白人男は勢いを削がれて三男坊を放り投げた。慌てて長男が抱きとめたが、三男坊は顔を歪めて大聲で泣き出した。

白人男とが謎の言語で何か話し合っている。

咲がいつの間にか自分のハンカチを水で濡らし、男のズボンの裾をポンポンと叩いていた。

それから彼は立ち上がり、周にはわからない言語で男に話しかけた。

おそらく英語だと思われる。

すると男はみるみるうちに笑顔になり、いきなり咲に抱きついてきた。

「きゃあっ？！」

「何しやがる！！」

周は男に向かって行った。しかし、

「待ってください、彼に悪気はないんです！」

そう流暢な日本語で周を止めたのは、白人であった。

それから彼が男に何か言うと、男は溜め息をつきながら咲を手放す。

それでも未練たっぷりな様子で男はまだ何か言っている。

「……お名前を教えてください、と言っています」

「恐れりますが、その前に、通訳していただけますか？」

円城寺が白人に言った。「ほら、こういう時は何て言うんだ？」

彼のい弟は涙ぐみながら、

「ごめんなさい……」

白人はにっこりと笑って、謎の言語で男に話しかけた。

「そうだ、クリーニング代を……」円城寺はポケットを探ったが、白人はその手をとどめた。

「いいのよ、安なんだから」

悪戯っ子のように微笑んで彼は言った。

白人男はなおも、連れのにあれこれ話しかけている。

「ああもう、うるさいわね……あなたのお名前を教えていただけますか？」

白人が咲に話しかける。

周はふと、悪戯心を覚えた。答えようとする姉を遮り、

「彰彥です、和泉彰彥」

咲がぎょっとした顔をした。

円城寺も智哉も不思議そうな顔をしている。

すると白人はケラケラと笑いだした。おそらくそれが男の名前だとわかっているのだろう。

しかし、彼はそのまま通訳したらしい。

「アキヒコ！」

白人男は咲に向かってそう呼びかけた。友人二人が吹き出す。

姉だけはあまり訳がわかっていない様子だ。きょとん、としている。

それから白人男は咲に向かって何か言っていたが、まったく通じていない。

連れのも通訳してくれなかった。

とにもかくにも事態は収拾を見せ、再び食事に専念する。

痛い思いをしたい男の子たちは、その後は大人しくしていた。

「お姉さん、英語話せるんですね。すごいなぁ」智哉が尊敬のまなざしで言った。

咲は慌てて手を振る。「話せるなんてほどじゃないわよ。ただ、萬が一外國人のお客様のお洋服を汚したりした時のために、それだけは必死で覚えたの」

「素晴らしい。僕は英語の文法はわかるが、會話となるとあまり理解できない。やはり機上の論理よりも、実踐だな」

友人達は口々に姉を褒めてくれる。周は気分が良かった。

「それにしても、何語だったんだろう？」