《【書籍化・コミカライズ】竜神様に見初められまして~げられ令嬢は霊王國にて三食もふもふ溺付きの生活を送り幸せになる~》第53話 みんないい人だから
『ソフィア〜、大丈夫―?』
クラリスが退室してしばらく後。
ベッドに寢転び天井をぼーっと眺めるソフィアの視界に、大好きなもふもふの顔がひょこっと飛び出した。
「ハナコ」
上半を起こす。
今日も今日とてビッグモードなハナコを見ただけで、ソフィアの口元が緩んだ。
『今日も、とってもお疲れみたいだねー』
隣に座って見上げてくるハナコが言う。
「やっぱりわかっちゃう?」
『そりゃー、ずっとソフィアを見てきたからね』
「そっか。凄いねえ、ハナコは」
にっこりと笑ってもふもふな首元をでると、ハナコは『えへへ〜』と気持ち良さそうにを鳴らした。
それからもふっとハナコのお腹にダイブする。
『今日はたくさん、霊魔法の練習してね。モーリスさんって言う……』
ソフィアはハナコに、今日あった出來事を詳らかに話した。
その間、ハナコは今まで通りうんうんと聞いてくれている。
『そっかあ〜、頑張ったんだねー、ソフィアは』
話し終えると、ハナコはそう言ってソフィアを労ってくれる。
『じゃあ今日も、パワーをあげないとね』
「わっ……」
大きなハナコのがもふりといて、ソフィアを抱き抱えるようにした。
もっふもふのが全を包み込んだかと思うと、ソフィアを抱き締めるハナコのがぼうっとった。
変化はすぐに訪れる。
疲労で重たかったが、軽くなってゆく。
自分の中で大きく欠けていたような覚もあっという間に消失した。
「……これ、本當にすごいね」
昨日初めてしたけど、改めて思った。
眠気や疲労が完全に消え去ったわけではないが。
霊力の枯渇によってもたらされた倦怠や疲労が大幅に改善されたような覚だった。
「でも、大丈夫なの? 私にしょっちゅう力? をくれて……ハナコは疲れない?」
『んー? 大丈夫だよ? ここは前いたところよりも、パワーがそこらじゅうに溢れてるから、すぐ補充できるんだー』
「そうなんだ」
『そうなのだー』
ハナコがソフィアの頬に自分の頭をすりすり。
「ハナコ、くすぐったいわ」
『えへへ〜』
楽しそうに戯れてくるハナコにソフィアはされるがままである。
フェルミの時のミニサイズのハナコもらしくて可い良さがあったが、ビッグサイズのハナコもこれはこれで全でもふもふを堪能できて最高の極みであった。
結論から言うとミニサイズだろうがビッグサイズだろうがハナコはもふもふで可くてとにかくもふもふでらしいのである。
語彙力が欠如するほどに。
しばらくの間、ソフィアはハナコのもふもふを存分に堪能した。
『あんまり無理しちゃだめだよー?』
不意にハナコが言う。
「うん……ありがとう、ハナコ」
同じような事をアランにもクラリスに言われた気がする。
自分としては無理しているつもりはなく、実家にいた時と同じマインドではあるつもりなのだが……。
(ここでは私、頑張り過ぎみたいなのよね……)
ここへ來て三日の間に何度もツッコミをけて、流石のソフィアもそれを自覚してきた。
アランをはじめとした、この國の人たちに心配はかけたくない。
だからもうし力と気を抜くべきなんだろうけど、実家にいた時の癖がソフィアの幹にへばりついて中々上手くいかない。
しずつ時間をかけて、良い塩梅を見つけるしかないんだろうと思った。
「でも私、頑張りたい……」
ぽつりと、言葉が溢れる。
「皆のために、頑張りたい」
エルメルに來て、本當に自分は良くしてもらっている。
シエルにも、クラリスにも、モーリスにも、もちろんアランにも。
他にもこの屋敷を維持してくれている使用人の皆や、毎日ご飯を作ってくれているシェフまで。
皆、優しくて溫かくて、自分なんかじゃ返せないほどの事をして貰っている。
良くしてもらっている分、何か自分でも恩返しをしたい。
皆のために頑張りたい、という思いがあった。
それは、実家にいた時には抱かなかっただった。
思い返せば、家族のために頑張りたいと思ったことは無かったように思える。
期待を大きく裏切ってしまった家族に対する罪滅ぼし。
いわば、自分が許されたいがために毎日必死で働いていた。
全部、自分のためだった。
『ソフィアがしたいなら、それでいいと思うよ』
ソフィアの首筋をぺろりとひと舐めしてハナコは言う。
『実家にいた頃に比べたら、ソフィアのことを気にかけてくれる人もいるし、無理をさせるような人もいないしね。きっと大丈夫だよ』
特に小言もなく、ハナコはそうやってソフィアを肯定してくれる。
こうなった時のソフィアは聞かない、意外に頑固なところがあるとわかっていての言葉かもしれないけど。
「ありがとう、ハナコ」
『どういたしまー』
ただそばに寄り添って肯定してくれる存在がいるだけで、ソフィアは隨分と心が楽になるのであった。
「そういえば……」
実家、というワードを聞いてふと、思う。
(今頃、実家はどうなってるんだろう……)
自分がいなくなっても大丈夫なように出來る限りの引き継ぎはやったつもりだが、短い時間の中では限界もあった。
細かい部分の抜けれは流石にカバーしきれていないだろう。
だが、実家にいるのは腐っても伯爵家の使用人たちだ。
様々な仕事を自分が代わりにやっていたとはいえ、自分一人が抜けたくらいで回らなくなるようなことは……。
(……流石に、ないよね?)
ないと信じたい。
そもそも今更、自分が憂慮する必要もないのだ。
ない、と思っていても。
(うう……気になるなあ……)
今まで散々な目に遭わされてきたとはいえ、ソフィアにとっては唯一の繋がった家族。
それに元々、自分が過酷な目に遭っていたのは自分のせいという、家族に対し憎悪や恨みがあったわけでは無いため、ただただ心優しいソフィアは実家の事を憂いてしまうのであった。
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