「ふあ……」

夜、自室にて。

「お疲れのようですね、ソフィア様」

ベッドの縁に座って欠をするソフィアに、ティーセットを持ってきたクラリスが言う。

「ううん、全然疲れて……」

「そんなわけないでしょう」

ソフィアの反的な返答に、クラリスはぴしゃりと言葉を被せる。

クラリスはため息をついた後、ティーカップをソフィアに手渡した。

「熱いので、お気をつけださい」

「あ、ありがとう……」

ふーふーしてから、一口。

「ん……味しい……」

マスカテルな香りが鼻腔を抜けたかと思うと、舌先から奧にかけて潤な味が染み渡った。

元を過ぎると、じんわりとの辺りが溫かくなる。

「本當に味しいわ、今まで飲んだ事がない味……エルメルの特産品とか？」

「いえ、こちらはダージリンと言う、ソフィア様の國の貴族の間でもよく飲まれている種類の紅茶です」

「あっ……そうなんだ……」

フェルミで紅茶を最後に飲んだのはいつだろうか。

思い出そうとしても、該當する記憶がひとつもない。

下手したら一度も飲んだ事がないかもしれない。

まだ恵まれていた頃の期の舌には、紅茶は多分合わなかっただろうから。

「紅茶って、こんなに味しかったのね……」

頬を緩めてティーカップに口をつけるソフィアを見て、クラリスはどこか痛ましげなを表に浮かべる。

「ちなみにダージリンには疲労回復効果がございます。今日のようにお疲れの日には最適かと」

「へえ、すごい効能ね」

舌を巻くと同時に、ソフィアのにピリッとした痛みが走った。

これは多分、罪悪。

「クラリス」

「はい」

困り笑いを浮かべてソフィアは言う。

「いろいろ気を遣わせちゃって、ごめんね」

ぴくりと、クラリスが眉をかす。

「いえ……ソフィア様、しお隣よろしいですか？」

「え、ええ、もちろん」

「失禮します」

ソフィアの隣に、ゆっくりとした所作で腰を下ろしたクラリス。

どうしたんだろう、とソフィアが思う間もなくクラリスは口を開く。

「私は、ソフィア様の使用人です。主人の命令は絶対なので、ソフィア様の調面を気遣うのは當然の事です。ですが……」

クラリスが、ソフィアの方に顔を向ける。

いつものクールで冷たげな表ではない、どこか焦りにも似たを浮かべて。

「使用人としてではなく……私個人としても、ソフィア様には辛い思いをしてしくない、いつも笑顔でいてほしい、と考えています」

「クラリス……」

「本心です」

ソフィアが膝下に置いてる手に、クラリスが自分の手を被せて言う。

「だから、遠慮なく私の行為をけれてください。そして、してほしい事がありましたら、なんでもお申し付けください。ソフィア様は々……いえ、かなり、遠慮し過ぎです」

「そう、なのかしら……」

「手がかかるくらいがちょうどいいのですよ」

そう言って、クラリスは微笑んだ。

クラリスの言う通り、ソフィアは“してもらう事”に消極的だった。

ソフィアの低い自己肯定が、実家での経験が、誰かに手間をかけさせる事に抵抗を抱かせていた。

（でも、ここは実家じゃない……）

エルメルという新しい環境だ。

それに……。

（使用人としてではなく、か……）

役職の垣を超えて、個人としてクラリスが自分のことを思ってくれている事を、素直に嬉しいと思った。

先程の食事でのアラン様の言葉といい、今日はなんだか嬉しいがいっぱいだ。

「……わかったわ」

こくりと頷き、ソフィアは言う。

「ちょっとぎこちないかもしれないけど……善処するわ」

「ありがとうございます、ソフィア様。充分でございます」

再び、クラリスは微笑んでみせた。

「じゃあ早速、ひとつお願いを聞いてもらおうかしら」

「はい、どうぞ」

「……どうして耳を差し出すの？」

「違いましたか？　てっきり、もふもふを所かと」

「違うくは……無い、けど」

ぴくぴくとくクラリスの貓耳に視線がいってしまうが、グッとソフィアは堪えて。

クラリスの肩に、自分の頭をそっと乗せた。

「……ソフィア様？」

困気味に、クラリスは聲をらした。

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