「な、何これ……？」

クラリスに通された部屋を見るなり、ソフィアはそんな言葉をらした。

「何って、ソフィア様のお部屋ですが……」

クラリスが真顔で言う傍ら、ソフィアは愕然としていた。

明らかに、実家の一番良い部屋よりもグレードが高い部屋だったから。

まず第一に、とても広い。

広過ぎて逆に落ち著かないくらい広い。

壁は一面明るいの花柄模様。

天井にはたくさんの蝋燭が刺さったシャンデリア。

ソフィアの長の何倍もある大きな窓からは、夕暮れのがたっぷりと差し込んでいる。

天蓋付きのキングサイズベッドは見るからにふっかふかで清潔があり、鏡臺も見たことないくらい大きかった。

総じて、ソフィアが今まで住んでいた部屋が犬小屋に思えてくるほど上等な部屋だった。

「私は何か夢でも見ているのでしょうか？」

「いいえ、現実ですよ、ソフィア様」

クラリスが淡々と言って、荷をテーブルに置く一方、後ろからついてきたハナコが『わーいっ、おっきいー！』と、ベッドにもふんっと寢転んだ。

それからお腹をごろりんと見せて、くうくうと寢息を立て始める。

「可らしいフェンリルちゃんですね」

「す、すみません、落ち著きがなくて」

「謝るようなことではありません、霊たちは無邪気で気ままな存在ですから」

「そうなのですね」

霊がどのような存在かよくわかっていないソフィアは頷く事しかできない。

「でも、クラリスさんも可いです！」

思った事を口にするソフィアに、クラリスは驚いたように目を丸める。

「ありがとう、ございます。お世辭でも嬉しいです」

「お世辭じゃないですよ、お目鼻立ちももちろんですが、特にその貓ちゃんチックなお耳が……」

「ああ、これですか」

クラリスが自分の耳を指さすと、ふわふわそうな耳がピクピクとく。

「ふおおおおおいてます！！」

「それはまあ、耳ですし」

一気にボルテージマックスになるソフィアに対し、クラリスの反応は冷ややかなものだった。

別に呆れているわけでもなく引いているわけでもなく、クラリスは元々抑揚が小さめで、表のバリエーションがないだけである。

「クラリスさんは、貓ちゃんとのハーフなのですか？」

「厳には獣人族と人間のハーフですね」

「なるほどー、それでそんな可らしいお耳を……」

じーーーーっと、ソフィアがしそうな目でクラリスの耳を眺める。

「……ってみますか？」

「いいんですか！？」

びゅんっと、クラリスのそばに接近するソフィア。

流石のクラリスも、ちょっぴり引いてしまう。

「え、ええ。好きなだけ、どうぞ」

「で、では、遠慮なく……」

恐る恐る、クラリスの貓耳に手をばすソフィア。

むきゅ、と効果音が聞こえてきそうなが掌を覆う。

「はわわ……ふわふわでらかくて……とても気持ちいいです」

さわさわさわさわ。

「んっ……」

クラリスの表がぴくりと強ばる。

心なしか頬に仄かな赤みが差していた。

案外、耳は弱いのかもしれない。

しかしもふることに夢中なソフィアは、そんなクラリスの反応に気づかない。

しばらくさわさわででと、癖になるを堪能していた。

そうしていると、クラリスが「む……」とすんすん鼻を鳴らした。

「大変失禮を承知の上でお聞きするのですが、ソフィア様」

「はい？」

ソフィアの全を見渡してから、尋ねる。

「最後にいつ、おを洗われましたか？」

「はえっ？　え、えっと……確か……二日前に水を被りました！」

普段、水浴びは五日に一度しか許されていないのだが、嫁ぎ先に行くからとどうしてもと頭を下げてようやく浴びることのできた水だった。

ちゃんとは清めてきましたよと、妙なドヤ顔をするソフィアとは対照的に、クラリスは卒倒しそうになっていた。

「……先に荷を片そうと思っておりましたが、気が変わりました」

きゅぴんと、クラリスは目をらせる。

「あ、あの……なんだかお顔が怖いのですが……？」

「ソフィア様にはまずは、お風呂にっていただきます」

「お、ふろ……？」

聴き慣れない単語に、ソフィアはこてんと小首を傾げるのであった。