キスされていると気が付いた時には、手首を摑んでいたエルの手は後頭部へと回っていて。何度も角度を変え深くなっていくそれに、わたしは戸うことしかできない。

呼吸の仕方も分からず、やがて息苦しさをじてエルの肩を両手で押せば、數秒の後、ようやくが離れた。

「っな……な、なな、なんで……」

「したくなった」

心臓が痛いくらいに早鐘を打ち、熱があるのではないかというくらい、頬が熱い。

そんなわたしとは裏腹に、エルは意地悪く口角を上げ、さらりとそう言ってのけた。

「でも、お前はしたくなかったみたいだな」

「そういうわけじゃ、ないけど……その、急だったし、」

「いちいち今からしていいか？　って聞いてしいわけ？」

「う、うーん……」

それもなんだか違う気がするし、恥ずかしい。とはいえ、今のは急すぎた上に、なんというかし大人なじだったことで、余計に戸ってしまったのだ。

「俺のこと、好きなんだろ？」

「う、うん」

「結婚するんだよな？」

「えっ」

「は？　したくない？」

「し、したいです！」

「じゃあ問題ないな」

そう言ってエルは笑うと、再び軽くを押し當ててきて。

恥ずかしさで死にそうになったわたしは、エルの綺麗な顔に思い切りクッションを押しつけてしまったのだった。

◇◇◇

翌日。夜遅くまでエルとお喋りをしていたわたしは、し遅めに起き、部屋で一人支度を整えていた。

……ちなみにあれからエルはいつも通りで、心ほっとしていた。あの嫌な予は、どうか勘違いであってしい。

結局、昨晩も一緒に眠ったエルは朝早くから仕事らしく、目が覚めた時にはもう姿はなくて。しだけ寂しい気持ちになってしまった。けれどこれから、彼と一緒に居られる時間は減るのだ。慣れなければと、自分の頬を軽く叩いた。

「こんにちは、ジゼルさん。お待たせしました」

そして支度を終え、そわそわしながら待っていると、やがてユーインさんが迎えにきてくれた。

彼もクラレンスも、そしてシャノンさんも皆、神殿に務めていると知った時には本當に驚いたけれど。彼らの凄さを知っているからこそ、納得もした。

ユーインさんの転移魔法によって移すると、広間のような場所にたどり著いた。真っ白で広くしいこの場所はとても神的で、気持ちの良い空気に包まれている。

「こんにちは、ジゼル」

そして聲がした方へと視線を向ければ、以前見學に來た際に話をしたしいと、その隣には何故かむすっとした顔したエルがいた。

同時に神殿長と呼ばれていたことを思い出し、慌てて「こんにちは」と返せば、彼はくすりと笑った。

「呼びつけてしまってすまない」

「いえ、大丈夫です」

「會うのは二度目だね。私の名はマーゴット。エルヴィスやユーインの師であり、この神殿の長だ」

そう言って、マーゴット様は同でもどきりとしてしまうくらいの、妖艶な笑みを浮かべた。

その名前は今まで何度も耳にしていたけれど、まさか同一人だったなんて思いもしなかった。けれどあの日の言葉の意味が、し分かった気がする。

「さて、私はジゼルと二人仲良く子同士、お茶會をしてくるとしよう。エルヴィスは私の代わりを頼んだよ」

「子？　どこに二人もいるんだよ」

そんなエルの言葉に対し、マーゴット様はべしりと彼の頭を叩くと「行こうか」とわたしに聲をかけた。

わたしよりも背の高い彼の後を、付いて歩いていく。やがて案されたのは、過去にユーインさんとクラレンスと話をした部屋と同じ、真っ白な部屋だった。

「コーヒーは好きか？」

「……ええと、あまり得意ではないです」

「はは、そうか。エルヴィスと同じだな」

マーゴット様は嬉しそうに微笑むと、いつの間にかすぐ側までやって來ていたに、紅茶を淹れるよう指示した。そして彼自ら、ぽとりと砂糖を落としてくれる。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

ひと口飲んでみるとエルがいつも飲むものと同じ、わたしの大好きな甘さだった。彼はきっと、わたしの何倍も何十倍もエルのことを知っているのだろう。

「さて、ずっとお前には々と隠していたからな。今日は何でも聞いてくれ」

そう言ってもらえたものの、一どこから尋ねればいいのか分からない。けれどすぐにマーゴット様は何かを思い出したように、しい笑みを浮かべた。

「ああ、まずは禮を言わないとな。本當にありがとう」

「えっ？」

「エルヴィスに掛けた魔法を、解いてくれて」

「…………？」

その言葉の意味がわからず、首を傾げた。今の言い方ではまるで、わたしが解いたみたいではないか。

そんなわたしを見て、彼もまた、首を傾げた。

「……まさか、聞いていない？」

「は、はい」

「あいつが何故、元の姿に戻れたのか聞いていないのか？」

恐る恐る頷けば、マーゴット様は呆れたような表を浮かべ、深い溜め息を吐いた。

「まあ、あいつが正直に言うはずもないか。誰よりも素直じゃない男だからな。最早告白のようなものだし」

「告白……？」

思わずそう呟くと、彼はくすりと微笑んで。手に持っていたティーカップを靜かに置くと、言ったのだ。

「私がエルヴィスに掛けた魔法は、人をすることで解けるようになっていたんだ」と。