《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》レディファースト

ドキドキ、と心臓が嫌な音を立てる。

好きな人に會った時のようなときめきではない。

ただただ、何か叱られるであろう時の気まずい。あれと同じだ。

子供の頃、ほんの悪戯心で父親から買ってもらった楽を壊したことがある。

それが見つかった時の彼の反応を思い出させる、そんな背中だった。

狹い階段を上ると和室があり、前を歩く刑事は襖を開けて、どうぞと手を差し出す。

日本人男にもこういうことができる人がいるのね、とビアンカはし驚く。

「……それで、私に訊きたいことってなぁに?」

座布団の上に腰をおろし、あくまでさりげないふうを裝う。

「……あなたはまだ、我々に話していない事実をいろいろと知っている。そうですね?」

何が判明したのだろう?

頭の中でいろいろと思いめぐらしてみる。

「まぁそれは、いくらかあるわよ。プライベートなことを、聞かれてもいないのにペラペラ話す趣味はないもの……」

やや早口だったかもしれない。すると彼は、

「アレックス氏の詐欺被害に遭った達を探していましたね?」

ぎく、とが震えたのが自分でもわかった。

誰が話したのだろう?

このことは警察が話を聞きに來ても、絶対に話すなと言ってあるのに。

「詐欺被害に遭った達を探して、謝罪に回ったそうですね。西島進一と共に。なぜです? 婚約は破棄なさったのでしょう。あなたは無関係、知らぬ存ぜぬを貫けたはずだ」

襖が空いて、おしぼりと溫かいお茶が運ばれてくる。

ビアンカはそれをけ取り、座卓の上に置いた。

「それは、あくまでも人道的な見地から……」

「そうでしょう、それはとても立派なことだと思います。あなたには頭が下がるばかりです」

この人はきっと、本気でそう言ってくれている。

そのことがわかったビアンカは思わず涙ぐんだ。

「でも、被害に遭った達は……そうは思いません。中には私がアレックスをって、彼を利用したと誤解する人までいました。それに。被害者を探しだしてできるだけのことはしようと、最初に言い出したのは、進一の方です。私も彼の考えに賛しました」

もしやこの刑事は、進一や自分を疑っているのだろうか?

溫厚で優しそうなこの男は。

「それが彼への、彼達への償いになれば……だから私、アレックスが殺されたって聞いた時、誰のことを話してもきっと詐欺被害にあった誰かが疑われてしまう。そう思いました。まだ償いは済んでいません。私はこんな終わり方、納得できません……」

待ってください、と刑事は手をばす。

「西島進一はなぜ、そんなことを始めようと思ったのでしょうか?」

「……それは……」

どうしよう。

あのことを話すべきかどうか。判斷がつかない。

すると刑事はいきなり質問を変えます、と言った。

「誰が、アレックス氏を殺したのでしょうか?」

「……通り魔でしょう? 警察は公式にそう発表したじゃない」

思わず語気を強めてしまう。

「私は、そうは考えていません。ですから勝手に事件を追っています」

そんなことわかってるわ。

ビアンカは無理矢理言葉を飲み込んだ。

刑事はおしぼりで手を拭きながら、それでも視線はずっと外さない。

「被害者が殺害された狀況から考えるに……犯人は相當強い恨みを持っていたと考えられます。何度も毆りつけ、足蹴にし、最後に刃を突き立てました。傷口の形狀からして、恐らく男の仕業です。となると、いったい誰が? 誰かとても大切なが……詐欺の被害に遭った、その復讐ではないか。そして……被害者が亡くなる直前まで一緒にいたのは、西島進一氏でした」

ビアンカは思わず腰を浮かせた。

「進一を疑うの?!」

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