《ファザコン中年刑事とシスコン男子高校生の愉快な非日常:5~海をまたぐ結婚詐欺師!厳島神社が結ぶ、をんな達のえにし~人ヴァイオリニストの橫顔、その翳が隠す衝撃の真実》機について

『僕は可奈子が好きでした。だから、彼志を継ぐ決意をしたんです』

果たして本當に書にはそう書いてあったのだろうか?

復讐せよ、などと。

考えてみてもわからない。

和泉は窓越しに見える取調べの様子を見ながら、そう考えた。

『その晩のことを、詳しく話してください』

『あの日は可奈子の誕生日で命日でした。決行するならこの日しかない、そう考えました。いつも一緒に行くお好み焼き屋で、僕がアレックスに可奈子の話を振ったんです。奴は覚えていました……頭が悪くて不細工な、騙しやすい絶好のカモだった、ってそう言ったんです。許せませんでした』

『それで、どうしましたか?』

遠い記憶だが、和泉は思い出したことがあった。

いつだったか宮島で、西島進一とアレックスが言い爭っていた場面を見たことを。

『僕は先に店を出ました。兇を取りに行くため、です。その後、アレックスは1人でふらふら、あちこちの店を飲み歩いて……夜中に電話してきました。迎えに來い、と』

『それで、迎えに行ったんですね?』

『すっかり出來あがってけなくなった奴を縛り上げて、荷臺に積みました』

『それから、どうしました?』

『……マリーナへ行きました。父が所有する、クルーザーに乗せました。それからキャビンの中で、奴に暴行を加えました。でも、殘念です。アルコールが回っていたので、おそらくそれほど痛みはじなかったことでしょうね……そう、可奈子が奴からもらった指をはめて毆ってやったんです。そうしたら頬にくっきり、痕がのこっておもしろかったなぁ……』

ぞくり、と背筋を悪寒が走った。

『指なんですけど……あいつが他のにプレゼントして、別れる時に要らないからって返されたやつを、そのまま可奈子に橫流ししたんですよ。バカにするにも程があると思いませんか?』

『……』

進一はし疲れたようで、ふぅと溜め息をついた。

『僕、知らなったんですけど……人を毆るって、けっこう疲れることなんですね』

『そうですよ』

『ちょっと疲れて、それから休憩して。もう、明け方が近かった頃かなぁ? その時にはだいぶアレックスも目が醒めたみたいでしたね……だから僕、とどめを刺しました』

あの時の様子は面白かったですよ、と進一は笑う。

『……を、どうやって紅葉谷公園まで運びました?』

『臺車を用意してあったんです。あんな大男、1人で運べるわけないじゃないですか』

『なぜ、紅葉谷公園だったのですか?』

『思い出の場所だったんです。可奈子との……』

恐らくそんなところだろうと思っていた。

『ところで、三村亜沙子さんですが……』

『誰ですか? それ』

『……』

『……へぇ、有名なバイオリニストですか。僕もクラシックは好きだけど、聞いたこともありませんね、そんな名前の人』

『質問を変えます。捜査1課の刑事達があなたを怪しんで、尾行を開始したことには気づいていましたか?』

『ええ、それはまぁ……』

『あの時、恐らく暴力団関係者と思われる人達が5人ほど、張り込んでいた刑事達に襲いかかりました。あれは……あなたの差し金だったんですね?』

『……向こうに迷をかける訳にはいきませんから、黙っておきます』

『拳銃はどこから、どうやって手しましたか?』

『言えません』

進一はそう答えたが、和泉にはなんとなく思い當たるところがあった。

彼の祖父、父親は確か不産関係を生業としている。

その後も進一は三村亜沙子のことも、つながりがあるであろう暴力団関係者については一切否定し、語ろうとしなかった。

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