《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》おとぎ話はもうお終い 3

明日で完結予定です。最後までお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

「ジゼル、団長が呼んでるぞ。俺も一緒に呼ばれてる」

「分かった、ありがとう。何の話だろうね」

「俺とお前の組み合わせってことは、いつものやつだろ」

「ふふ、確かに」

そんな會話をしながら、ジュードの隣を歩いていく。彼は學生時代よりも更に、長がびたように思う。

───あれから、7年が経った。

15歳だったわたしは22歳になり、魔法學園を卒業した後、現在はジュードと共に王國騎士団に所屬している。

卒業後、マーゴット様から神殿で働かないかとっていただいたけれど、いつかエルが戻ってきた時に上司と部下の関係になるのも落ち著かない気がして。人よりも多い魔力量を生かせる方法を考えた末、この道を選んだ。

攻撃魔法と治癒魔法の両方を使えるわたしは、かなり重寶されており仕事も順調だった。もちろん辛いこともあるけれど、エルのことを想えばいくらでも頑張れた。

ちなみにいつの間に手を回していたのか、わたしとあの変態侯爵の結婚の話はなくなっており、伯爵夫妻からは何故か腫れを扱うような態度を取られるようになっていた。マーゴット様とエルがいてくれたのだと、ユーインさんは言っていたけれど、詳しくは知らないままだ。

結果、サマンサを侯爵に差し出したくなかった両親は、王都にあった屋敷や家財を売り払い、なんとか借金を返済したことでその話は消えたと聞いている。現在はハートフィールド家の領地で、慎ましく暮らしているとか。

サマンサは必死に玉の輿を狙っているようだけれど、もちろん上手くいっていないようだった。

「お呼びでしょうか?」

「おう、待ってたぞ」

やがて団長のもとを訪れると、彼はいつものように椅子にどかりと背を預けたまま、爽やかな笑みを浮かべた。

「お前達のどちらかに、魔法學園に行ってもらいたい」

「學園に、ですか?」

「あれだ、新生に仕事紹介するやつ、なんかあっただろ」

「あ、確かにそんなのもありましたね」

學したての頃に、騎士団や魔法省等に務めている卒業生達から、話を聞く機會があった記憶がある。

てっきり、クライド様の護衛の話かと思っていた。彼は同級生であるわたし達を、よく指名してくださっている。現在はデザイナーとして活躍しているリネにも、々と仕事を頼んでいるようで、相変わらず素敵な方だ。

「俺は口下手だから、正直任せたい」

「いいよ、わたしが行ってくるね」

「悪いな。今度飯でも奢る」

「ふふ、ありがとう」

「じゃ、ジゼルが行くってことで伝えておくぞ。來週、打ち合わせがあるからまず頼むな」

「はい、わかりました」

學園に行くのは卒業式以來だ。知っている先生方もまだいるかな、と懐かしく思いながら、わたしはを弾ませた。

◇◇◇

「わあ、懐かしい」

翌週、わたしは事前の打ち合わせをするために、一人魔法學園を訪れていた。お世話になった先生方にも久しぶりに會えたことで、とても懐かしい気分になっていた。

そして職員棟を出て校門へと向かう途中、わたしはふと桜の木の前で足を止めた。

この場所でいつも、エルと待ち合わせをしたり、晝寢をしたりしていたのだ。學生生活だって、彼が居なくなってからの方が長かったはずなのに、思い出すのはいつだってエルと過ごした日々のことだった。

春休み中で學生がほとんどいないことをいいことに、わたしはそっと桜の木の下へと歩みを進めた。

「……もう、7年も経ったんだね」

今でも時折、神殿へと行きマーゴット様やユーインさん、クラレンスとも會っている。ちなみにシャノンさんとは、たまに飲みに行く仲になっていた。

皆エルが必ず帰ってくると信じていて、マーゴット様は結婚式の準備までしておこうか、なんて言っていたくらいだ。

──會いたいと、何度願っただろう。

彼がいなくなって初めて、一緒に過ごした日々がどれだけ幸せで、大切だったのかを思い知った。

わたし自、7年経ってもエルへの気持ちは何一つ変わっていない。他の男なんて興味もなく、自分でも驚くくらいに、未だに彼のことばかり考えている毎日だった。

彼に貰った指は、常にに付けている。かなりの能を持つ魔道らしく、かなりの時間をかけて作ったものだろうとユーインさんが教えてくれて。過去に仕事でかなり危険な目に遭った時にも、この指が守ってくれた。

こちらでは7年が経ったけれど、エルの方では一、どれくらいの時間が経っているのだろうか。マーゴット様ですら想像がつかないという。

わたしもかなり変わったように思う。あの頃よりもずっと大人になった。エルはわたしに「早く大人になれよ」なんて言っていたけれど、しは彼に近づけただろうか。

「…………っ」

彼と別れた朝から、一度も泣いていなかったのに。この場所に來たことで、思わず涙腺が緩んでしまうのをじた。

周りには大丈夫だと強がっていたけれど、本當はいつだって不安で、寂しかった。彼がしくて、仕方なかった。

エルに、會いたい。會って、好きだと伝えたい。そう思いながら、頬を伝っていく涙を拭った時だった。

「……こんなとこで何泣いてんだ、バカ」

聞こえるはずのない聲が、聞こえた気がした。

エルに會いたいと願いすぎたあまり、いよいよ幻聴まで聞こえるようになってしまったのだろうか。

何気なく振り返ると同時に、ぶわりと風が吹いた。桜の花びらが舞い上がり、視界がらかな桃に染まっていく。

その先に、人影が見えて。わたしは呼吸をすることすら忘れ、目の前の彼を呆然と見つめた。

「約束通り、迎えに來てやったぞ。お姫様」

そして、わたしの大好きな絵本のセリフに似た言葉を、ひどく意地悪な笑みを浮かべ、彼は言ってのけた。

……くだらないだとか、子供くさいだとか言ってバカにしながらも、結局しっかり読んでいたらしい。

それを今、この狀況で言うなんて反則だと思う。嬉しさとしさで余計に涙が滲み、視界がぼやけていく。

「……おそい、よ」

「そこはお待ちしてました、だろ」

今やわたしよりも頭ひとつぶん背の高い彼は、再び絵本の中のセリフを口にすると、子供のような笑みを浮かべた。

き通った蒼い瞳をらかく細める姿は、泣きたいくらいに綺麗だった。腰まである絹のような銀髪が時折風に揺れ、人間離れした彼のしさを引き立てていて。

まるで神様みたいだとすら、思ってしまう。

ぽろぽろと涙が溢れ出したわたしに、「本當、まだまだガキだな」なんて言った彼は、ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、長い指で涙をひどく優しい手つきで拭ってくれた。

「遅くなって、悪かった」

初めて會った頃には想像もつかなかった、その優しい表と聲に、わたしは余計に涙が止まらない。

謝ることだって、何よりも苦手で嫌いだったくせに。

「っエル、無事で、よかった。會いたかった」

「知ってる」

素直な気持ちを告げれば、いつの間にかきつくきつく抱きしめられていて。懐かしい溫と匂いに、また涙が出る。

「……俺もずっと、會いたかった」

やがて、ひどく優しい聲でそう呟いた彼さえ傍に居てくれれば、わたしにはもう、怖いものなんてない気がした。

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