《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第五十五話 ミレトでの饗宴
第五十五話
その夜、ミレトで開かれたお祭りは大いに盛り上がり、兵たちは苦しい戦いの疲れを癒した。
饗宴にも多くの名士が集まり、食べきれないほどの料理、飲み切れないほどの酒が並び、音楽と談笑は絶えることがなかった。
もっとも、私がこの手の宴でゆっくりすることはできない。
街の名士たちが次々とあいさつし、商人たちとは談笑しつつ商談の渉。時に約めいた話もあり、謀の渦があちこちでとぐろ巻いている。
つまらない策謀には足をとられぬよう、ダンスのステップのようにかわし、噓と罠の間を飛びぬける。
「ふう………」
ひとしきり話を終えると、一息ついた。
敵とも味方ともつかない相手との話し合いは、正直疲れる。戦場にいた方がまだ心が休まると言えた。
ゆっくりと料理も楽しめず、酔ってしまうわけにもいかないのでお酒も楽しめない。
もっともお酒は味があんまり好きじゃないから、傾けているのはもっぱら果実を絞った飲みだが。
會場を見ると、連れてきた者たちは思い思いに楽しんでいるようだった。
兵士の主だった者たちも連れてきたが、ロメ隊は最近名が知られてきたのか、淑たちにも人気だ。
アルとレイは先生にダンスを教わったのか、意外にもちゃんと踴れている。
私のように付きっきりで練習する時間などなかったはずだから、それであそこまで踴れるなら大したものだ。
グランとラグンは二人して一人のを口説いている。同じ顔に両側から口説かれて、は困顔だが、まんざらでもないのか拒否はしない。
意外にあの二人は面食いで、たらしらしい。しかし一人で口説くのならともかく、二対一とは卑怯だ。今度注意しておこう。
一方踴らないのがオットーとカイルだ。
格が立派だからか、オットーが三人ほどのに囲まれていた。純真なオットーはどうしていいのかわからず、顔を赤くして直している。
たちはそれが面白いのか、ややはしたない態度でオットーをからかっている。しかわいそうだがあれも経験と思ってもらおう。オットーはし慣れしたほうがいい。
その近くではカイルが酒杯を傾けていた。小柄ななのに底なしなのか、次々に杯を傾け、酒瓶を気持ちいい勢いで飲み干していく。この部屋にある酒を全てのみほしそうな勢いだ。
ホールの中央では、クインズ先生とヴェッリ先生が踴っていた。
二人とも教師役をしていただけあって、素晴らしい腕前だ。特にクインズ先生はステップも鋭くのキレもいい。それに今日は珍しくドレスアップしていてとても綺麗だ。
相手をするヴェッリ先生も、今日は珍しくめかしこみ、髭も剃っている。しかししダンスに彩を欠いているような気がする。ドレスアップしたクインズ先生の、大膽に開かれた元に目を奪われているのかもしれない。
視線を壁に向けると、ミアさんが壁の花となっていた。こういうところでの振る舞いがわからないのだろう。
聲でもかけようかと思ったが、ミアさんに近寄る男の姿があった。
著飾っていたので一瞬誰かわからなかったが、古參兵のグレイブズだった。キザったらしい態度でミアさんをダンスにっている。
ミアさんはどうしていいのかわからず、困っているようだった。するとそこに別の男がもう一人。こちらはミアさんと同じ癒し手のカールマンだ。ミアさんを守る騎士のように立ちはだかる。するとそこにもう一人、こちらはロメ隊の一人ミーチャだ。そういえばミーチャはギリエ渓谷で竜の討伐時に重傷を負い、ミアさんに治療してもらったはずだ。どうやらその時から想いをめていたらしい。
思い返せば蟻人戦でも、ミーチャはやけに気合がっていた。あれはそういうことか。
三人は火花が見えそうなほどにらみ合う。
ミアさんはかわいいし、それに死にそうな怪我を治してもらえば、吊り橋効果もあって好意も抱くのだろう。ミアさんはかわいいから、ほかにもファンがいそうだ。
しかし當のミアさんは、うれしいを通り越していがみ合う三人に本気で困っているようだった。一瞬私と目が合い、視線で助けを求められたが、視線をそらして無視した。
無視されたことにミアさんが驚きの顔を見せたが、知らん。
自分をめぐって男がいがみ合うなんて、冥利に盡きるじゃないか。問題が大きくなりそうなら手を貸すが、それまでは自分たちで何とかしてもらおう。
そういえばハーディーの姿が見えない。
何度かソネアさんと話をしようとしているところは目撃したが、ソネアさんはまるで相手にしていなかったので、今は頭でも冷やしているのだろう。
當のソネアさんは、パーティーを楽しんでいるらしく、紳士淑の方々と楽しげに談笑中だ。心気が気ではないのだろうが、ハーディーよりは落ち著いている。
周囲に目を配っていると、糸杉のように細長い男が近づいてきた。
「これはこれは、ロメリア様。お楽しみですか」
気な聲をかけてきたのは、ヤルマーク商會のセリュレ氏だった。珍しく酔っているらしく、顔がし赤い。
「ご機嫌なようですね」
「それはもう。先ほど本店からの手紙で、アイリーン港の差配を一手に、私がやらせてもらうことに決まりましてね」
なるほど、それはうれしいだろう。
アイリーン港は今後大きく発展する。どれほどの長になるかわからない。つまりどれだけ利益が出るかも腕次第だ。商人冥利に盡きるというもの。上機嫌にもなるだろう。
「ではお祝いいたしましょう」
私がグラスを掲げると、セリュレ氏も酒杯を掲げる。
「ロメリア様、貴方は私にとって幸運の神ですよ」
「過分な評価、恐れりますわ」
「いえ、過小と言えましょう。國を魔族の手から救う、聖となられようとしているのですから」
セリュレ氏は私の目的を言い當てた。
「いやですわ、セリュレ様。魔族の手から國を救うなど、そのような大それたこと、考えたこともありません」
社辭令としてごまかしておく。
「そうでしたか。しかし覚えておいてください。お嬢様がおみであればこのセリュレ、いくらでもお力をお貸ししますよ」
セリュレ氏が心にもないことを言う。
「もちろん、利益が見込める限り、でしょう」
セリュレ氏が言わなかった部分を付け足した。
「はい、それはもう。お嬢様は回収が見込める優良な投資先ですから。ヤルマーク會長も採算が合わなくなるまでついて行けと言うでしょう」
酔っているのか軽口をたたく。
だがやり手のセリュレ氏が、酒の席でしくじるなどありえない。酔ったふりをして商會の意向を伝えてくれている。
実績を評価して、後援してくれるということだろう。しかし表立って言えるほどではないということか。
「そうそう、ガンゼさんからも手紙が來ていましたよ。ロメリア様のことをほめておられましたよ。面白い仕事ができると」
ここにはいない、巌のような老人の名前を挙げる。
「それはこちらの言葉だと返信しておいてください。まさかこれほど早く作業を進めていただけるとは思いもしませんでした」
一番腕の立つ人というれ込みだったが、確かに腕が立つ。本人の経験もさることながら、引き連れてきた職人たちの腕もいい。
尊敬される仕事をこなし、弟子たちを鍛えてきたからだろう。
「港だけとは言わず、他にもいくつか仕事を頼みたいぐらいです」
戦爭に土木工事は不可欠だ。
砦や城の建設だけではない。橋や道路は戦略的にも重要で、大きく戦局を左右する。
「土木部隊を作れれば、その指揮に據えたいぐらいです」
「ははっ、まるで黃金帝國の再來ですな」
はるか昔に栄えた黃金帝國は、平時には兵士たちに道路を施設させていたという。彼らは兵士でありながら土木工事の専門家でもあり、彼らが殘した道は今も使われている。
何百年もの時を超えて現在に伝わっているのだから、その技の高さは本だろう。
黃金帝國時代と同等と言わないまでも、似たようなことはやりたい。
それに兵員の數はそろったが、工兵の數はない。指導や監督できる人がいればありがたい。何なら百人長ぐらいの待遇で、軍屬にってほしいぐらいだ。
しかしさすがにこれは頼めないだろう。あれだけ腕のいい人だ、本來の仕事もあるし、他にも引く手あまただろう。
「今のは口がりました、忘れてください」
ガンゼ親方はしいが、無理強いはしたくない。私とのつながりを持とうと、セリュレ氏が余計な手を回すかもしれない。ちゃんと釘を刺しておこう。
「フム……それなのですが、お嬢様。案外行けるかもしれませんよ」
酔った顔にしだけ鋭さが戻り、セリュレが思案する。
「いえ、いいのです。無理強いするつもりはありませんから」
セリュレ氏の酔ったふりを指摘せずに斷る。忖度されても互いが不幸になるだけだ。
「ああ、いえ。そういうことではありません。ある意味ガンゼさんにとっても渡りに船かもしれないということです」
「何がです?」
「ガンゼさんには一番弟子となる方がおられましてね。この方は長くガンゼさんに師事していて、腕も経験も十分。もう獨立して親方になっていてもおかしくはないのですが、遠慮しているのか、今でも弟子のままなのです。ガンゼさんとしては、獨立してほしいと思っているようなのですが、本人がなかなか腰を上げずに困っているみたいです」
師と弟子、その関係には複雑な思いが錯しているのだろう。
「今回は私が無理を言って、ガンゼさんを引き抜きました。すでに依頼されていた別の仕事があったのですが、そちらは一番弟子をあててもらいました。急な代でしたが仕事ぶりはガンゼさんと遜なく、問題なく終わらせたようです。彼ならガンゼさんが戻らなくても、上手くやっていけることでしょう」
し話が読めた。
「なるほど、このまま私たちが無理を言い、こちらに殘るという形なら、そのお弟子さんはそのまま獨り立ちすることになると」
ガンゼ親方がそれをまれるのなら、互いにとって悪い話ではない。
「ですが、そうまれるでしょうか? 悔いが殘るのでは?」
弟子のためとはいえ、ガンゼ親方にしてみれば一線から退くこととなる。あれほど腕のある人だ、腐らせるのは惜しいはずだ。
「話してみないことにはわかりませんが、案外向こうも乗り気かもしれませんよ。先ほども言いましたが、手紙ではお嬢様のことをしきりと褒めていましたから」
「しかし、それほどお給料は出せません」
ガンゼ親方ほどの人なら、大金で雇われているはずだ。こちらも払えるだけ払うつもりだが、それでも大きく目減りすることだろう。
「確かに尊敬される仕事には、相応の対価が支払われるべきです。しかしお嬢様、職人は金にだけになびくものではありません。武人が大きな戦場を好むように、職人は面白いと思った仕事につくものです。おかげで手を焼かされることもありますが、そうでなければ一流にはなれない」
なるほど。それはそうかもしれない。
「私といればその面白い仕事ができると?」
たいそう見込まれたものだ。
「買い被りですよ」
「私もガンゼさんもそうは思っていません。お嬢様は使えるものは何でも使う人ですから」
なんだか私がひどい人間のような言い方だ。
「アイリーン港は確かに好都合の場所にり江がありました。しかしもしなかったとしても、お嬢様ならうまい方法を思いつき、なければ方法そのものを作ったでしょう。今回の討伐でも、もしガンゼさんが工兵として従軍していれば、何か使い道を考えたのでは?」
指摘されて思考が切り替わる。
あの狀況で野戦築城は難しい。しかしレイが以前やった方法で、砦や防護柵を作ればどうか?
レイの砦は素人が作った脆弱なものだが、ガンゼ親方ならもっと強固で簡易なものを作れただろう。
開戦直前まで隠しておき、敵が來た瞬間に展開出來れば………いや、さすがにそんなに高速には無理か? だができたのならば前線はし楽ができたかもしれない。
こちらが守りを固めれば、蟻人はを掘って裏を取りに來ただろうが、坑道戦は対策も多い。川から水を引いて水沒させる手はどうか? さすがにあの狀況では難しいか? ほかに何か手は?
頭の中で、工兵の使い方を模索する。効果的な使い方はないにしても、その過程でほかの狀況でなら使えるかもしれない策を思い付いた。
思考を巡らせていると、セリュレ氏の視線に気づく。
目つきの鋭い男は、ほらねと言いたげな顔で私を見ていた。
思考を見かされたみたいで、なんだか恥ずかしい。
「ついていくか、いかないはガンゼさんが決めることです。お嬢様はあれこれ考えず、手元に來た時に使い方を考えるぐらいでよいのでは?」
確かにそれもそうだ。來なかったらその時はそれで終わり。來てくれたならオットーや、工兵に適のあるものをつけるとしよう。
「ではお嬢様、よい夜を」
セリュレ氏は酒杯を掲げて、その場から去っていった。
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