《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》まる、さんかく、しかく 1
「ねえ、エル。明日ね、クラレンスからお詫びにケーキをご馳走してもらう事になったんだけど、一緒に行かない?」
エルの調が良くなった數日後、わたしの元へクラレンスから手紙が屆き、先日約束したケーキを食べに行こうというおいが、お手本のような丁寧な字で綴られていた。
きっと彼は大好きなエルと気まずいままで、辛い思いをしているに違いない。そう思ったわたしは、勝手ながらエルをうことにしたのだ。
とは言え、いつもの様に「面倒くさい」「だるい」「行かない」と言われてしまう気がしていたのだけれど。
「わかった」
「えっ」
まさかの彼の返事はイエスだったのだ。思わず驚いてしまい「なにか文句あんのかよ」と言われてしまった。
「ううん、とっても楽しみ。あっ、そうだ! 帰りにしだけドレスを見てもいい? 來週王城に行く時の買わないと」
「勝手にしろ」
そうしてわたしは、クラレンスに「エルも一緒に行ってくれるそうです。楽しみにしてます」と、返信用にっていた便箋に返事を書いた。
そして指示通りに折り畳み窓から飛ばすと、それはふわりと鳥の形になり、空高く飛んでいったのだった。
◇◇◇
「エルヴィス様、本當に申し訳ありませんでした……!」
そして當日。待ち合わせ場所に現れたクラレンスは、いきなり地面に両手を付き、頭を下げた。
彼の気持ちは痛いくらいに伝わってくるけれど、ここは王都の街中のど真ん中なのでやめてしい。行きう人々の視線を集めてしまっている。
「さっさと立て、クソメガネ」
「許してくださいますか……?」
「寢る暇もないくらい修行しろ」
「はいっ! ありがとうございます!」
彼の場合、本當に寢ないで修行しそうだから怖い。けれどそれから二人はいつも通りになっていて、心ほっとした。
「良かったですね、クラレンス」
そう、そして今日はユーインさんもいるのだ。丁度彼も今日は休みだったらしく「私だけ仲間外れなんて酷いです」なんて言って、いつものらかい笑みを浮かべていた。
エルはクソメガネと言ったけれど、今日も彼はあのメガネをかけていない。さらりと長めの若草髪が揺れている彼は、誰がどう見ても年で。エルやユーインさんといることで余計に、辺りのの視線をかっさらっていた。
それからは、クラレンスが予約してくれたというカフェに向かったのだけれど、なんとそこは王都一の人気を誇るお店だった。クラスメイトのの子達から話を聞いたことがあって、ずっと気になっていたのだ。予約が取れないことでも有名だとも聞いていたから、余計に驚きを隠せない。
「ここ、ずっと來てみたかったの! 予約取れないって有名なのに……ありがとう、すごく嬉しい!」
「フン、適當にたまたまうっかり選んだだけだ」
わたしに対してもいつも通りの態度に戻っていて、なんだかほっとする。刺々しい態度に慣れていたせいか、控えめな彼の態度はなんだか落ち著かなかったのだ。
「うわあ……! 味しそう! エルはどれにする?」
「味いやつ」
「きっとどれも味しいよ。うーん、わたしはこれかな。半分こするのもいいね」
メニューを見ながら悩みに悩んだ末に注文を終え、やがて運ばれてきたケーキと紅茶はびっくりするほど味しくて。ほっぺたが落ちるんじゃないかと、本気で思った。
エルも気にったらしく、黙々と食べている。可い。
「味しい……しあわせ……」
「お前は折れそうなくらい細いんだ、たくさん食え」
「ふふ、ありがとう」
なんだかんだ、彼は優しい。ふと顔を上げれば、甘い蜂のようなクラレンスの瞳と視線が絡んだ。
「そういえば今日もメガネしてないんだね。こないだもしてなかったし、もしかして予備がないとか?」
「いや、ある」
他人と目を合わせるのが苦手だと言ってたのに、どうしてだろうと不思議に思ってしまう。
「どうして掛けないの?」
「お前が、綺麗だと言っていたから」
「えっ」
「えっ」
そんなことをさらりと言われ、どきりとしてしまう。まさかわたしの一言が原因だったなんて、思いもしなかった。
驚いたのはわたしだけではなかったようで、斜向かいに座るユーインさんもまた、戸ったような聲をらしている。
けれど本當に隠しておくのが勿ないくらい、彼は綺麗なのだ。嬉しくなって、笑みが溢れた。
「絶対、そっちの方がいいと思う。本當に綺麗だもん」
「そうか」
「うんうん……ってエル、ひどい!」
すると不意に、エルはわたしが大切にとっておいたケーキの上の大きなイチゴを、ひょいと食べてしまった。
「最後に大事にとっておいたのに……」
「くだらねえ話ばっかして、さっさと食わないから悪い」
理不盡が過ぎる。けれど結局エルに甘いわたしは、怒ることなんて出來ずに許してしまうから、どうしようもない。
それからはクラレンスに勧められ、あとふたつもケーキを食べた後、わたしは幸せな気持ちでカフェを出たのだった。
その後ドレスを見に行くと話せば、ユーインさんとクラレンスも一緒に行くと言ってくれて、四人でお店にった。
雑貨から服まで何でも置いている人気の大きなお店で、値段の割に質の良いドレスが多いらしく、クラスメイトのの子からオススメだと聞いてやってきたのだ。
正直わたしはドレスにあまりこだわりはなく、とにかく髪や瞳のに合っていれば良いと思っていたのだけれど。気怠げにり口近くの椅子に座っているエルとは違い、クラレンスはわたし以上に真剣に選んでくれている。
「壊滅的にセンスがないな」
「す、すみません……」
「お前には、こういう方が合うに決まっているだろう」
彼は意外とセンスが良いらしく、勧めてくれるものはどれも可くて、何よりわたしに似合う気がした。そして、彼が一番いいと言ってくれた淡い桃のドレスを試著してみる。
「やはり、よく似合っている」
「本當? じゃあ、これにするね。クラレンス、一緒に選んでくれてありがとう」
「別に、大したことじゃない」
やっぱり、素直に褒められると照れてしまう。それにわたしもの子なのだ、嬉しくもあった。
結局、自分が買うと言って聞かないクラレンスを必死に止め、ドレスを自分で買い店を出る。そしてユーインさんとクラレンスに改めてお禮を言い、別れようとした時だった。
エルがクラレンスに突然「おい」と聲をかけた。彼に話しかけられて嬉しかったのか、クラレンスは笑顔で振り向く。
するとエルはわたしを指差し、そんな彼に言ったのだ。
「お前、こいつに気あんの?」と。
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