《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》無理言うな

三村亜沙子と會う約束をしている時間まで、もうし余裕がある。

和泉は欠を噛み殺しながら、

「聡さん、ちょっと著替えを取りに戻りますね。聡さんの分も持って來ますか?」

「ああ、頼む」

もうしばらくは本部に泊まり込みで仕事をする羽目になるだろう。

今、何時だっけ?

ふと時計を見た。まだ午前7時をし過ぎたぐらいである。

半分寢ぼけながら自宅……と言っても、居候先に向かう。荷をまとめながら早朝のことを思い出したら、段々とムカついてきた。

あれから賊が襲ってくることはなかったし、張り込みを続けてもこれと言った変化は生じなかった。

それはいい。

だが。

なぜ、朝になって西島進一の家から周が出てきたのか。

家庭教師と稱して進一が周に近づいていたのは知っている。しかし、なんだかあまりにも親しすぎないか?

またあの男が何か企んでいるのか?!

あれこれ考えているうちにイライラが頂點に達した和泉は、荷を手に玄関を出て、隣家のドアチャイムを鳴らそうとした。

この時間に、インターフォンを連打したら嫌がらせ以外の何でもない。

もし周が寢ていたら……とし躊躇した時、思いがけず側から扉が空いて、普段著姿の藤江賢司が姿をあらわした。

手にゴミ袋を持っている。

もしかして咲は不在なのだろうか。

「……おはようございます」

和泉は思い切り顔に不快をあらわし、それでも挨拶はした。

どうやら寢起きが悪いらしい相手は、眉間にしわを寄せて目を細め、誰だろかと検分しているようだ。

「ああ、おはようございます……」

ゴミを出して戻ってくる頃には、もうし頭もハッキリしていることだろう。

和泉は玄関の前で彼を待った。

戻ってきた彼は和泉に気付くと、面白くなさそうな顔で、

「なんですか?」と、つっけんどんな口調で訊ねてくる。

相変わらず手にごみ袋を持っているあたり、今日は回収日ではなかったことに気付いたらしい。

「いろいろと、お訊きしたいことがありましてね」

「……もうし、後にしていただけませんか?」

こちらの返事を待たずに中へろうとする賢司の腕を、和泉はつかんだ。

案の定、嫌そうな顔で振り返られるが知ったことではない。

むしろざまぁみろ、だ。

和泉は思わず笑顔になってしまった。ぱっと手を離す。

「西島進一について、知っていることを全部話してください」

賢司は和泉の方にを向けると、

「ほとんどありませんよ。彼がかった頃に、同じ音楽教室に通ったことがあるぐらいです。祖父同士は親しくしていたようですが」

「……真実だと言いきれますか?」

わざと挑発するような言い方をすると、彼はごみ袋を玄関先に下ろした。

「どういう意味です?」

「……あなたは今回の事件に、何一つ絡んでいないと言い切れますか?」

しばらく、無言の睨み合いが続いた。先に目を逸らしたのは賢司の方だ。

「……なんの話ですか」

おおかた警察を呼びますよ、とでも言いたいところだろうが、殘念ながら『警察』ならここにいる。

「僕が何も知らないと思っていたら、大きな間違いですよ。ちゃんと把握していますよ、藤江賢司さん。あなたが今までしてきた、犯罪すれすれ幾つかの事案をね」

すると賢司は片頬を歪めるような笑い方をした。

「ずいぶんとおかしな、それでいて意味のわからないことをおっしゃいますね」

和泉も同じ笑い方をしてみせる。

「日本語で話しているつもりですけどね?」

相手は笑いを引っ込めた。

「……あなたのみはいったい何ですか? 和泉さん」

「僕のみ……それは、周君と咲さんが平穏無事な生活を送ることです」

賢司は再び嘲笑を顔に浮かべる。

「あなたと関わっていたら、一生無理だと思いますよ?」

「まぁ、そんな気もします」

和泉の答えが意外だったのか、2人の間に、しの間沈黙が降りた。

「それにしても……ずいぶん、咲と周に肩れなさるんですね。いったい、何が狙いですか? あなたもまさか、僕の妻に好意を持っておられるのですか?」

「好度は高いですよ、かなりね」

「……だからですか? 僕にあれこれと難癖をつけて、いっそ離婚に至ればいいとお考えですか? そうすれば……」

「仮にあなたが咲さんとお別れなさっても、僕は彼に手を出すつもりはありません」

賢司は怪訝そうな顔をする。

「先ほどの回答は、訂正させていただきます。僕の願いは……周君……」

「周が、なんです?」

「僕がお嫁にしいのは、周君です。弟さんを僕にください!!」

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