《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第五十二話 腹の探り合い
第五十二話
戦いのさなかとはいえ、ハーディーには狀況が落ち著けばお父様のところに向かうと約束してしまった。
あの時に納得してもらわなければ、面倒なことになった可能があったからだ。
しかし、もとよりそんなつもりはさらさらなかった。
そもそも、ここでの戦いは完全に終わったとはいいがたい。
まず負傷者の治療は終わっていなかった。癒し手たちの闘のおかげで死者は四十一名で止まってくれたが、重傷者の手當もまだ十分ではないし、軽傷者の傷も、治療しなければ悪化する恐れがある。
戦死者の埋葬なども考えれば、數日はけない。
それに蟻との戦いも、完全に終わっていなかった。
蟻人の大部分は殲滅できたが、巣にはまだ數の蟻人が殘っている。何より卵を産む王を倒さなければまたすぐに増えて戻ってしまう。
巣の駆除にも時間がかかる。
私を連れ戻しに來たハーディーには悪いが、あれやこれやと理由をつけて、引きばし工作にするつもりだった。
きっと約束が違うと怒るだろうが、のらりくらりとかわそう。そうするつもりだった。
しかし………
「わかりました。では埋葬の準備と蟻人の駆除は私たちも手伝いましょう。癒し手も治療が終わるまではそのままお貸しします」
本陣として敷いた天幕で今後の予定を話すと、私が約束を反故にしたというのに、怒るどころかハーディーは快諾した。
これもこれで意外なのだが、おかしな態度はそれだけではなかった。
「ありがとうございます。重ねて謝を」
私は頭を下げた。兵の命にかかわることだ。
「あっ、いえ、當然のことです」
私が頭を下げると、ハーディーはわずかにを直させた。そしてなぜか口數がなくなる。
「……」
「……………」
気まずい沈黙が雲のように覆う。
なぜかはわからないが、話すことが無くなるとこの人は急に構える。そのせいでなんだかこっちがいづらい。
私は思い出したように、別の話題を持ち出した。
「ああそうでした、兵糧のことでしお話が。協力に謝して食料は提供したいのですが、正直そこまで持ってきていません」
ハーディーは速度を重視するため荷馬車を連れず、各人が一日分の食糧だけをもって強行軍してきた。彼らを飢えさせるつもりはないが、さすがに百人分の余分はない。
「ああ、それなら大丈夫です。私たちの輜重隊が遅くとも今日の夕方には到著します。ただ、巣を駆除するとなると、今日の晝食分が不足します。申し訳ありませんが、一食分だけ用意していただけると助かります。輜重隊が屆き次第、お返ししますので」
先ほどの沈黙とうって変わって、すらすらとよく喋る。弁が立たないというわけではなさそうだった。ヴェッリ先生やアルとは昨日はよくしゃべっているのを見たので、社がないわけでもない。
私に対してだけ、私的な流を避けようとしている。
「そっ、それでは失禮します」
一通り話が終わると、すぐにその場から去ってしまった。
禮を失するほどではないにしても、嫌われているようだった。
「なんだ、嫌われているな」
私と同じ想を持ったヴェッリ先生が、二日酔いの痛みを抱えながらつぶやく。
「何かしたのか?」
「いえ、特に思い當たる節は」
そもそも顔を合わせたのも數えるほどしかない。
「まぁ、だからな。それかもしれん」
「かもしれませんね」
が戦場にいることを、好ましく思わない人もいる。これは一生ついて回る問題だろうから、考えないようにしよう。
「彼の個人的な思想はおいておくとして、人としてはどうですか?」
昨夜はずいぶんと盛り上がっていたようだ。だが、楽しみのためだけに、先生に二日酔いになるまで飲ませたわけではない。
「ああ、なかなかできる人の様だ。まずドストラ家は伯爵領の北部にある男爵家だ」
「へぇ、なら由緒ある家柄なんですね」
北部と言えば、古い貴族の家が多い地域だ。我がグラハム家よりも古く、王國設立期にまでさかのぼる家もあるだろう。
「いや、新興の家だ。お前んところの爺様が辺境再編とか言って無理やり作った時が有っただろ」
「聞いた覚えがありますね」
私が生まれる前のことだから詳しく知らないのだけれど、辺境での影響力を強めようと、お爺様が息のかかった家を作って辺境をまとめようとしたらしい。
「でもそれ、失敗していますよね」
辺境の領主は獨立心が高い。影響力を強めようと、似たようなことは王國のあちこちで行われてきた。ただ、どこもうまく行っていないのが現狀だ。お爺様が作った家も、最終的には辺境で相手にされず、領地経営が立ち行かなくなり、消えていたはずだ。
「ハーディーのところは、父親が上手いことやったみたいで、北部でもちょっとは顔が利くようだ。ハーディー自もやり手で、騎士としてグラハム様に仕えて出世している。配下の騎士団も、あいつが鍛え上げたようだ」
新興の貴族の家柄なら、財力に乏しく後ろ盾となる貴族もなかっただろう。お父様が騎士団を任せているのなら、信頼厚い子飼いの部下と言ったところか。
「確かに、彼の騎士団の練度は高かったですね」
「ああ、個々の技量でならともかく。騎士団としての出來は俺たちより上だな。配下の連中の評価もいいみたいだ」
ハーディー自の指揮もよかった。自ら訓練を施し、鍛え上げたとするなら、相當の人だろう。
そんな人を送り込んできたということは、お父様も相當お冠ということか。
「ロメ隊長。おはようございます」
「おはようございます、ロメリア様」
今後のことを考えていると、寢ぐせも収まらないアルがれた服裝のままやってくる。隣にいるレイは服裝のれどころか、無ひげの一つも生えていないので、男陣は見習ってほしいぐらいだ。
「昨日は盛り上がっていたようですね」
「はい、それはもう」
だらしない格好のアルに嫌味のつもりで言ったが、この男は巖のように鈍だ。いっそうらやましい。
レイに目を向けると、彼はいつも通り微塵の隙もなく私の前に立つ。
そういえば、二人にはねぎらいの言葉を忘れていた。
「昨日はよく戦ってくれました。レイ、空を飛んで戦っているのが私の所からも見えましたよ」
まだ飛ぶというよりは跳ねると言ったほうが正しいのだが、重力をじさせないそのきは、まるで妖のようだった。
「はい、ありがとうございます!」
レイはを張り上げる。
し褒めただけですごくうれしそうにするから、レイには褒めがいがある。
いいことをしたなと思っていると、先生やアルが非難めいた目で私を見る。なんで?
「ところで二人から見て、ハーディーはどういう人ですか?」
昨日はよろしくやっていたようなので、二人の意見も聞いておこう。
「ハーディーの旦那ですか? なかなかいい人ですね。話の分かる人です」
アルはもう仲良くなったらしい。
ハーディーは前線で指揮を執る指揮のようだ。分にかかわらず、腕の立つアルを好ましく思うのだろう。
「なくとも、だまし討ちや卑怯な振る舞いをするじじゃないですね」
「私も同意見です。禮儀正しく、規則を重んじています。部下たちにも規律を説いていたので、命令されない限り、無茶なことはしてこないでしょう」
二人の意見が一致しているようだった。一見すると誠実な顔だが、本當に誠実な人なのかもしれない。
「そうそう、俺たちが向こうのことを探っていたように、向こうもロメ隊長のことを調べていましたよ」
「それは當然でしょうね」
こっちがしていることは、當然相手もしていると考えるべきだ。
「それで、これからどうするのですか?」
レイの問いに、私はし思案する。力づくで連れ戻される可能は低い。なら時間を稼ごう。
「相手がこちらに合わせてくれるのなら、のらりくらりと対応しましょう。アルとレイはハーディーと協力して巣の殲滅をお願いします。急がず確実に殲滅してください」
蟻人は王一匹、卵一つを殘すと危険だ。しっかりと時間をかけて駆除してもらおう。
「先生はハーディーの素を、もうし調べてください」
「わかっている。昨日のうちに早馬を出した。知り合いの貴族の筋から調べるよう手紙を出したが、返事を得られるのはどんなに早くてもミレトでだろうな」
巣の駆除が終われば、ミレトに戻る予定だ。ならばそこでハーディーのことはわかるだろう。
「時間稼ぎすれば、どうにかなるのですか?」
アルは首をかしげる。
「そろそろ魔王軍の被害が表面化するころですから」
どうやらアンリ王子率いる王國軍が、魔王軍を打ち破ったらしい。
一時は王子が打ち取られたという兇報も流れたが、誤報だったようだ。
「王國軍は戦いに勝利したとのことですが、戦闘が長引き王國軍は疲弊しました。飛散した魔王軍の背を討つことが出來ず、多くの敵兵を取り逃がしたとのことです。いくらかは後方の本拠地に戻るでしょうが、ここで一旗揚げ、自らの王國を築こうとする者もいるでしょう」
魔王軍は実力主義、腕に覚えのあるものほど上の地位につく。それに彼らはこの大陸に栄達と栄華を求め、自らの領地を切り取りに來たのだ。
野心高く、獨立心の強い者たちばかり。
たとえ故郷に帰れずとも、ここで一旗揚げようという気風がある。
「それでなくても、この國には魔王を倒した王子がいます。魔王の仇を討とうとする者もいるでしょう」
王子を倒せば魔王になれると考え、出世のチャンスを狙うものも出てくるはずだ。
「王國各地で、魔王軍の殘黨が跳梁するはずです。いえ、すでに被害が出ているところもあるでしょう。ミレトに戻れば、クインズ先生が周辺の貴族や領主たちを集めて會合を開く準備をしてくれています」
名目は蟻人を倒した戦勝記念だが、その意味に気づく人もいるだろう。
「彼らと同盟を結び、本格的に活を開始します」
魔王軍が來たことを口実に、ハーディーとの約束をうやむやにしてしまおう。彼も騎士ならば、敵の襲來にじっとしていられないはずだ。
「準備期間は終わりました。兵たちにも本格的な戦いが始まることをしっかりと伝えておいてください」
アルとレイ、そしてヴェッリ先生がうなずいた。
私も拳を握り締める。
これまでずっと備えてきた。それがついに試されるのだ。
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