《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》狀況証拠に至るまで

「……あなたも、そうだったのではありませんか?」

ずばり核心を言い當てられ、ビアンカは口を噤んだ。

「そりゃ、まさかと思ったことはあったわ。でも、あの子はそんなことしない。小さな頃から知っているもの。蟲も殺せない優しい子なのよ」

「……人は、いろいろな経験を通して変わるものです。そしてビアンカさん、あなたは今『まさかと思ったことがある』と、おっしゃいましたね?」

そんなこと言っていない、ととぼけても無駄だとビアンカは悟った。

「心當たりがあるのですね? 彼がアレックス氏に対し、恨みを抱く機について」

警察はどこまで調べているのだろう?

もしかして既に、ドイツまで行ってきたのだろうか。

「可奈子というをご存知ですね? そして、バイオリニストの三村亜沙子。あなたの知っていることを話してください」

どうしよう。

どう答えたらいいのだろう。

隣のベッドに寢ていた老婦人が言っていたことを思い出す。

『それはとても辛いこと』だと。

重い罪について知っていることを隠すこと。

それは自分が考えていたよりもずっと、辛いことだった。

「……もう、いいじゃない。仮に警察が進一のことを疑ったりしたら、彼のお父様が黙っていないわ」

「ええ、そうです。通り魔による犯行などという、一番あり得ない方向へねじ曲げたのは彼の祖父です」

ああ、そうか。

彼の祖父は代議士だ。警察に圧力をかけるなんていうこと、造作もないだろう。

「あなたはそのことを正しいと考えますか? ビアンカさん」

肯定する訳がない。相手もわかっていて、そう訊ねてくる。

「私は、刑事じゃないもの」

「いいえ、そうではなく人間として、です」

「……」

「あなたは我々と違う。金の髪に、蒼い瞳。それでも流れるは同じ赤であり、同じ人間です。あなたに怪我をさせた相手は、父親の立場をかさに、謝罪に來ようともしなかった。たまたまあなたのご親族の関係で、無難に解決しました。でも、決してあなたは納得した訳ではありませんよね? むしろ、余計に気分を害されたはずだ」

彼の言う通りだ。

今でもあの時のことを思い出すと、がムカつく。

自分は何も悪いことをしていないのに、どうして頭を下げなくてはいけないの?

の顔にははっきりそう書いてあった。

相手がどこの馬の骨ともわからないような人間なら、こんな悔しい思いをしなくて済んだのに。

どこまでもの腐った人間だ。

ビアンカは怒りを通り越して、もはや呆れるしかなかった。

「その気持ちがわかるあなたにもきっと、我々の気持ちはわかるはずです。何が正しくて、間違っているか、俺が決めることではありません。ただ、あなたの良心の聲に聞き従ってください」

『違う、そうじゃない! 何度言ったらわかるんだ!!』

『もういい、お前には何も期待しないよ』

『お父さんが偉い人だと、自分も偉くなった気がしてるのかしらね?』

『なんか気持ち悪い。お人形みたいで。があるのかしら、何を言っても傷つかないんじゃないかしら』

『あなたに何がわかるっていうのよ!? あんたや亜沙子は、誰も文句のつけようのない人だわ!! でも、私はそうじゃない……!!』

『だって、向こうから寄ってくるものを拒むのは失禮というものじゃないか。せっかく日本で暮らしているんだから、君ももうし【ヤマトナデシコ】なるものを研究して、もうしぐらい優しいになる努力をしたらどうだ。そうすれば君にだってきっと、他の男が寄ってくるよ』

『あいつに、生きてる価値なんてない』

『可奈子のために。彼はそれをんでいるのだから……』

頭の中で様々な人の、様々な臺詞が甦る。

ぐるぐる。

「ビアンカさん、ビアンカさん?!」

聲が聞こえる。

溫かい手が肩にれる。

あの日。

あんな男でも、決して憎み切れなかったから。

決別の意味を込めて花を供えに行った。被害者達のの誰が彼を殺したのだろう? そんなことを考えながら。

もう誰だっていい。

警察は通り魔の犯行だって言ってるんだから、それでいいじゃないの。

でも……本當にそれでいいの?

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