《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》5
「……ラーヴェ、笑ってないで出てこい……!」
かっと金の両眼を見開いたハディスの肩の辺りから魔力のもやが立ちのぼった。
思わず構えたジルの前で、白銀の魔力が白く輝く生きへと形をとりはじめる。
(……竜……いや、蛇?)
正確には翼の生えた蛇、だろうか。不思議な形の生きだった。
だが靜かに開かれた金の瞳が、白銀に輝く鱗が、しなやかな肢が、溢れ出る魔力が、すべての者に膝をつかせるほど神々しいそれが――げらげらと笑い出した。
「ぎゃははははは! だから言っただろーこんな都合のいい話あり得ねぇって。それをお前は浮かれて真にけて、この知能ゼロ皇帝が――ふぎゃっ!?」
ハディスは、神っぽかった生きをべしっと床に投げ捨て椅子から立ちあがり、腰の剣を抜いて振りかざす。
「今日の夕食は焼き竜神の串刺しだ」
「おまっもうし労れよ! 國境こえてやっと出てこれたっつうのに」
「言い殘す言葉はそれだけだな?」
「あーうん、お前は頑張ったよ。紫水晶とかな、一生懸命考えたよな!」
ハディスは真っ赤になって、蛇のようなきで逃げ回る生きを剣で突き刺そうとする。
「お前が口説けと言ったから……! 確実に逃がさないためには必要だと!」
「いやーでも悪くはなかっただろ、なあ嬢ちゃん。こいつ顔だけは絶品だし」
神々しさなど欠片もない景に呆然としている間に、串刺しから逃げ回っていた生きがするするとジルの足元からのぼってきた。ちょうど肩のあたりにちょこんとのって、ジルをじいっと見つめる。
「俺が聞こえてるし見えてるよな? たいしたもんだ、驚きもしねぇ。肝が據わってんなあ」
「じゅ、十分、驚いてますが……」
「謙遜するなって。ふつー悲鳴とかあげるだろ。脅えるとか、気絶するとか」
「……僕のあの圧に耐えられるんだ、これくらい當然だろう。何よりこれだけ魔力を持っていたらこんな怪奇現象くらい、日常茶飯事に違いない」
ジルが間にったことで冷靜になったのか、ハディスが剣をおさめる。
「怪奇現象!? 竜神を怪奇現象扱いかよ!? これだから最近の人間は」
「あの、竜神なんですか。……竜神ラーヴェ?」
また騒ぎが起こる前に、思い切って聞いてみた。ハディスがふっと嘲笑する。
「どう見ても蛇だが、そうらしいよ」
「誰が蛇だ、俺は竜だ! 竜神ラーヴェ様だ!」
そう言われても、翼のはえた蛇にしか見えない。
(お、おとぎ話じゃなかったのか……あの伝説……)
ここプラティ大陸のり立ちは、と大地の神クレイトスと、理と天空の竜神ラーヴェの戦いから語られる。その神の力をわけ與えられた眷屬が、クレイトス王族とラーヴェ皇族だと言われているのだ。神話から建國まで、人間を巻きこんで千年に及ぶ爭いを、それぞれの國の子ども達は聞いて育つ。
クレイトス王國は神の加護として魔大國の側面を持ち、大半の國民が大なり小なり魔力を持つのが當然で、強い魔力を持つ者もよく誕生する。一方、ラーヴェ帝國は魔力の強い者よりも竜が生まれる。他にも大地の実りの差異など細かい違いがあるので、ジルも神の存在をまるっきり噓だと思っていたわけではない。
だが建國から千年、まさかまだ神が存在するとは思わなかった。
ジルの鎖骨周りをぐるりとまわり、ラーヴェが頭の上にのる。
「俺が見えて、しゃべれる。んー條件はぴったりなんだよなー。年齢は……ハディス、お前十九だっけ。このお嬢ちゃんは?」
「十歳だそうだ。九歳差だから、珍しくもない。常識の範囲だ」
「はい!?」
思わずんだジルに、両腕を組んだハディスが振り返って眉をひそめた。
「常識だろう。僕の母は十六の時、四十の父と娶せられた」
「で、でもわたしはまだ十歳でして……お、お世継ぎの問題とか!」
「……世継ぎ」
口の中で繰り返して思案したハディスが、いきなりかっと頬を赤く染めた。
「ま、まだ出會ったばかりで……た、確かに大事な話だがそんな、晝間から……!」
うろうろ視線を泳がせている姿がひたすら初々しい。
さながら初めて閨に引きずり込まれた乙のような反応に、ジルのほうが死にたくなってきた。
「き、君はまだい。大人ぶらなくていいんだ。もっと話をしたり一緒にお茶を飲んだり、手紙のやり取りをしたりお互いをわかりあう時間を取ってからだ、そういうことは……!」
「……あの、失禮ですが外見と中が合ってなさすぎませんか……どうしてそんな育ち方をしてしまったんですか」
「うーん。やっぱ本を読ませただけだと偏るなー」
ラーヴェを見ると、てへっと舌を出された。製造責任者は竜神だ。
頭を抱えたくなっていると、ふとハディスの視線が落ちた。
「外見と中が違う、か……つまり僕は、君の期待外れだった、ということだろうか」
「え」
「……本當に、求婚は噓だったんだな」
それは良心に突き刺さる、悲哀に満ちた聲だった。
だがほだされるわけにもいかない。ジルはおそるおそる言い返す。
「むしろ本気にしてはいけないことでは……?」
「そうだな……いや、わかっていた。十四歳未満で、尋常ではない魔力を持っていて、僕みたいな呪われた皇帝を好いてくれるの子なんて、そう都合よく現れるはずがない……そうか、僕はだまされたのか……なんて間抜けな皇帝だ……」
哀愁を帯びた睫が震え、翳りを帯びる。金の瞳からは今にも涙が溢れそうだ。
ものすごい罪悪がこみあげてきた。あーあとラーヴェがジルの頭の上でつぶやく。
「落ち込ませた。軽々しくこいつに求婚なんてするからだぞ、お嬢ちゃん。責任とれよー」
「わ、わたしのせいでしょうか!?」
「そうに決まってんだろ。こいつは馬鹿だから弱いんだよ、心もも」
「ラーヴェ、彼を責めるな。悪いのは僕だ。確かに、十歳の子どもの求婚を真にけるなんて愚かだった。どんなに強がってみたところで、僕にそんなしあわせがやってくるはずがないんだ……」
テーブルに手をついて、ハディスが憂いに染まった金の瞳で自嘲する。
「浮かれてしまったんだ。一生かけてしあわせにするなんて言われたのは、初めてで」
言った。確かに言った。
「いや……いいんだ、ひとときのいい夢を見させてもらった。そう思えば」
「……その……わたしこそ、子どもだからと甘えて軽率なことをしてしまい……」
「この借りはいずれなんらかの形で返そう。君の名前は忘れない」
やや焦點のあっていない目でハディスが微笑む。
「サーヴェル辺境領だな。……決して、忘れない。決してだ」
「それはどういう意味ですか!?」
「今なら大事にはならないだろう。君はちゃんと、クレイトスに帰すよ」
金の瞳が騒にって見えるのは、絶対に気のせいではない。このままでは故郷がラーヴェ皇帝に目をつけられてしまう。しかも、肝心なことを思い出した。
ここでそうですかと戻ったら、待っているのはジェラルドだ。
「でも本當に、嬉しかった」
はっと顔をあげた。ハディスは驚くほど澄んだ瞳で微笑む。
「ありがとう」
――ジルが求婚に頷いたとき、ジェラルドはこんなに喜んでくれただろうか。
そしてこれから先、こんなに喜んでくれるひとがいるだろうか。
(せ、責任は取ると決意して求婚したんだろう、ジル・サーヴェル……!)
どんなに言い訳しても、自分は裏切れない。何より自分が利用するために求婚し、いらなくなったら捨てる――それは、自分がジェラルドにされたことと同じではないか。
この皇帝は悪くない。たぶん、悪くない。きっと、悪くない。おそらく、悪くない。
――ひとり殘らず殺せ。
(ろ、六年後の話だ……! 今はまだまともに見えるし、時間はある。そう、は戦爭というじゃないか。趣味だの闇落ちだの、だからどうした。どこかのシスコンと違ってまだ疑だ。わたし自ら今から更生作戦を立てて攻略すればいい、ような、気が、しないでも、ないような……!)
「殘りのケーキはお土産に持って帰るといい」
よし、いい男だ。
「前言撤回します! わたしでよければ結婚してください、皇帝陛下」
がしゃんとハディスが持っていたカップを落とした。
【第二部完結】隠れ星は心を繋いで~婚約を解消した後の、美味しいご飯と戀のお話~【書籍化・コミカライズ】
Kラノベブックスf様より書籍化します*° コミカライズが『どこでもヤングチャンピオン11月號』で連載開始しました*° 7/20 コミックス1巻が発売します! (作畫もりのもみじ先生) 王家御用達の商品も取り扱い、近隣諸國とも取引を行う『ブルーム商會』、その末娘であるアリシアは、子爵家令息と婚約を結んでいた。 婚姻まであと半年と迫ったところで、婚約者はとある男爵家令嬢との間に真実の愛を見つけたとして、アリシアに対して婚約破棄を突きつける。 身分差はあれどこの婚約は様々な條件の元に、対等に結ばれた契約だった。それを反故にされ、平民であると蔑まれたアリシア。しかしそれを予感していたアリシアは怒りを隠した笑顔で婚約解消を受け入れる。 傷心(?)のアリシアが向かったのは行きつけの食事処。 ここで美味しいものを沢山食べて、お酒を飲んで、飲み友達に愚癡ったらすっきりする……はずなのに。 婚約解消をしてからというもの、飲み友達や騎士様との距離は近くなるし、更には元婚約者まで復縁を要請してくる事態に。 そんな中でもアリシアを癒してくれるのは、美味しい食事に甘いお菓子、たっぷりのお酒。 この美味しい時間を靜かに過ごせたら幸せなアリシアだったが、ひとつの戀心を自覚して── 異世界戀愛ランキング日間1位、総合ランキング日間1位になる事が出來ました。皆様のお陰です! 本當にありがとうございます*° *カクヨムにも掲載しています。 *2022/7/3 第二部完結しました!
8 145【書籍化作品】離婚屆を出す朝に…
書籍化作品です。 加筆修正した書籍のほうは、書店での購入は難しいですがネットではまだ購入できると思いますので、興味を持たれた方はそちらも手に取って頂ければ嬉しいです。 こちらのWEB版は、誤字脫字や伏線未回収の部分もあり(完成版があるので、こちらでの修正は行いません。すみません)しばらく非公開にしていましたが、少しの間だけ公開することにしました。 一か月ほどで非公開に戻すか、続編を投稿することになれば、続編連載の間は公開します。 まだ未定です。すみません。 あらすじ 離婚屆を出す朝、事故に遭った。高卒後すぐに結婚した紫奈は、8才年上のセレブな青年実業家、那人さんと勝ち組結婚を果たしたはずだった。しかし幼な妻の特権に甘え、わがまま放題だったせいで7年で破局を迎えた。しかも彼は離婚後、紫奈の親友の優華と再婚し息子の由人と共に暮らすようだ。 思えば幼い頃から、優華に何一つ勝った事がなかった。 生まれ変わったら優華のような完璧な女性になって、また那人さんと出會いたいと望む紫奈だったが……。 脳死して行き著いた霊界裁判で地獄行きを命じられる。 リベンジシステムの治験者となって地獄行きを逃れるべく、現世に戻ってリベンジしようとする紫奈だが、改めて自分の數々の自分勝手な振る舞いを思い出し……。 果たして紫奈は無事リベンジシステムを終え、地獄行きを逃れる事が出來るのか……。
8 186NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?
作品名:NPC勇者○○はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!? *最新話隨時更新中* 最新の超期待作ゲーム。その世界限定先行テストプレイに見事當選した主人公。 しかし、開始からバグのオンパレードでキャラエディットが出來ずに強制開始ときたから不満はもう大爆発! スキルも能力も全く設定されていない、開発者専用アカウント「勇者〇〇(まるまる)」としてログインした主人公は本來のプレイヤー名を名乗る事はおろか、バグの影響でログアウトも出來ず、更に運営にまでNPCだと勘違いされてしまいただ1人ゲーム世界に取り殘される。 ここで生き殘る為に使えるのは、自らが今まで培ってきたゲーム知識と…まさかの公式チート『デバッグメニュー』!? 資金無限、即時復活、限定解除にステータス変更不能からウィンクひとつでコミュランク強制MAX!・・・これ、現実に戻らなくてもいいんじゃね!? 現実とゲームの世界を越えた、絆で結ばれたNPC達との大冒険が、今ここに始まる。 はたして勇者○○は本來の自分を取り戻し、ログアウトする事が出來るのか?それともこのままNPCとしてゲーム世界に取り殘されてしまうのか。 ゲーム発売まで殘りあとわずか…それまでにNPC勇者○○はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!? イラスト提供:ナス(転載禁止) 作者、激しく補助席希望をTwitterで検索! @999_RC_att なお、同名にてSPOONによるLIVE配信も行っております。気になる方は要チェック!!いつでも気軽に遊びに來て下さい。 また、隨時質問や感想等もコメント大募集しております。あなたのコメントが作者のヤル気とモチベを爆上げさせますので、是非お願いします!
8 170骸街SS
ーーこれは復習だ、手段を選ぶ理由は無い。ーー ○概要 "骸街SS(ムクロマチエスエス)"、略して"むくえす"は、歪められた近未來の日本を舞臺として、終わらない少年青年達の悲劇と戦いと成長、それの原動力である苦悩と決斷と復讐心、そしてその向こうにある虛構と現実、それら描かれた作者オリジナル世界観ダークファンタジーです。 ※小説としては処女作なので、もしも設定の矛盾や面白さの不足などを発見しても、どうか溫かい目で見てください。設定の矛盾やアドバイスなどがあれば、コメント欄で教えていただけると嬉しいです。 ※なろう・アルファポリスでも投稿しています! ○あらすじ それは日本から三権分立が廃止された2005年から150年後の話。政府や日本國軍に対する復讐を「生きる意味」と考える少年・隅川孤白や、人身売買サイトに売られていた記憶喪失の少年・松江織、スラム街に1人彷徨っていたステルス少女・谷川獨歌などの人生を中心としてストーリーが進んでいく、長編パラレルワールドダークファンタジー!
8 55発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。
「おめでとう!抽選の結果、君を異世界に送ることになったよ!」 「……抽選の結果って……」 『百鬼(なきり) 樹(いつき)』は高校生―――だった。 ある日、授業中に眠っていると不思議な光に包まれ、目が覚めると……白い空間にいた。 そこで女神を自稱する幼女に會い『異世界を救ってくれないか?』と頼まれる。 女神から『異世界転移特典』として『不思議な銃』をもらい、さらには『無限魔力』というチート能力、挙げ句の果てには『身體能力を底上げ』してまでもらい――― 「そうだな……危険な目には遭いたくないし、気が向いたら異世界を救うか」 ※魔法を使いたがる少女。観光マニアの僕っ娘。中二病の少女。ヤンデレお姫様。異世界から來た少女。ツッコミ女騎士、ドMマーメイドなど、本作品のヒロインはクセが強いです。 ※戦闘パート7割、ヒロインパート3割で作品を進めて行こうと思っています。 ※最近、銃の出番が少なくなっていますが、いつか強化する予定ですので……タイトル詐欺にならないように頑張ります。 ※この作品は、小説家になろうにも投稿しています。
8 116異世界転生〜貰ったスキルはバグ並みでした〜(仮題)
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