《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》あなたの街のタウンページ

賢司が帰宅しているなんてめずらしい。

きっと、パーティー會場から職場に戻るんだと思っていたのに。風呂場にいた周は2人が帰ってきていることに気付かずにいた。

「風呂、沸いてるよ」

ありがとう、と力なく笑って姉は臺所に向かう。

その背中には何とも言えない哀愁が漂っている。

「……姉さん、何かあった?」

賢司が風呂に向かったのを確認した後、周は聲をかけた。

「え……?」

「顔悪いけど、大丈夫か?」

姉はややあって、泣き出しそうな顔で事の次第を話してくれた。

「……かんざし……?」

「周君、どこかで見なかった?」

全然気付かなかった。

周がそう答えると、咲はそう……と、力ない返事をした。

なんとなくだけれど。あいつからもらったとか、そういう大切なものなんじゃないだろうか。

だとしたら兄が家にいる今、その話題は避けた方が良い。

「あのさ、姉さん。大事な話があるんだ……」

周は和泉の知り合いだという會計士に、一度旅館の経営狀態を見てもらうことを検討していることを、咲に話した。

しかし、姉の表はあまり晴れなかった。

※※※※※※※※※※※※

待ち合わせは宮島口のフェリー乗り場前。

その日、本來は休日らしいが、休み返上でわざわざ尾道から宮島まで、タウンページと呼ばれた會計士、有村優作はやってきてくれた。

まだ隨分若い。

大丈夫かな? と周が不安に思ったのは、その不機嫌極まりない表のせいもある。

眉間に深く刻まれた皺、はへの字に結ばれていて、やっぱり無理を言ったせいかな……と申し訳ない気持ちになる。

「來てくれてありがとう、優君」

かくいう和泉も今日は時間を取って周達と一緒に來てくれた。

これから仕事なのだろうか、スーツにネクタイ姿である。

「紹介するね、彼が依頼人の藤江周君で、こちらがお姉さんの咲さん。今回は彼のお姉さんの実家が経営する旅館を見てもらいたいんだ」

「初めまして、藤江周と言います。今回は無理を言ってすみません」

周はぺこりと頭を下げたが、ああ、と無想な返事があっただけ。

「……で、場所はどこだ?」

「宮島だって言ったじゃない」

何か怒ってるのかな?

周はちらりと和泉を見つめた。

「気にしなくていいよ、あの表はデフォルトだから。子供の頃から、歯を見せて笑ったことがない」

和泉は言った。

子供の頃から知っているからなのか、弱味を握っているのは。

「それと寢不足かな? 機嫌が悪いのは。彼のところ、赤ちゃんが産まれたばかりで、夜泣きするんだよ。それで夜中に何度も起こされてね」

なんだかますます申し訳なくなった。

「でもね、困ってる人を助けたいっていう気持ちは本だよ。ま、ご機嫌をとる方法も知してるから任せておいて」

和泉は笑う。

それにしても悪い笑顔だなぁ……。

ところで、姉は朝からひどく元気がなかった。

「姉さん、大丈夫?」

「え? あ、ごめんなさいね、ぼんやりしていて……」

咲は無理をして微笑む。

「調子悪いなら家に帰った方が……」

「ううん、私の一大事だもの」

あ、フェリーが來たわよ、と咲は周の腕を取って歩き出す。

痛々しいほどに元気なフリをしているのがわかる。

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