《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》楽屋裏

楽屋はちょっとした大広間のようで、これだけの人數ではなるほど、個室なんてごく一部の人にしか割り當てられないだろう。

ざわざわと話し聲のする中、周は進一と一緒に新里と亜沙子の姿を探す。

見つけた。

しかし2人は楽屋の隅でなぜか、額を突き合わせるようにしてヒソヒソと話し合っていた。

どことなく平和な空気には思えない。

何があったのだろう?

不思議に思いながら周が近付こうとした時、後ろからやってきた人にほぼ突き飛ばされるような形で、バランスを崩した。

「周君、大丈夫?」

「うん、俺は平気だけど……何があったの?」

顔を上げると、見たことのある男が亜沙子に近づいていた。手には花束。

あの男は確か……!

男は亜沙子に聲をかける。

の方はなぜか怯えた表で、微かに震えている。しかし男はそんな相手の反応にはかまうことなく、花束をバサッと機の上に置いてしまう。

そして。

手をばして彼の肩に手を回す。

そのひどくなれなれしい仕草に苛立ちを覚えた周は、思わずケンカを売って出てしまったのである。悪い癖だとわかっていても。

「おい、あんた!!」

ジロリと男がこちらを睨む。

新里も周が來ていることに気付いてくれたようだ。

「わかってんのか?! その人は……」

「周君!!」と、止めたのは果たして新里だったのか、進一の方だったのか。

この際、どっちでもいい。

「他人の彼に手を出すなんて、あんたよっぽどに不自由してんのか?!」

よく考えてみたらちっとも理屈になっていないというか、おかしなことを言っているのだが、すっかり頭にが昇っている今はそんなこと気付かない。

男は綺麗に整った……どこか造りめいた顔を歪めて、周の方につかつかと歩み寄ってくる。

ガツンっ、と鈍い音。悲鳴。

「……先生っ!!」

不意に視界が暗くなったかと思ったら、周のすぐ目の前に進一が立ちはだかり、男の暴力から周を庇ってくれたのだった。

周はバランスを崩して床に座り込んだ進一に駆け寄り、その肩を抱いた。

「亜沙子さんって……昔からほんと、男の趣味が悪いよね……」

進一は頬をさすりながら呟く。

「進一君!」

バイオリニストは慌ててハンカチを探しあて、彼の元に近づこうとした。

「おい、行くぞ」

男は亜沙子の腕をつかんだ。

「待てよ、おい!! いきなり人のこと毆って何のつもりだ?!」

「うるせぇんだよ、ガキ。大人しく引っ込んでろ」

ほら、と男は亜沙子を連れて楽屋を出て行こうとする。

「嫌です! 離してください!!」

がそうぶと、男は戸った顔を見せた。

「何言ってんだ、お前……」

「もういや、誰か助けて……!!」

いったい何が何だって言うんだ?

目に涙を浮かべ、悲痛な聲でぶバイオリニストの聲に、その場にいた全員が困してしまう。

その時。

楽屋の扉が開いて、見慣れた顔が中にってくる。

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