《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》二人でお出かけ

何を企んでいるのだろう?

車ではなく、路面電車に乗ろうと賢司が言い、咲はそれに従う。

家を出て二人とも無言で歩きながら、咲はい頃のことを思い出していた。

あれは周が生まれる前だから、約20年前になるだろうか。

父親を事件で亡くし、他に頼るあてもなかった母親は夫の実家である旅館に戻り、そこで住み込みの仲居という立場で働き始めた。

まわりは全員敵だった。

その上、母の咲子は、藤江悠司(ふじえゆうじ)という妻子ある男と不倫関係になった。

彼が旅館の客としてやってきて、部屋係を擔當したのが母だった。

それからどんな経緯があって2人がに落ちたのかは知らない。

けれど、その話はやがて職場中に広まるようになった。當然、母のことを良く言う人はおらず、咲はいつも孤獨だった。

そんなある日、母が咲を遊園地に連れて行ってくれると言った。

それは実質的には自分と人のデートに娘を連れて行くということだったが、驚いたことに相手も自分の息子を連れて來ていた。

それが藤江賢司との初めての出會いだった。

綺麗な顔をしているのに、暗い眼をした年だった。

まるで生きているのが苦痛だとでもいうような。

かくいう自分も、彼の目には同じように映っていたのかもしれないが。

「賢司、咲ちゃんをエスコートしてあげるんだぞ?」

賢司の父親、悠司に咲も何度か會ったことがあるが、似ていない親子だと思った。

父親の言葉に頷いて彼は手を差し出してくれた。

咲はし躊躇したのち、その手に手を重ねた。冷たい手だった。

互いの親はその様子を見て満足すると、二人の世界にり込んでしまった。

やがて親達の姿が見えなくなると彼は手を離した。

僕はここにいるから迷子にならないでね、とだけ言って彼はベンチに腰かけた。

「何にも乗らないの? 遊園地に來たのに」

その日は平日だったせいか、どのアトラクションも空いていた。

「……くだらない」彼はそう答えた。

「だったら私もここにいる」

一人で乗ったところで楽しくなんかない。

本當は母と二人で廻りたかった。

咲は賢司の隣に腰かけた。

「君も親を、生まれてくる家を選べなかったんだね」

當時の咲にはあまり理解できなかったが、なんとなく賢司の言い方にトゲをじた。

今にして思えば、およそ子供の言う臺詞ではない気がするが。

「あの二人、結婚するらしいよ」

「え?」

「僕の母親と別れて、君のお母さんと結婚するって父は言ってる。無理だと思うけど」

「……おじさんが、私のお父さんになってくれるの?」

それまでも時々、藤江悠司は母を訪ねて従業員寮にやって來ていた。

そしていつも咲の為に、お菓子や洋服や文房など、しいものをたくさん持ってきてくれた。

でも、おじさんより他にお父さんになってしい人がいる。

母にそのことを口にしたことはないけれど。

「二人とも、何にも乗らなくていいの?」

しばらくして母と悠司が、ベンチに座り込んで黙っている子供達の様子を見に來た。

「お母さんと一緒がいい!」咲は思わず咲子に抱きついた。

「そうか、ごめんね咲ちゃん。おじさんがお母さんを獨り占めしちゃダメだよね。咲子、僕達はここで待ってるから、咲ちゃんと一緒に何か乗っておいで」

おじさんは本當に優しい人だ。

周はやはり、父親に似たのだろう。

「……どこに何を買いに行くのか、しも聞かないんだね」

不意に賢司の聲が耳に屆いて、咲ははっと我に帰った。

別に興味ないもの。口には出さないが、で呟く。

「こんなふうに二人で歩くの、20年ぶりぐらいかな?」

もしや彼も、自分と同じ思い出を辿っていたのだろうか?

「ねぇ、咲。あの頃から僕は君のことが好きだったって言ったら、信じてくれる?」

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