《ドーナツから蟲食いを通って魔人はやってくる》28話 計畫
「鉄の処」を通り地下通路に出ると、しゃがみ込んで鼻を啜っているレーベがいた。
ユゼフに気付き、弱気だった顔が怒りに染まっていく。
「シーバート様は?」
「亡くなった」
レーベは絶句した。
戻ろうとするレーベをユゼフは押し留める。
「今はここを離れるべきだ。シーバート様もそうおっしゃった」
冷たく言い放ち、レーベから松明を取り上げた。そして、大でズンズン奧へと進む。有無を言わさず歩き始めるのは、優しさでもある。
気配からレーベが怒っているのは分かった。
──まあ、勝手に怒ればいい。俺のせいでシーバート様は死んだのではないし
二人は六時間ほど暗い通路の中を無言で歩き続けた。
地下通路の地面はった巖盤で所々ヌルヌルしている。上から水がポタポタ滴って來るのにはヒヤッとさせられた。外から時折り込む風の音はまるで泣き聲のよう。道は下りがほとんどで、緩やかだったり、急だったり、時々平らになったりした。ゴツゴツした巖の階段を登ることもあった。
最初はんなことが一度に起こり過ぎて混していた。
進みながら起こった出來事を一つ一つ味して、分かるものと分からないものに仕分ける。ユゼフはこれからやるべきことを整理した。
まず、盜賊の頭領アナンが話していたコルモランという彼らの雇い主。シーバートから國の勢を聞いてる時、チラッとその話も出た。老學匠の記憶によると、そのような名前の男がカワウ王家フェルナンド王子の相談役にいたとのこと。
元々カワウとは二カ月前まで戦爭をしていたのである。
二カ月前、水仙の月に休戦してから魔國の脅威に対抗するため、協力関係を結ぶことになった。その証としてディアナ王とフェルナンド王子との婚約話が持ち上がったのだ。しかし、鳥の王國の勝利に近い形で休戦を迎えたため、協定においてカワウは主導権を奪われることになる。
魔の國へ出兵する連合軍や軍費の割合は六対四でカワウの負擔が大きく、戦後の復興もままならない狀況であった。
そもそもこの縁談にクロノス國王は乗り気ではなかった。ディアナの従兄弟であるグリンデル王國王子との縁談話も出ている中で、カワウの方は婚約だけして反故(ほご)にする可能もあったのだ。
カワウ側が時間の壁の存在を知れば、ディアナ王を拉致してもおかしくはない。助けが來ない狀況であれば、直ぐにでも婚姻させられる。うまくいけば壁が消える一年後、王子を産ませられるのだ。
ディアナがカワウの王太子妃になれば、対等とまではいかないにせよ、カワウの有利に関係は好転する。
こういった背景から、カワウ側がディアナを奪うためにいていたとしても辻褄が合った。
二番目、シーマから依頼のあったグリンデルの援軍。幸いなことにディアナの書いた文はユゼフが持っている。これは絶対にやり遂げねばならない任務だ。
三番目はミリヤの行方である。
ミリヤもディアナと同じく煙のごとく姿を消していた。
ディアナを守るため、自ら盜賊に捕らえられることを選んだ娘だ。盜賊から逃げた後も危険を犯してまで彼らを尾行し、ディアナのために戻ってきた。
今までの彼の行から一人で逃げたとは考えづらい。一緒にさらわれたと考えるのが妥當だろう。
彼は普段はおっとりしていて可らしい娘だが、宿営地から一緒に逃げた時はまるで別人のようだった。彼がディアナの傍にいれば、幾らか心強い。
四番目は盜賊の頭領アナンの事だ。
カオルの名を出した時に兄の名前だと、揺した様子だった。カオルは海奧地にあるエデン地方の名前で大陸では滅多に聞かない。容姿が似ていることと、アナンの雰囲気や立ち居振舞いから兄弟である可能は高い。
八年前、カオルは息男に恵まれなかったヴァレリアン家の養子に迎えれられた。ユゼフがヴァルタン家にった時期とほぼ同じである。元々の出自に関しては全く知らないが、名家の落胤かもしれなかった。
カオルは謀反人イアン・ローズの家來だから、ヴィナス王の下で王連合軍の指揮を執っているシーマ・シャルドンと敵対関係にある。
『あの男、使えるかもしれない』
シーマならアナンを利用しようと考えるだろう。
分からないのはディアナをさらって行った邪悪なモノの正だ。何が目的で何者なのか。
壁が出現してカワウからモズへ移中、宿営地のテントで初めて邪悪な気配をじた。それからナフトの町を後にするまでずっと邪悪な何かに見られていたのである。
五首城にいる間だけ束の間の安息を得ることができたものの、盜賊達の攻撃と同時にまた現れる。
ディアナをさらったのは幾つもの影を合わせた集合のようなだ。そして、それとは別に盜賊達を襲ったのはから逃げる大量の黒い甲蟲である。彼らは目や皮を食い破ってにった後、をる。
この二種の敵は「魔法使いの森」で出會った魔獣より、もっと邪悪で強い力を持っていた。
ユゼフにはでじ取ることができる。
魔獣をれても、連中に対しては追うことぐらいしかできない。彼らはそこら辺にいる魔獣とは違う。
邪悪で強い力を持つ魔が住む場所といえば……
魔の國しかない。
古代、邪悪な力を持つ亜人達が作った國。
魔國は鳥の王國から北東に位置する未開の地である。そこに住む亜人達の多くが魔族で、強大な力を持っている。
また、濃い瘴気に覆われており、が差し込むことはない。普通の人間なら數時間いれば、呼吸さえままならなくなるだろう。
草木はほとんどなく、代わりに生息するのはおぞましい姿の食植や魔獣達だ。彼らは太のに弱く、魔國から出ることは滅多にない。あるとすれば、食料である人間や妖族などを捕獲するためだろうか。今回のように特定の人を狙うには理由があるはずだった。
この件に関しては幾ら考えても分からなかった。
ディアナを必要とする何者かが魔族の力を借りたということ以外は……
そして最後に亡くなったシーバートの殘した言葉とユゼフの義母から預かったという古代の書のことである。
このことはあまり考えたくない。
鳥の王國の戦とディアナの拐には関係ない事だし、全てが終わるまで考えないことにした。
取り敢えず、今やらなくてはならない一番のことはグリンデル王國へディアナの書いた文を屆けることである。
そして、ディアナの救出に何が必要か。
ディアナは恐らく魔國に居る。
一人で乗り込んだ所で助けることは出來まい。
途中、道は自然にできた窟と繋がっており細かく枝分かれした。レーベが分かれ道にった札が目印となる。札というのはの呪文を書いた魔法札である。
暗闇の中、札はぼんやり浮かび上がる。窟は水滴の落ちる音と風が通り抜ける音以外は足音のみ。ユゼフとレーベは結局、一言も話さなかった。
地下通路の出口は山の斜面にあった。
突き出した巖盤に錆びついて錠の壊れた鉄扉がついている。鉄扉を押すと「ギリギリギリー」と嫌な音を立てた。
夜は白み始めている。
その頃にはもう、ユゼフは冷靜さを取り戻していた。
「これからどうする?」
六時間ぶりに口を開く。
レーベは一瞬驚いた顔をしたが、直ぐにまたむっつりとした表に戻った。
「あんたはどうするんですか?」
「俺は……」
ユゼフは言いかけてから口をつぐんだ。
今はレーベの協力が何より必要だ。痛いほどにしていた。しかし、レーベは元々ユゼフのことをよくは思っておらず、亡くなったシーバートを置いて來たことに反発している。
そもそもこの子はシーバートの弟子だから同行していただけで、王を守る任務とは無関係なのである。これからの道程は今までよりもっと危険で困難を極めるだろうし、この子にとって果たして値打ちのあることなのかは疑問だ。
※※※※※※※※※※※※※※※※
レーベはモズの出だとシーバートから聞いた。
小さな村で魔法使いの両親とレーベは靜かに暮らしていたという。両親は農業を営みながら魔に使う薬を調合することで生計を立てていた。
四年前、レーベが八才の時にモズ共和國は戦爭に巻き込まれる。
カワウで戦っていた鳥の王國軍が追い詰められ、なだれ込んだためにモズ全域が戦場となったのだ。
レーベの村はカワウの軍勢に襲われた。主國(鳥の王國)軍を匿っている可能があったからである。抵抗したレーベの両親は殺され、村ごと焼き払われてしまう。
一人ぼっちになったレーベは行く宛てもなく、しばらく戦場をさまよっていた。
そんな時、衛生兵団にいたシーバートと出會ったのである。
※※※※※※※※※※※※※※※※
「前から思っていたんだけど……」
レーベはユゼフの言葉を待たずに口を開いた。
「あんたの都合のいい風に事がいてませんか?」
「?」
「王様がさらわれたことは想定外にせよ、絶対死にそうもないあんたの父親と兄二人が死んで、宦になるはずだったあんたが國へ帰れば侯爵様になれる」
「俺は父と兄の死とは関係ない」
全く関係ない訳ではなかったが、彼らが死ぬということまでは考えていなかった。
「テントが襲われた時も、あらかじめ予測していたように見えた」
レーベはユゼフを睨み付けた。
「あんたは何者だ? 何を裏でコソコソしてる? 王國の誰と通じている?」
ユゼフは一瞬たじろいだ。
だが、この子供は賢い。シーマならきっと気にるだろう。
ユゼフは足を止めてレーベに向き直った。
別にお互い嫌いでも構わない。これからは取引の話をする。
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