《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》実は片想いだったりして

「どうして、可奈子さんは亡くなったの……?」

周はもはや、自分が置かれている狀況を忘れかけている。

進一はふっと息をついて、それから答えた。

「自殺したんだ」

「……なんで……」

彼はちょこちょこと走り回る子貓を腕に抱き上げ、ケージの中にれてしまう。

「もうすぐ警察の人が突してくるかもしれないから、そうなったら踏み潰されちゃうかもしれない。危ないからね」

その臺詞で周は我に帰った。

「そろそろ來てるよね、警察の人。ここ、最上階じゃない? 僕、前に映畫かドラマで見たことあるんだよね。SATだったっけ。屋上からロープを垂らして降りてきて、ベランダに降りてくるんだよ。それから、窓を突き破って……」

そういう場面なら周も見たことがある。

「でもさ、そう簡単には捕まらないよ?」

進一はポケットにれていた拳銃を取り出して見せる。

どうやって手にれたんだろう? 周はそんなことを考えてしまった。

「どうして、自殺なんか……?」

周は、おそるおそる訊ねた。

進一は首を橫に振る。

「バカだよ、可奈子は……僕がいるのに。僕を裏切って、あんな男なんか……!!」

「あんな男って誰?」

「アレックスだよ!!」

進一は吐き捨てるようにんだ。

「あいつはゴキブリ、ただのダニだよ!! だから殺してやったんだ」

「どういう……こと?」

「可奈子はね、アレックスなんかのことを好きになっちゃったんだ。あいつにお金を貢いで、そうして……お金が盡きたら捨てられた。そういうこと」

だから自ら命を絶ったというのか?

「信じられないって顔してるね。けど、ほんとのことだよ」

周は進一から目を逸らした。

「何もかもに絶した彼は、自分の部屋で首を吊った。僕に宛てて書がのこっていたんだ……あいつに復讐しろって」

「噓だ……」

拠はないが、周は思わずそう呟いた。

「噓なんかじゃない!! 今でも可奈子の聲が聞こえるんだ、あいつを殺せ、死ぬよりも辛い思いを味わわせて、そうして……自分の痛みをわからせろ……ってね」

これを見て、と進一は襟からネックレスを取り出す。

以前は小指にはまっていた小さなリングがトップに飾られている。

「これ、可奈子の形見。アレックスにもらったんだって。でも……亜沙子さんから聞いたんだけど、元カノから返された指を橫流ししたものなんだって。バカにしてるよね、ほんと」

「……」

「あいつに生きてる資格なんかない。可奈子には生きる権利があった。だから僕が彼の代わりに裁きを執行したんだよ。きっと、喜んでるよね」

進一は指を見つめながらうっとりとした表で言う。

「それは……違うよ」

周は呟いた。

進一の表が俄かに強張る。

「確かに可奈子さんは生きる権利があった。だから、自分で命を絶つべきじゃなかった……そうじゃないの?」

攜帯電話が鳴りだす。

周は構わず続ける。

「俺は同じ思いをしたことがないから、気持ちはわかる、なんて言えない。でも、先生はおかしい……本當は自分でも、どこかでそう思ってるんじゃないの?」

今まで見せたことのない、ものすごい形相で進一は周のぐらを摑んで揺さぶってきた。

「お前に何がわかる?!」

ごほっ、と周はむせかえった。

「お、俺だって……死にたいって思ったこと、何度もある!!」

進一の手が止まる。

「藤江の家に引き取られた後は……本當にさんざんだった。なにか汚いもの、ゴミみたいに言われ続けて……なんで俺、生まれてきたんだろうって……でも、それでも生きてこられたのは父さんがいたから! 父さんが俺のこと、してくれたから!! 賢兄だって、本音はわからないけど、いつも俺の味方だった。だから……大好きだった父さんが事故で亡くなった時、俺も後を追うこと考えた……」

あの頃は本當に眠れない日々が何日も続いて、ロクに食事も取らず、今にして思えばよく生きていたものだと思う。

「でも……生きていたから、姉さんに會えたんだ!! それに、和泉さん……」

変な人だけど、優しい人。

彼のまわりにいる人達もみんな、とても優しい人達だ。

「俺には可奈子さんの気持ちも、先生の気持ちもわからないよ! けど、これだけは言える!! 自分で命を絶つことも、人の命を奪うことも、絶対にしちゃダメだ!!」

攜帯電話が鳴りやんだ。

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