《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第五十話 戦いの終結

第五十話

「あれは、いつの間に」

敵の後方から迫る騎馬の一群を見て、つい聲が出てしまう。

もちろん事前に配置していたのだろう。迂回挾撃は誰もが考える手だ。しかし実現させるのは難しい。何よりここの戦力はぎりぎりだった。奇跡的に耐えきったが、もうし人數がなければ突破されていた。

ぎりぎりの戦力を見切り、勝利の布石のために兵を割ったということになる。

後方から現れた騎兵部隊に、蟻人の指揮が気づくがもう遅い。主力部隊の前進を指示してしまっており、守るべき盾はわずかな護衛のみだ。

特に先頭を駆ける二人の騎士の働きは目覚ましく、王蟻を守護する近衛の部隊を突破し、王手を掛ける。

だが戦いはここからだった。

赤い槍を持つ騎士が王蟻に迫るが、巨大な軀を持つ王蟻が槍斧を振るい、刃を防いだ。

長した王蟻は並みの騎士では太刀打ちできない力を持つ。その腹心といえる親衛隊も準ずる力を持っており、簡単に倒せる相手ではない。事実巨大な槍斧を片手で軽々と振り回す膂力を持っている。

苦戦は必至と考えたが、赤の騎士は數合切り合うと、逆に王蟻を打ち負かし、力だけで押し勝つ。

蒼い槍を持つ騎士も、親衛隊二匹を相手に素晴らしい槍さばきを見せて圧倒した。

「あの二人強いですね」

デミルがつぶやくが、戦いはここからだ。

「まだだ、蟻共は魔法を使うぞ」

の中には、魔法を使う個がまれにだが出てくる。そう數は多くないが、蟻人はその數が多い。魔法の力を持つ者が親衛隊となり、王蟻となるのだ。

言ったそばから王蟻のが金剛石に覆われ、蒼の騎士も足元を泥にでもかえられたのか上していた。

あの二人の騎士は敗れるかもしれない。惜しい若者だが、この距離では助けにも行けない。

しかし魔法を使われ、劣勢になるかと思いきや、二人の騎士はひるむことなく立ち向かい、正面から金剛石の鎧を打ち破り、泥に足を取られてなお、二匹の親衛隊と互角以上に渡り合った。

兵たちの間にも、堂々たる戦いぶりに稱賛の聲がれる。

「ロメリアお嬢様。あのような騎士を、一どこから引き抜いたのです!」

おそらくグラハム伯爵の名前を使って、どこかの大貴族から借りけたのだろう。だが貴族の貸し借りは後々大きな問題となる、勝手にやっていいことではない。

「引き抜いたとは心外ですね。あれはカシュー生え抜きの兵士ですよ。農民上がりの兵士で、騎士ですらありません」

「何を言うのです!」

あれほどの働き、王國でも名のある騎士に違いない。

「見なさい、魔法まで使っているではありませんか」

王蟻は悪あがきに全を金剛石で覆い、自らを守ろうとしている。親衛隊も部下に戦わせ、自は泥沼の魔法で蒼い騎士を底なし沼へと飲み込もうとした。

しかし赤い騎士は槍に炎を生み出すと、わずかに開けた亀裂から炎をり込ませ王蟻を焼き殺した。

蒼い騎士に至っては風をり泥沼を吹き飛ばし、さらに空を飛び逃げる親衛隊を頭上から貫いた。

あれほどの魔法を使えるものが、農民上がりの兵になどいるわけがない。

「信じないのならば結構です。ですが見ての通り目が変わりました。貴方に割く時間はありませんので失禮します。私はこの戦場を指揮せねばなりませんので」

ロメリア伯爵令嬢はそれだけ言うと、踵を返して戦場を向いた。

「挾撃は功しました! 後方の予備兵はこのまま背後の敵を殲滅。前線のオットー隊グラン隊ラグン隊は前進! この地に巣くう蟻人を殲滅するのです!」

よく通る聲が戦場に響き渡り、兵士たちが雄びを上げて前進していく。

王蟻を倒した騎兵部隊も、敵の後方から襲いかかろうとしている。

「隊長」

のデミルが迷いの聲を上げる。

「ええい! 我々も呼応して敵を叩くぞ」

私は苛立ちじりに決斷した。

カシュー守備隊は戦いを再開してしまった。前でも後ろでも蟻人の殲滅が始まり、我々の存在こそが邪魔になっている。

「勝手に戦闘行為に參加していいんですか?」

「仕方あるまい!」

最悪武力でロメリア嬢の柄を拘束するつもりだったが、令嬢を守る護衛は、蟻人は無論のこと我々も警戒して目を離さない。この狀況では下手をすれば本當に殺し合いになってしまうかもしれない。

それに何よりこの戦い、確かにもう勝っているのだ。ここで引けというわけにもいかない。

相手の思に乗ってしまっているが、仕方がない。だが念は押しておく。

「ロメリアお嬢様! 王國の騎士として、この地に巣くう魔の討伐には助力しましょう。だが決してあなたの指揮下にったわけではありませんぞ。それと、この戦いが終結したのちには、私の言うことにしたがってもらいます。よろしいか?」

有耶無耶にするつもりはない。ここではっきりとさせておく。

「もちろん、ここでの仕事が済み次第、貴方の言うとおりにいたしましょう」

「その言葉、間違いなく聞きましたぞ!」

言質は取った。ならば一刻も早く敵を倒すのみだ。

カシュー守備隊は蟻人を包囲し、今や陣形は逆三角形となりつつある。

しかしまだ完全ではない。後ろを取った騎馬部隊も、數が五十騎ではあまりにもない。赤と蒼の騎士が戦しているが戦場を変えるまでには至らない。

だがこれに我々の騎馬百が加われば、後方を完全に遮斷し、勝敗を確実なものにできる。

「行くぞ! デミル! お前は五十率いて左だ。殘りは私と共に右。ついてこい」

簡単に指示を出すと、口の悪い副は心得たりとうなずいて、隊を分けて左へと馬を走らせる。私は殘った隊を連れて右に行く。

まっすぐ敵に向かえれば楽だが、歩兵の列があるため戦列の後ろを駆け抜け、端にまで出る。

反対側では右から回り込んだデミルの隊が見えた。

「者ども、かかれ!」

前に進むしかできない兵だ。これ以上楽な仕事はない。

「あの騎士たちに負けるな、我らグラハム騎士団の武勇を見せつけるのだ」

私の聲に兵達も雄びを上げて雄々しく戦う。どこの騎士かはわからないが、勇ましい戦いを見せられて、兵たちも起している。

指示を出した自分自がたぎるのをじえない。振るう槍に力がこもり、つい深りしすぎてしまう。

蟻人の一部がこちらに気づき、十匹ほどがこちらに向かってくる。

「ケイン!」

傍らの部下の名前を呼ぶ。ケインは騎士でありながら槍を持たず、杖を片手に保持していた。

こちらに向かってくる蟻人の集団に向けて杖を向けると、木の先端からの玉が飛び出し蟻人の部隊の手前に著弾、発音と土煙を上げる。

ケインはわが騎士団にただ一人の魔法兵だ。もっとも腕はそれほど良くない。

発に何匹かの蟻人が巻き込まれ倒れたが、死んだ者はいないだろう。威力は弱く打てる數も限られている。だが要は使いどころだ。

目の前で起きた音と衝撃に蟻人達の前進が止まる。勢いが止まったところに私は四騎の手勢を引き連れて槍を繰り出し、十匹の蟻人を串刺しにし、踏みつぶした。

「ハーディー隊長!」

後方の部下が聲を上げる、敵かと振り返ると、そこには赤い槍を持つ騎士が槍を振るい、敵を蹴散らしながら近づいてくる。

「どこの者か!」

當然の誰何が飛んでくる。

「ライオネル王國、グラハム騎士団ドストラ家のハーディー! 助力する!」

簡潔に所屬と名前だけを告げる。

謝する。俺はカシュー守備隊隊長のアルだ!」

「アル、家名は?」

「家名? そんなものはない。ただのアルだ!」

ぶっきらぼうな返答は、確かに騎士のものではなかった。

本當に騎士ではないのか?

ハーディーの驚愕をよそに、アルと名乗った男は振り返り、自分の部下に向かって叱咤した。

「お前ら、グラハム様の騎士団だからって遠慮することはねぇ。手柄は早い者勝ちだ! ハーディーの旦那、どっちが多く倒すか競爭と行こう」

豪放磊落に言い放つと、槍を振るって敵に突撃していく。

もし本當に平民なら、貴族である自分に許されない態度だが、怒る気にならなかった。

分を考えず、貴族相手にも平気で口を利く。戦場でたまにいる手合いだ。

腹立たしくも思うが、戦場で背中を預けるのにこれ以上の相手はいない。

分にこだわらないのは、死を恐れず、命を惜しまないからだ。

貴族も平民も、戦場で死ねば等しくをさらすだけだ。そこに分などはなく、優劣があるとすればどれだけ雄々しく戦えるかだ。

事実、アルは見ていて気持ちよくなるぐらい、勇猛果敢に戦っている。

「行くぞ、カシュー守備隊に負けるな」

私も槍を掲げて叱咤した。

そして日が暮れるころ、平原にいた蟻人は全て殲滅され、ここに戦いは終結した。

想やブックマーク、誤字字の指摘などありがとうございます

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