《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》再會したものの

イラストは一條えりん様からのいただきものです。

いいじでしょ?!

和泉は誰もいないのに一人でニコニコ笑いながら、ヒマつぶしに買ってきた週刊誌を広げていた。

仕事しろよ、とツッコむ人は誰もいない。

ああして、自分を頼ってくれる周が可くて仕方ない。

誰かに必要とされていること、守りたいと思う対象がいることは彼にとって、深い満足を覚えさせてくれることだった。

しかしそんな甘で優雅な気分をぶち壊すかのように、線電話が鳴り始めた。

誰が出てよ、と思ったが誰もいない。

知らないフリをしようかと思ったが、萬が一かけてきたのが課長あたりだったら、バレたら後が面倒くさい。

仕方ない。

「はい、捜査1課……」

『……彰彥さん?』

誰だ?

自分をそんなふうに呼ぶ相手に今のところ心當たりはない。

悪戯だろうか?

しかし線電話をかけてきていることから察するに、それほど暇な警はいないと思う。

「どちら様?」

和泉は自分で淹れた熱い緑茶を啜った。

『一階まで降りてきて、今すぐ!!』

その口調と聲には確かに聞き覚えがある。

ものすごく嫌な予がした。

を元に戻し、和泉はし迷った挙句に逃走することを決めた。

とは言っても當番を放棄するわけにはいかない。

今日一番機嫌の良さそうな仲間を呼びつけて、代わってもらうことにしよう。

そうだ、うさこ!

和泉は結の攜帯番號に電話をかけた。が、留守番電話になってしまう。

その後、他の同僚達にもかけてみたが、まるで示し合わせたかのように誰の電話もつながらない。

今、事件が起きて呼び出しがかかったらどうするつもりだ?!

その時、彼は気付いていなかった。今時の電話にはナンバーディスプレイ機能が標準で設置されていることに。

そうこうしているうち、線電話が催促の鐘を鳴らす。

和泉の別れた妻が最近、聡介の家の前をずっとうろついているという話を聞いたのは、つい今朝の話である。

同じ階の住民が近くの番に屆け出たのだそうだ。

通報をけて駆け付けた地域課の巡査は、そのが前の県警本部長の娘であり、かつて和泉の妻だったという話を聞いて、上司にそのことを報告したらしい。

それが巡り巡って今朝、ようやく和泉の耳にもった。

もしかして周も彼を見ただろうか?

ああ、嫌だなぁ……。

こっちに何の相談もなく勝手に離婚を決めて、車以外全部持って行ってしまった上、置き手紙だけで挨拶の一言もなかったくせに。

和泉は渋々1階ロビーに降りてみた。

相手はこちらに背中を向けていた。赤いコートにハイヒール、きっとアウトレットではない正規品のブランドバッグ。相変わらずだ。

わざわざ自分から聲をかけることもないだろう。

気付かないならそれはそれで……と和泉はこっそり刑事課の部屋に戻ろうとしていた、が、そうは問屋が下ろさなかった。

「彰彥さん!」

かつて戸籍上妻だった……今は舊姓に戻って本間靜香となっている……は、駆け寄って來て抱きつこうとした。

振り返って和泉は思わず、をかわす。

「や、やぁ……久しぶり……」

壁沿いに後ずさりながら和泉は作り笑いを浮かべた。

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