「早い話が、言い方は悪いですけど……アレックスの拭いです」

友永が肩を震わせる。おそらく笑ったに違いない。

デリカシーのない相棒をちらりと睨み、駿河は再度、橋本帆に視線を向ける。

「どうして、そんなこと……」

彼も苦笑しながら答える。

「どうしてお二人がそんなことをしているのか、聞いたことがあります。そうしたら進一君は……親しいが被害に遭った、これ以上彼のような悲しい思いをする人を増やしたくない、被害者の會を結して心のケアをしたいと。噓みたいでしょう？　でも、本當の話なんです」

思った以上にコーヒーが熱い。

駿河は冷たい水で口の中を冷やし、

「わかっています。そんな作り話をするために、わざわざ勇気をい起して私に、連絡をくださったなどと思っていません」

彼は微笑む。

「やっぱり、刑事さんに連絡して良かった……」

そう言ってもらえるのなら、こちらとしても幸いだ。

「ただ、私も初めはとても信じられませんでした。でも、二人の真摯な態度にいつしか、気持ちが揺れて……私、何度かアレックスの攜帯電話を見たことがあって。覚えている限り、関係のあったの名前を明かしたんです……実際『○○』って誰？　と、問い詰めたこともありますし」

だいぶ気持ちがほぐれたらしい。

張の面持ちは消え、軽い口調で彼は話した。

「だけどある時、差出人は不明ですが、これからアレックスに正義の裁きを施行する。疑われたくなければ、絶対的なアリバイを確保すること、そんなメールが屆きました」

誰かが言っていた。

インターネットのサイトを利用して、詐欺被害者全員にアリバイを確保させた上で、いわゆる【裁き】をくだしたのではないか。

駿河は冗談だと思っていた。

「……イタズラかと思ったのですが、決行の日時や場所、あまりにも的で、怖くなってアリバイを確保するために出かけました」

「そのメールは？」

橋本帆は首を橫に振る。

「確認したらすぐに削除するよう指示がありましたので、そうしました」

削除したデータも復舊するがある。

発信元を特定することだって可能だ。

「……あなたの攜帯電話を貸していただけますか？」

し迷った様子を見せた後、彼はそれを差し出してくれた。

駿河は禮を言い、それをポケットにしまいこんだ。

「私からお話できることは、これぐらいです」

彼はそう話を締めくくった。「正直、貸したお金が返ってこないだろうことも、誰が彼を殺したかも……もう、たいして興味はないです。でも、刑事さんにだけは信じてしくて。私は無実だと」

「……ご協力に謝いたします」

駿河は立ち上がる。ずっと黙っていた友永に、行こうと視線を送り。

「あ、刑事さん。もしもビアンカさんに會う機會があったら……伝えてもらえませんか？　あの時は酷いことを言ってごめんなさい、って」

承知しました、と彼は答えて店を出た。

即刻、班長に報告しよう。

駿河は車の鍵を相棒に握らせ、助手席に乗り込むと、上司の番號をダイヤルした。