《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》結局のところ軍配は

こうなったら片っ端からタクシー會社に電話をかけてみるか。その時だ。

「……咲、いるの?」

ドアの外から賢司の聲が聞こえた。

「いるわよ、何?」

思わず苛立ちをじて、つっけんどんな言い方になったのを自分でもじた。

「コーヒーを淹れてくれないか」

今は、それどころじゃないんだけど。

怒鳴りつけたいのを必死の思いで堪え、咲はわかったわ、と返事をする。

焦っても仕方がない。

咲は長襦袢をいで、普通の服に著替えてリビングに向かった。

賢司も服を著替えてリビングのソファに腰かけていた。

何も言わないが、表し翳りが見える。

彼が何を考えているのかなんて、そんなことはどうでもいい。とにかく今はかんざしのことだけを考えなくては。

咲はできる限り平靜を裝い、臺所に立った。

ヤカンに水をれてガスにかける。

落ち著け、私。よく思い出して……パーティーの最中はきっと、ちゃんと髪に挿していたはずよ。

湯が沸いた。

コーヒーフィルターにペーパーをセットし、コーヒーのを投する。

「……どうかしたの?」

異変に気付かれてしまったようだ。

咲は手を止め、賢司の顔をまともに見つめた。

の読めない表だ。

今怒っているのか、それとも、平常通りなのか。

「別に、なんでもないわ……」

なんでもなくはない。

人生の一大事とも言える重大な事件だ。

心からする彼からもらった、命の次に大切な、かんざしが見つからない……。

この人にはきっと理解できない。

たかがそれぐらいのことで。そう言われるに決まっている。

でも、そうじゃない。

他の人間にとってはどうだっていいでも、咲にとってはかけがえのない大切なものなのだ。

「……何か、言いたそうな顔をしているね」

不意に賢司の聲が耳に屆いた。

言いたい事なら數えきれないぐらいある。

不満、文句、要

どうか私と別れてください……自由にしてください。

咲はあれこれ考えた末に、を開いた。

「あのね、賢司さん。さっきはごめんなさい、し言い過ぎたわ。私、あなたには謝しているの。実家がもうダメだと思った時に助けてくれたのは事実だもの……」

銀行が融資してくれなくなり、いよいよ閉館かと思われた時、すべての借金を肩代わりしてくれたのは賢司だった。

條件付きだったとはいえ、そのおかげで何とか當座の危機は凌いだ。

「でも、もういいの」

「……どういう意味だい?」

賢司は新聞を置いて咲を見つめた。「まさか、もう旅館は閉めるから離婚したいとでも言うんじゃないだろうね」

夫はテレビをつけた。ニュースをやっている。

今日の日経平均株価、政治家達の國會討論の様子。

「殘念だけど、離婚はしないよ。みっともないじゃないか。それに、旅館を閉めたら借金がなくなる訳じゃない。君から返済してもらうよ」

「……」

「どこかに働き口を探すのはどうだい? 君ぐらいベテランの仲居さんをしがる旅館は必ずあるだろうね。それとも、てっとり早く風俗店で働く? 君は母親似の人だからね、きっとすぐ売れっ子になれるよ」

その時、リビングのドアが開く音がして弟が姿を見せた。

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