「はっくしょん！！　……うぅ、誰かが僕の悪口を言ってる……」

「なぜ、わざわざ自分の方を向いてくしゃみをするんですか？」

駿河は卓上にあるティッシュを箱ごと和泉に向けて投げつけた。

時刻は午後１時。

晝の休憩を終えてデスクに戻った、一番眠気が襲う時間である。

「葵ちゃんに話しかけようと思った瞬間だったんだよ。ところで、最近周君と連絡取ったりした？」

「いえ……」

確かにこの頃は周から音沙汰がない。し前、自宅に遊びに來た日以來だ。

元気なのか、咲はどうしているのか、気になることはたくさんあるのだが……。

「そういう和泉さんこそ、この頃こそこそと何をしておられるんですか？」

「こそこそって……人を泥棒みたいに言わないでよ」

和泉が鼻をかんで丸めたティッシュが、駿河の頭上を飛んでゴミ箱にシュートする。

どうしてこの人は、わざわざ人の神経を逆でするような真似をするのだろう？

「こないだのこと、調べてみた？」和泉は言った。

こないだのこととは、咲の実家である旅館が閉館するという話だ。

あの後ホームページを見たり、事に通じている地元民である、所轄にいた頃の先輩刑事に連絡して聞いてみたが、どうやら真実らしい。

咲は今、どんな気持ちでいるだろう？

気になって仕方なかったが自分ではどうすることもできない。

他に選択の余地がなかったとはいえ、咲は仲居の仕事をなくとも楽しんでいたと思う。一生懸命働いて、いつも笑顔だった。

もしもあの男の許しを得られて、もう一度仲居として働くことができたとしても、け皿がないのではどうしようもない。

大金があれば彼を救えるのだろうか？

父親に頼めば、旅館を再生できるだけの資金を融通してもらえるだろうか？

あれこれ考えてみたが結論はでなかった。

「でもさ、おかしいと思わない？」

「……何がです」

「２０年も前の橫領事件が今に至るまで尾を引くものかな？　ま、僕は経営とかそういうことに関しては素人だから何とも言えないけど」

「自分だってわかりません」

「っていうかそもそも、それって本當に咲さんのお父さんが犯人だったのかな？」

駿河は手を止めた。

「もしかしてだけど～」と、和泉は何年か前に流行った、妙な歌を口ずさみながら立ち上がり、どこかへ向かう。

考えてみたこともなかった。

駿河は慌てて立ち上がり、和泉の後を追う。

「和泉さん！」

姿を探すと、彼は自販売機の前にいた。

「なに、葵ちゃんが奢ってくれるの？」

駿河は黙ってポケットから小銭を出した。

ありがとね、とけ取りながら和泉は溫かい紅茶のボタンを押す。

はい、と手渡されて、どうしたものかと思案しつつもけ取る。

「これ好きでしょ？」

和泉は自分の小銭れから百円玉を取り出し、コーヒーのボタンを押した。

とりあえず禮を言っておくべきか。相変わらず訳のわからない人だ。

「あの、さっきの話は……」

「とりあえず、座らない？」