何となくだが嫌な予がしてたまらない。

今日、周は何時頃戻ると言っていたっけ？

咲はふと時計を見ていて、不安な気持ちにかられた。

ビアンカは大丈夫だろうか？

いろいろなことがありすぎて、し頭が痛い。三貓が気遣わしげな様子でり寄ってくる。

その時、攜帯電話が鳴りだした。

『……咲？』

ビアンカからだ。ひどく聲の調子が沈んでいる。

「どうしたの、合悪いの？」

『大変なことになっちゃったの……！！　ごめんなさい、私のせいよ……！！』

「……何が、どうしたっていうの？」

『すぐに出られるか？』

なぜか、駿河の聲が電話の向こうから聞こえた。どうして彼が？

『急事態だ。詳しいことは、會ってから話す。すぐ広島北署へ來てくれ』

「どうして……？　何があったの……？！」

電話を落としそうになって咲は、早口で問い詰めた。

『とにかく急げ！！』

の奧に黒い染みが広がるような気分がした。

それでもどうにか咲は上著を取ってきて、出かける用意をした。

いったい何が起きたのか、頭の中は混し、は不安でいっぱいである。

「……咲？」

今日、賢司はずっと家にいたらしい。

朝、顔を合わせてから向を知していなかったので全然気付かなかった。

彼は部屋から出てきて怪訝そうに訊ねる。

「何があったんだ」

「わからない……わからないけど、警察の人から連絡があって……」

「警察？」

「すぐに広島北署に來るように……」

何を言われるだろう。咲は構えたが、思いがけず返ってきたのは「僕も行く」との答えだった。

彼は一度部屋に戻って上著を取ってきた。

不思議なことに咲は不快ではなく、なぜかしだけ安心を覚えていた。

※※※※※※※※※

いったいどこに連れて行かれるのかと思ったら、家庭教師の自宅マンションだった。

彼は特に興している様子もなく、いたって普通の表で正面から中にり、ごく日常通りのように最上階に上がり、部屋の鍵を開けた。

ただ普通でないのは、片時も周の傍から拳銃を持った手を離さないことぐらいだろうか。

って、と言われるままに周は靴をいで上がった。

「先生、俺……未だにあんまり狀況が飲み込めていないんだけど……」

なんとなく危機的狀況だということはわかる。

ただ、今に至るまで起きたことを思い出してみる。

楽屋へ挨拶に行って、変な男が亜沙子というバイオリニストに絡んできて、そうしたらいきなりなぜか、知り合いの刑事達がってきて、それから……？

「今、お茶淹れてあげるね、と言いたいところだけど……片手しか使えないから無理だね。それに、隙を見て逃げられても困るしさ」

進一は背後から周の肩に腕を回し、耳元に囁くように言った。

「……詳しいこと教えてよ、俺にだってその権利あるよね？」

座ろうか、とをぴたりと寄せあったままソファに腰かける。

「簡単に言うとね、僕が警察に捕まるような真似をしたってこと」

「何を……」

「人を殺したんだ。でも捕まりたくないじゃない。最後の抵抗にね、周君を人質にしてこうして自分の家に立てこもりって訳。理解できた？」

何かの冗談だと思っている。

前にもそんなことを言っていたけれど、周はしも本気にしていなかった。

だって進一の様子はいつもと何ら変わりがない。

「殺したって、誰を……？」

「アレックスっていうクズ野郎」

いろいろな言葉が元までせり上がってきたが、周はすべてを飲み込んだ。