《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》輝いて見えたのは、きっと 9

殘り4話ほどで完結の予定です。最後までお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

「……人を、すること」

「ああ、そうだ」

言葉の意味は分かっているはずなのに、理解が追いつかないわたしを見て、マーゴット様はくすりと笑う。

「正直、私だってユーインだって誰だって、あいつが本當に誰かをすることなんて無理じゃないかと思っていたよ」

「…………」

「ちなみに私の掛けた魔法は完璧で、強力だった。つまりはそういうことだ」

そんなマーゴット様の言葉に、わたしの瞳からはぽたり、ぽたりと涙が零れ落ちていく。

もちろんエルに好かれていることも、大事にされていることも分かっていたけれど。エルがそんなにもわたしを想ってくれていると思うと、やはり嬉しくて仕方なかった。

「……あいつは他人にも自分にも、興味がなかったんだ」

「え、」

「私には、いつ死んでもいいと思っているように見えたよ。自分を大切にせず、無茶な戦い方をすることも多かった」

初めて聞くそんな話に、わたしは驚きを隠せずにいた。

「だからこそ、いざと言う時あいつは平気で、自分を犠牲にするという確信があった。けれど大切なものが出來れば、それも変わるんじゃないかと思ったんだ」

「大切な、もの……」

「親のも知らないまま育ち、神殿では自由もない。そんなエルヴィスには普通の生活をして、普通の友人を作り、普通のをさせてみたかった。だから私は周りを納得させる為にも、あいつがやらかしたタイミングで反省させる為だと言い、追い出すような形を取った」

エルが神殿を追い出されたことに、そんな背景があったなんて。マーゴット様が誰よりもエルのことを想い、心配していたことが伝わってくる。

魔法を使えないようにしたのも、苦労をさせ魔法を使えない人間を見下していた部分を反省させたかったのだという。

「金は十分持たせていたし、生活するための家なんかも全て用意していたのに……そこに向かう途中で、ゴロツキに喧嘩を売った末、奴隷なんかにされて……」

は再び深い溜め息を吐くと、苦笑いを浮かべた。出會った頃のエルを思い出せば、なんだか想像がついてしまう。

「あいつが必要となる時期まで、本來は何年、いや何十年でも待つつもりだったんだがな。すぐに無理だろうと諦めて、神殿に戻そうと思っていたそんな時、お前が現れた」

あの日、初めてエルと會った時のことを思い出す。マーゴット様の言う通り、いつ死んだっていいと思っていたとしても、流石にあんな場所にいるのは嫌だったのだろう。

きっと、わたし達があんな場所で出會えたこともきっと、偶然ではなかったような気がした。

「あいつは変わったよ。ジゼル、お前のお蔭だ」

「…………っ」

「エルヴィスに、を教えてくれてありがとう」

そう言って、彼はテーブルの上に無造作に置いていたわたしの手に、自の手を重ねた。そんな言葉や、あたたかな溫に、再び涙が溢れてくる。

「どうかこの先も、あいつの側にいてやってしい」

「っはい、もちろんです」

何度も深く頷けば、彼は嬉しそうに微笑んでいた。

◇◇◇

「エルヴィス、ジゼルを送っていきなさい。今日はそのまま帰っていいぞ」

あの後もマーゴット様と々な話をして、先程の場所へと戻ると、相変わらず不機嫌な顔をしたエルの姿があった。

「余計なこと言ってねえだろうな」

「ははっ、余計なことしか言っていないが」

「は? ふざけんなババア」

そんな汚い言葉を使ったエルの頭を再び思い切り叩くと、彼は不意に、ひどく真剣な表を浮かべて。

「それと、一週間休みをやる。その間に全部伝えておけよ」

そう告げた途端、エルの様子が明らかに変わった。

「もう、時間なのか」

「ああ。すまない」

「……分かった」

エルはマーゴット様の橫を通り過ぎ、こちらへやってくると、何も言わずにわたしの手を取った。

「またな、ジゼル。今度は味い菓子を用意しておくよ」

「あっ、はい。ありがとうごさいま、」

そこまで言いかけたところで、エルは急に転移魔法を使って。最後までお禮を言うこともできないまま、わたしはあっという間に學園のエルの部屋へと移していた。

「び、びっくりした! 一言くらい言ってほしかったな」

「…………」

「……エル?」

その場に立ち盡くしたままの彼の表は、ひどく暗い。

何かあったのかと不安になっていると、何故か突然「どこか、行きたい場所はあるか」と尋ねられた。

「行きたい場所?」

「ああ。ババアが一週間休みをよこしたから、お前の行きたい場所に行ってやってもいい」

「……ほ、ほんとに? 旅行ってこと?」

そう尋ね返すと、彼は頷いた。エルとまた旅行に行けるなんて、夢みたいだ。嬉しくなって抱きつけば、髪のがぐしゃぐしゃになるまででられた。

サボりになってしまうから良くないけれど、しっかり學校には休みの手続きを取っておかなければ。

……けれど突然、あんなにも忙しそうだったエルが一週間も休みを貰えるだなんて、不思議で仕方ない。先程のマーゴット様とのやり取りも、なんだか気がかりだった。

「で、どこがいい」

「エルが生まれた場所って、どこなの?」

「は? なんだよ急に。田舎の、クソみたいな場所だけど」

「そこに、行ってみたい」

わたしがそう告げると、エルは訳がわからないという表を浮かべていたけれど、やがて首を縦に振った。

「絶対つまんねえし、後悔しても知らないからな」

「ふふ、しないよ」

「あっそ」

「ありがとう! 本當に本當に楽しみ!」

そうして明後日から、わたし達は急遽二人でエルの故郷へ旅行に行くことになった、けれど。

とても楽しみで仕方ないはずなのに、いつまでものざわつきは治まらないままだった。

いつもありがとうございます。

想、とても楽しく読ませていただいております。

また☆評価も頂けると頑張れます……!

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