《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第四十話 作戦會議
第四十話
私がヴェッリ先生やミアさんを伴って彼らのもとに行くと、主だった者たちが集まっていた。ロメ隊の二十人に、古參兵や本陣の護衛。そして後方支援の要たる癒し手たちだ。
將兵が勢ぞろいすると壯観だ。特にロメ隊には特別にあつらえた鎧兜をに著けているため、まるでいっぱしの騎士のようだ。
煌びやかな見た目だが、この鎧を見ていると、正直胃が痛む思いだった。
徴兵された農民兵は基本武を持っていないため、槍や鎧などは國からの支給となる。
もちろんそれらは最低限の裝備であるため、貴族の騎士ともなれば自前で鎧兜を購するのが一般的だ。
私としては疑問なのだが、戦場ではとにかく目立たなければいけないらしい。騎士たるもの煌びやかな鎧や見栄えのする武に、惜しみなく金を使うものなのだそうだ。
旅の最中王子もよく高い武を購し、旅の資金を目減りさせてくれたものだった。
私は無駄だと思うが、戦士には譲れない部分らしい。
ヴェッリ先生は、が著飾るドレスや寶石みたいなものだと言われたが、ドレスも寶石も興味がないのでわからないと伝えると、変な顔をされた。なんでだろう?
ともかくそれら無駄な裝飾を排したとしても、最新の製鉄技の塊である鎧兜は、非常に高価で、一式揃えれば軽く家一軒ほどの値段がする。しかもそれが二十人分だから、ちょっとした屋敷を買うほどの出費となった。
もちろん貴族ではない農民上がりのロメ隊に、そんなお金があるわけもなく、私が用立てた。
私の個人資産でも賄えず、セリュレ氏に金を借りクインズ先生が経理から余剰資金を捻出してくれて、ようやくそろえることが出來た。
ここにはいないが、クインズ先生には本當に謝しかない。先生がいなければ絶対に無理だった。
実家の資金が使えればこの程度の金額は痛くもないのだが、お父様には勘當されただ。勝手をしているのに、金だけはもらいますとは言えない。
何とかそろえることはできたが、正直を吐く思いの出費だった。
しかしロメ隊には期待している。出費に見合った、あるいはそれ以上の働きをしてくれるだろう。
居並ぶ兵たちに一人一人目を合わせてあいさつをし、小さくうなずく。
「皆さん、楽にしてください。作戦は事前の會議通り、特に変更はありません。正面中央の重裝歩兵部隊百名。オットーとカイルに預けます」
私が二人を見ると、オットーとカイルが一禮した。
オットーはロメ隊の中でも特に重武裝で、全隙間なく鎧で覆い、出している部分は目だけという合だ。
私が著たらけなくなる重量を著込んで、オットーは軽々とく。しかもその背中には特大の戦槌を括り付けている。
鎧兜をいだ姿は純樸な青年なのだが、いざ戦いとなれば決して引くことなく、その戦槌で敵の原型が無くなるまで戦うのをやめない。
橫に立つカイルは以前はやせていたが、最近は付きがよく、貓のようなしなやかさを持つようになっている。
軽で素早く、武裝も軽量の鎧のみとお財布にも優しい。武裝は細の剣と、投擲用のナイフをいくつも括り付けている。機力を生かした剣や投げナイフによる中距離攻撃もこなし、大振りになりがちなオットーをよく補佐している。二人に任せれば中央は安心できる。
「両脇の左右の七十名の部隊は左翼にはグランとレットに、右翼はラグンとメリルに擔當してもらいます」
雙子とロメ隊のレットとメリルに、左右の兵をそれぞれ預ける。
グランとラグンの雙子は、平均的な騎士のいでたちだ。オットーのような力強さやカイルのような軽さはないが、安定した力を発揮し、どこにおいても任せられる。
以前は一緒に行させていたが、それぞれに部隊を預けてもすぐ側にいるかのような連攜ができることが分かったのは僥倖だ。
今や二人は扇の要とも言える存在だ。
「グレイブズには後方の弓兵三十を率いてもらいます。場合によっては武を持ち替え、前線に出てもらうことになるかもしれませんので、その時はよろしくお願いします」
古參兵のグレイブズは、大仰に禮をした。
やや気障ったらしい態度が鼻につくが、グレイブズはカシューにいた古參兵の中でも戦歴が長く、戦場の機微を心得ている。私がいちいち口を出すことなどないかもしれない。
「アルとレイには騎兵五十を任せます。今回の戦い、二人が戦の要と言えます。とはいえ、今回の作戦、全てが計算通りに行くとは限りません。二人には自由な裁量を與えます。任せましたよ」
アルとレイがそろってうなずく。二人の顔は責任と覚悟に引き締まっている。
二人の裝備には特にお金をかけた。
鎧兜もそうだが、二人が持つ赤い飾り布の槍と、蒼い飾り布の槍は名工と名高い鍛冶屋に作らせた業だ。さらに二人が駆る馬は駿馬でこれも高かった。
しかし二人は今やロメ隊でも出の存在だ。無鉄砲だったアルは、最近では風格すらに著けた。レイも、いつの間にかそばかすが消え麗ともいえる顔に変貌した。
だが二人が変わったのは顔だけではない。それ以上に実力をに著け、剣や槍さばきで、二人にかなう者はいなくなった。二人には費用以上の戦果が期待できる。
この二人がいなければ、ここまで來るのにもう一年かかったことだろう。
「予備兵としてベンとハンスに二十名。ジニとタースに二十名。ボレルとガットに二十名。グレンとゼゼに二十名を與えます。これらは遊軍として後方に待機してもらいます」
さらにロメ隊の名前を呼び、兵力を小分けして與える。
前線に空いたを防ぎ、時には突撃して敵に痛打を與える予備兵力は、戦爭の勝敗を決定づけることが出來る。彼らの運用が私の最大の仕事と言えるだろう。
「本陣の護衛にはミーチャとセイ、ブライとシュローに任せます」
兵力が足りないため、本陣の護衛はこの四人を除けば兵士が五名。旗持ちのコルツ。突撃や退卻を指示する喇叭兵のベルトとバン。ほかに伝令役の五名だ。
予備隊や本陣の護衛は重要であるため、最近とみに腕を上げているロメ隊の面々を主軸に配置している。
「四人には私たちだけではなく、癒し手も守ってもらいますよ」
私はミアさんとその後ろに控える三名を見る。ノーテ司祭が新たに送ってくれた人員だ。
カールマンという男は、ミアさんの先輩であり腕がいい。ほかの二人もまだ若いが腕は確かだ。
ロメ隊のミーチャがミアさんを一目見た後、必ず守りますと力強くうなずく。
これで私の手元の兵士は全てだ。魔法使いは相変わらずいない。一人二人いてくれれば、戦にさらに幅が持たせられるのだが、無いねだりしても仕方ないだろう。
「敵の総數はわかりませんが、なく見積もっても千五百から二千。今回の戦いは、これまでにない激戦となるでしょう」
數だけ見れば四倍以上。ただし蟻人は繁力が高いが、戦闘力はそれほど高くはない。戦力を計算すれば、こちらが百とすれば蟻人は百五十ほど。劣勢ではあるが戦次第で勝てない相手ではない。
「厳しい戦いになりますが、私たちは連中を駆逐し、この地に平和と安寧をもたらさなければなりません。それぞれの戦に期待します」
私が言い終えると、居並ぶ隊長達の間からアルが一歩前に出る。
「ロメリア様に勝利を」
右の拳をに當てて勝利を誓う。
「「ロメリア様に勝利を!」」
隊長達が唱和し、を翻して自分たちのけ持つ部隊へと戻っていく。
隊長達が戻ったのを見て私はヴェッリ先生を見る。軍師役の先生も。抜かりはないとうなずいてくれる。
私もうなずき返して旗持ちと共に前に出る。旗持ちに合図を送ると、下げていた旗を高らかに掲げる。
鈴蘭の意匠を施した旗が風にはためく。
旗が掲げられると兵士たちの間から一斉に聲が上がった。
「「勝利を! 勝利を! 勝利を!」」
兵士たちが気炎を上げ、高らかにび武を打ち鳴らす。足踏みは軽い地響きとなり大地を震わせる。
恐怖をごまかすためもあるだろうが、士気は高い。
戦意が最高に高まるのを待って、私は剣を抜いた。
細の刃を太に掲げ、まっすぐ前に振り下ろす。
「全軍前進!」
私の聲と共に兵士たちが前進を開始する。
ここに戦いの火ぶたが、切られた。
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