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空気がとても澄んでいる。

風がとても気持ちいい。

馬車から降りてから、ソフィアは思わず目を閉じた。

閉じている間に、実家から持ってきた二つのトランクをさっさと外に放り出された後、馬車はさっさと引き返してしまった。

なんとも淡白な見送りである。

ここは、國の外れのとある丘の上。

國境の山脈が見渡せて、視界はとても開けていた。

「遠路はるばるありがとうございました」

先に待っていたシエルが言う。

彼はパーティの時と同じ、神のようなドレスを著ていた。

相変わらず、この世に存在しているのか疑わしいほどの貌だった。

「よ、よろしくお願いいたします……」

王に相応しいオーラにとてつもない圧をじたソフィアがおずおずと頭を下げる。

「そんなに畏まらなくていいわ。これからソフィアちゃんは私たちの國の一員になるんですもの。仲良くしましょうね」

にこりと笑って握手を求めてくるシエル。

普通、一國の王がただの貴族令嬢にこんなにもフランクに接するなどあり得ないことだが、これもお國柄の違いだろうか。

おどおど恐しながら、その手を取る。

シエルの細くてしい手を、自分のボロボロの手で握るのはひどく罪悪が沸いた。

そんなソフィアの心とは裏腹に、シエルの手はひんやり冷たくて気持ち良くて、思わず口元が緩ませてしまう。

「ハナコちゃんも、よろしくね」

『きゅきゅーい』

ハナコもシエルに好を持っているのか、嬉しそうに鳴いた。

……シエルがハナコの名前を口にする前に、しおかしそうに笑ったように見えたのは気のせいだろうか。

「荷それだけか」

シエルのそばに控えていたアランが、ソフィアの私の全てである大きなトランク二つを見て言う。

アランの姿もパーティで見たのと同じ、人間の容貌をしていた。

こちらも相変わらず、社會にいたら求婚の手紙が止まないほどの丈夫である。

「あ、はい、これで全部です」

「ないな」

「あはは……意外とこのくらいに収まりました」

無理はない。

普通、嫁りとなればトランクなぞには収まりきらないほどの荷がある。

しかし、私なぞロクに買い與えられ無かったソフィアの荷はなんとも寂しい量に収まっていた。

アランは一瞬、眉を顰めたが。

「貰おう」

そう言って、アランがトランク二つを手に取った。

「そ、そんな、悪いです！　私が運びますっ……」

「そんな大きな荷を運ばせるわけにも行かんだろう。それに……」

じっと、ソフィアの目元のクマを見てアランは言う。

「隨分と疲れているようだからな、無理はさせたくない」

その言葉に、ソフィアのがきゅうっと締まった。

さりげない気遣いもそうだが、何よりもこの人は自分のを案じてくれている。

（優しい人……なのかな……）

そもそも人じゃないのでは、という話はさておき。

アランに対して、ソフィアはそんな印象を抱いた。

「やれば出來るじゃない、アラン」

「契約とはいえ、妻となるお方ですので」

「契約……？」

なんだか聞き覚えのないワードに、ソフィアは首を傾げる。

シエルは、人の警戒心を溶かすような笑みを浮かべて言う。

「その辺りの話は我が國に到著してから話しましょう。さあ、出発するわよ」

「出発って……」

あたりを見回しても、馬車など移できる手段は一つも見當たらない。

「まさか、この山脈を超えるのですか……？」

果てしなく続く山脈を見渡して、ソフィアはさーっとの気が引いた。

人並みに力には自信があるが、山越え×？？？回となると話が変わってくる。

とてもじゃないが走破し切れる自信がない。

霊王國に著く前にソフィアが幽霊になってしまうかもしれない。

そもそも、今日は長距離を歩くような履きで來ていな……。

「俺の背中に乗って帰る」

「え、背中……？」

アランの言葉に素っ頓狂な聲をらすと。

「あら、言ってなかったかしら？」

瞬間、アランのが眩くを発した。

思わず目を閉じてしまう程の。

このは、似ている。

ハナコが放つに──。

「わわわっ……！！」

目を開けて、ソフィアは思わず聲を上げた。

『きゅきゅきゅい！！』

ハナコは目を輝かせ、興したように鳴いている。

目の前に人型のアランはいなかった。

恐る恐る首を上げる。

そうでもしないと、本來の姿のアランを視界に収めることができなかった。

どどどーん！

と、効果音がつきそうなほど巨大な軀は建の五階建ての高さはあるかもしれない。

を彩るのは雪のようにしい白

一つ一つが両手を広げたくらいのサイズの鱗がびっしりと全を覆っている。

煌めく眼、鋭くる爪、牙、ひと薙で建を吹き飛ばせそうな尾。

そして、大空を翔る事を約束された大きな大きな翼。

このシルエットの生を、ソフィアは知識で知っていた。

「竜神アランは、我が國の軍務大臣にして最大兵力……白竜よ」

あまりにも逞しい婚約者様の姿に、ソフィアはシエルの説明も耳にらず呆然とするのであった。

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