《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》いつだって、一番

本日は書籍2巻のお知らせがあります……!

SSは學生時代のふたりのお話です。

ある日の放課後、図書室から最近わたしが夢中になっている本の続きを借りてきたところ、リネに聲を掛けられた。

「ジゼル、もう8巻まで読んだんですね」

「うん! 止まらなくなって、昨日は夜更かししちゃった」

「その気持ちは分かります。私も初めて読んだ時、二週間くらい寢不足になりましたから」

「ふふ、わたしもそうなっちゃいそう」

元々リネにおすすめしてもらったもので、絶対に面白いからと言われて読んでみたのだけれど。想像していたよりもずっと面白く、ここ數日は読書ばかりしてしまっている。

「おすすめしてくれてありがとう!」

「いいえ。でも、バーネット様に怒られてしまいそうです」

リネは困ったように微笑むと、また明日と言って教室を出ていく。どうして、エルが怒るのだろう。不思議に思いながら、わたしも帰る支度を済ませ教室を後にしたのだった。

◇◇◇

「────い、おい」

「…………」

「おい、聞いてんのかクソバカ」

「えっ? あっ、ごめんね!」

その後、自室へと戻ったわたしは早速、読書を再開した。

けれど夢中になりすぎたあまり、エルが遊びにきたことにも気付かなかったらしい。慌てて顔を上げれば、思いきり不機嫌そうなエルと視線が絡んだ。

「またそれ読んでんのかよ」

「うん。エルも読む? すっごく面白いよ」

「は、そんな本、読むわけねえだろ」

「もう! そんな言い方しないの」

エルは呆れたように笑うと、そのままテーブルに置いておいたお菓子を食べ始めた。わたしは區切りのいいところまで読んでしまおうと、再び本へと視線を落とす。

「か、かっこいい……」

そんな中、主人公の男にときめくシーンに思わずそんな聲をらしてしまったところ、いつの間にかベッドに寢転んでいたエルは「は?」と苛立ったような聲を出した。

「なに、いまの」

「えっ? 主人公がすっごくかっこよくて」

「……へえ」

「ほら、見て! 王子様みたいじゃない?」

そう言って本の挿絵を見せれば、エルは一瞥した後、ふんと鼻で笑って。

「どう見たって、俺の方がかっこいいだろ」

そんなことを堂々と言ってのけた。

「つーか毎日、そいつの話ばっかりうざい」

「ご、ごめん。でも、エルと比べるのはなにか違うような」

「は? 俺はそいつより──る上に──し、そいつよりも頭も良くて顔もいい。何より魔法だって、誰よりも凄いだろ」

前半は例のもやがかかってしまい、よく分からなかったものの、とにかく自分の方が主人公よりすごいと言いたいのだけは分かった。何より、やけにムキになっている気がする。

それと同時に、わたしふと引っ掛かりを覚えた。

「ていうかエル、なんでそんなに詳しいの? わたし、そこまでエルに話してないよね?」

「……なんでもいいだろ」

急にぷいと顔を背ける姿が、なんだか怪しい。気になったわたしは本を閉じると、寢転がるエルの側へと向かい、そのを「ねえ、なんで?」と揺すってみる。

エルは「うるさい」「うざい」なんて言っていたけれど、わたしがしつこく聞き続けた末、深い溜め息を吐いた。

「……お前がうるさいから、どんな奴なのかと思ってほんのしだけ読んでみただけだ。ほんとむかつく」

「えっ」

まさかのまさかで、エルはあの本を読んでみたらしい。

その上、わたしが主人公を褒めていることに対して拗ねているようだった。むしろ、それを理由に読んだようで、の奧からじわじわと嬉しさが込み上げてくる。

「エル、かわいい」

「調子に乗んな。あと、俺以外のやつを褒めんのやめろ」

エルは前にも、なんでも一番がいいと言っていた。まさかこんなことまで一番がいいとは思わなかったけれど、やっぱり嬉しくなってしまう。

わたしの一番は、いつだってエルだというのに。

「ふふ、そうだね! ごめんね。エルが一番かっこいいよ」

そう告げれば、満足げに「當たり前だろ」なんて言うエルがおしくて。わたしは思い切り、その背中に抱きついた。

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