屋が、柚子の部屋の隣にある。一階のリビングよりも広い空間を持ったダイニングキッチンで、小さな調理用はもちろんの事、オーブンも三つ完備している。去年のバレンタインデーの前、紗枝はここで、柚子とチョコ作りをしていた。今日は、ここでお菓子を作って、それを夜のデザートにしよう、という計畫になっている。
牛、砂糖、生クリーム、卵――定番の材料を料理機に並べる。卵を黃と白に分けたり、材料の分量を量ったり。千代は慣れない作業に苦戦して、砂糖の分量を間違えたり、卵の殻をボールにれてしまったりしたが、そういった小さな失敗も、三人で作る料理の楽しさの一部になっていく。
一緒に作業を進めながら、お菓子作りにも余裕のある紗枝は、柚子の笑顔の中にある目の真剣さに気づいた。卵を混ぜる時、牛を混ぜている時、柚子の眼差しは、ただ楽しみながらお菓子作りをしている以上のものがあった。
紗枝は、柚子が流の真っ白いババロアをれたを持ち上げたので、冷蔵庫を開けて柚子を待った。柚子は慎重に、冷蔵庫の中にババロアの容をれた。紗枝は、柚子の橫顔を見て、やっぱり今日は、何かあるなと見て取った。柚子ののあたりに、何かつっかえているのが、紗枝にはわかった。
「柚子」
「うん?」
「何かあった?」
「……」
紗枝は、振り向いて千代の様子を見た。千代は、沸騰する湯にれたプリンのとにらめっこしている。
「あとでちゃんと話してよね」
「う、うん……」
柚子は、うな垂れるように頷いた。
お菓子作りが終わる頃になると、日も暮れ始めた。中にまとわりつくお菓子の甘い匂いも、それはそれで良かったが、三人は、し早めの風呂にることにした。風呂は、紗枝と千代の楽しみに一つでもあった。黒い大理石の浴室に、四畳ほどもある広々とした浴槽。洗い場も三人分ある。そして何より、その湯である。人工溫泉なのだ。
ちょっとした旅館のような所で服をぎ、浴室への一番乗りは千代である。千代の、何も隠さない大膽なぎっぷりを見て、いつもの事ながら、柚子は笑ってしまう。小さな、引き締まったお腹、は、わりと小さ目だが、形が良く、全のフォルムとして、スポーツカーのようなしさがある。
紗枝も、著替えるのは早い。ヘアゴム派の千代に対して、紗枝は手ぬぐいで髪をまとめている。ただ、どういうわけか紗枝の場合は、その手ぬぐいの結び方がちょっと特殊らしく、
やたら強そうに見える。まるで兜の様。柚子は、それについても、面白くてつい笑ってしまうのだった。
結局柚子が一番最後だった。
大きな風呂、それだけで千代と紗枝のテンションは上がっている。二人の聲とシャワーの音が跳ね返って、その賑やかな様子に、柚子の気持ちも、自然と明るくなる。大きな風呂は、のびのびとして自由で良いが、たまに、その広さのせいか、不安になる時がある。今は三人、ちょうどいい気がする柚子だった。
髪もも洗い、三人一緒に、湯船にを沈める。
人工溫泉のらかな湯に、紗枝と千代は聲をらす。そんな二人の反応を見て、柚子はくすくす笑ってしまった。
「いつも思うけど、柚子、この風呂は羨ましいよ」
紗枝が言った。
「柚子のはこのお湯が作ってるのねー」
千代は、湯を掬って、その湯を見ながら言った。
違いないね、と言いながら、すいーっと紗枝は柚子の近くに泳ぎ寄って、その肩にれた。柚子は、くすぐったがって肩をすくめた。千代も、にやーっと笑みを浮かべると、柚子の側に寄ってきて、今度はその太ももをでた。
「ちょっと、くすぐったいから!」
柚子の何とも子貓の様な反応に、紗枝と千代のイタズラ心は刺激されてしまった。おりゃおりゃと、柚子をくすぐったり、ちょっと弱い部分をつついたりして遊んだ。最後は、柚子が千代に抱き著いて、そのままわき腹をくすぐり、千代が耐えられなくなって湯に沈んだので、そこでくすぐり合戦は終わりを迎えた。
湯の中でいたあとは、三人は湯にふくらはぎまでをれて、高級漂う大理石の平淵におをつけて座り、湯気の漂う浴室の真ん中を眺めながら、學校の話や部活の話、冬休み中の事についてなどを、それぞれ話した。
紗枝と年上の鰻職人の彼は、家族ぐるみで、一緒に年を越し、その時の鰻蕎麥を彼と一緒に作った、という話を紗枝が披して、二人を驚かせた。鰻蕎麥って何、という所から、なんだかもう夫婦あるよね、という想などをえて、隨分盛り上がった。千代と彼氏のみっくんは平常運転。來週映畫を見に行くんだ、という話を千代がした。
映畫、映畫かぁと、柚子は、詩乃と一緒に映畫館に行くところを想像した。映畫館はたぶん行きたがらないから、映畫を観るとなれば、きっと自宅だ。二人で、何を観るのだろう。そのうち、そんなこともしてみたいな――柚子はそこまで考えて、悲しくなってしまった。そのうち、は、もう訪れないかもしれない、そう思うと、どんどん暗い気持ちになっていく。
柚子の表が曇ったのを、紗枝と千代は見逃さなかった。二人はアイコンタクトを取り、柚子に質問したのは、紗枝だった。
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