《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》エセ関西弁

事務所には將と専務がいた。社長は今日も不在である。

二人とも予め事を聞いていたようで、驚いたり戸ったりこそしなかったが、し困った顔をしていた。

將、こちらが會計士の有村さん」咲は二人に優作を紹介した。

「どうも、この度は……」

「挨拶は後でいい。とにかく、帳簿を見せてくれ」

周はぎょっとした。

この人は誰に対しても、こういう口のきき方なのだろうか?

「はい、あの……何時からのでしょう?」

將がおずおずと尋ねる。

「問題のあった20年前からだ」

將、専務、咲の三人は顔を見合わせた。

「私、取ってくるわ。置いてある場所は変わっていないでしょう?」

咲は急いで事務所を出た。

「じゃあ、優君。僕はこれから仕事だから本土に帰るけど……後は頼んだよ?」

和泉はぽん、と優作の肩にれてから事務所を出て行く。

「俺も帰る」

周は和泉の後を追った。ここにいたって邪魔になるだけだ。

旅館の手伝いをしてもいいと思ったけれど將が気を遣うだろう。

人件費を発生させるのは気が進まない。それに、貓達の面倒も見なければいけない。

旅館を出て二人で歩き始める。人の流れはほとんど、厳島神社か旅館、彌山方面へ向かっているのに、フェリー乗り場へ向かって歩いているのは和泉と周ぐらいだ。

「……今日、仕事だったのに……無理させてごめんなさい」

周が言うと和泉は笑って、

「無理じゃないよ。それにね、仕事ができる人は本來、今日は休める筈なんだ」

噓だ。本當は自分達の為に余計な時間を割かなければならなくて、そのしわ寄せがきているに違いない。

この人の優しさにどこまで甘えていいのだろうか?

どう応えたらいいのだろう?

「ところで周君。さっきの外人さん、咲さんに向かって、なぜか僕の名前を呼んでいたけど、何か知ってるよね?」

ぎくっ。

「えーと……あ、そうだ! 近道通って帰ろう?」

客の波を避け、フェリー乗り場に向かうことができる細い路地を教えてくれたのは姉だ。

古い民家がひしめき合うように立っている狹い道を歩いていると、向こうから料理人の白を著た中年男が和泉を見て聲をかけた。

「よぉ。あれから、淺井さんには會えたかい?」

「えぇ、おかげさまで」和泉の知り合いのようだ。

「偏屈なバアさんだろ?」

「まったくですよ。棺桶に両足を突っ込む前に洗いざらい口を割ってもらわないとね。冥土への土産は置いていってもらいます」

何の話だかわからないが口が悪い。

相手も苦笑している。

それじゃ、と再び歩き始めてしばらくすると、あまり舗裝されていない道に出る。

背の高い雑草が生い茂る竹林で、夜は絶対に通りたくないところだ。

茂みからがさがさと音がした。

鹿だろうと思ったら、日本語が聞こえてきた。

和泉が足を止め、周もそれに倣う。

「どうして!? 潤さん!」若い男の聲。

ちらりと姿が見えた。

歌舞伎俳優の形かと思うような優男で、和服を著ている。

そしてもう一人、スーツ姿の男。銀縁眼鏡で、どこか堅気ではない雰囲気を醸し出している。

「わかってください、私も辛いんですよ」

「嫌だ!」

「坊っちゃん!」癡話喧嘩か?

周がちらりと和泉の橫顔を伺うと、彼はいつになく真剣な顔で黙っていた。し怒ってるいるようにも見える。

「いいですか? あなたはこれからの白鴎館を背負っていくです。社長なんですよ。上に立つ者は私に流されては……」

すると和服の男は眼鏡の男の首に抱きついた。

「……そんな話なら聞きたく、ない……」

えらいもん見てしもた。

なぜか周はでエセ関西弁を使っていた。

行こう、わずかに聞き取れる小さな聲で和泉は言い、唖然としている周の手を引っ張る。びっくりした。

そして結局、本土に戻って別れるまで、二人とも黙り込んだままでいた。

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