《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第五十七話 ハーディーの忠誠

第五十七話

話し込んでいると會場では片付けが進み、本當に閑散としてきた。いい加減疲れてきたが、問題は早めに片づけておくべきだ。

窓を見てテラスを抜け、中庭に降りる。

ハーディーはどこにいるのだろうと周囲を見回すと、中庭に風きり音が聞こえた。

足を向けてみると、禮裝にを包んだハーディーが抜の刃を構え、空に向けて剣を振るっていた。

振り抜かれた刃は空を切り裂き、迷いを斷ち切るかのように鋭い。

アルのような力強さ、レイのような鋭さはないものの、二人の剣は実戦で得た戦場の剣法。貴族として生まれ、騎士として育ったハーディーは正統派の剣を修めている。

その太刀筋は流麗にしてらか、どれだけ刃を振るおうとも重心が崩れることはなく、攻撃が次の攻撃につながっていく。

派手さはないが基本に忠実な堅実なきだ。もし敵となれば、ハーディーの守りを崩すことは易しいことではなく、焦って下手な攻撃をすれば、そこから打たれてしまうだろう。

一通り型をやり終えたハーディーは構えを解き、刃を鞘に収める。

私は見事な型を見せてくれたハーディーに、拍手で迎えた。

「お見事です」

「お嬢様。いつからそこに?」

し前からです。それで、迷いは晴れましたか?」

宴の最中に、こんなところで刃を振るう者もいない。かすことで、考えを整理していたのだろう。

「はい、晴れました」

星明りの下、まっすぐな瞳でこちらを見返す。なるほど、腹が座ったらしい。

「それで、婚約の件はどうするのです」

「はい、お嬢様との婚約の件ですが、これはまずおいておきます」

前言撤回。何を言い出すのか、この男は。

「それよりもまずお嬢様が何をするのか、それをお聞きしたい」

ハーディーは単刀直に切り出してきた。

「最初お嬢様のことを聞いたときは、ご婦人が兵を率いて魔の討伐など馬鹿げた話だと思いました。しかし実際に軍事行や兵士を見て、遊びでやっていないことはすぐにわかりました。そしてお嬢様の目的が、ただの魔の討伐ではないことも。迫りくる魔王軍と戦うためですね。王家を當てにせず、自らの手で民衆を救うおつもりだ」

「だとするとどうするのです?」

下手をすれば私の行為は、王家に叛意ととられかねない。告げ口されればまずいことになるだろう。

「王家に言いますか?」

「いいえ、私の領地も辺境にあります。民を救うために立ち上がられたお嬢様に、刃を向けることなどできません」

「ならばどうするのです?」

知って口にした以上、見て見ぬふりは許されない。旗幟鮮明にせぬのであれば、殺すしかない。

するとハーディーは膝を折り、頭を垂れて持っていた剣を差し出した。

「あなたにこの剣を捧げます」

その言葉としぐさには、思わず息をのんだ。

剣を捧げる。それは私の騎士になるということに他ならないからだ。

騎士の誓いと言っても、ただの口約束。今では形骸化しつつある文化だ。誓うといった口で噓をつき、捧げた剣を主に向けるなど、不義不忠の過去は例を挙げるのに困らない。

しかし、今なお深い意味を持つ言葉でもある。

「お父様の命令はどうするつもりなのです?」

「グラハム様はお嬢様を守れと命ぜられました。付き従うことに問題はありません」

言葉を捕らえた拡大解釈だが、良しとしよう。

「ならば、その剣をけ取る前にもう一度問いましょう。婚約の件はどうするつもりなのですか?」

剣を捧げることは、婚約することにはならない。私との関係を、ソネアさんとの関係はどうするつもりなのか?

「私が誰を娶るにしても、まずは私がひとかどの男にならなければ、誰かの傍らに立つことはできません。お嬢様が領の、そして國にはびこる魔族を一掃しようと考えておいでなら、手柄を立てる戦場には事欠きません。お嬢様も、だらしのない夫を持つつもりはないでしょう?」

なるほど、保留するということはそういうことか。

現狀、ハーディーと婚約はありえない。だが彼が手柄を立て優秀な將となり、褒として私をしいというのなら、結婚ぐらいならしてあげてもいい。

またソネアさんと復縁するにしても、このままでは無理だ。縁談を斷られたミカラ家の顔をつぶしてしまっている。

だが大きな手柄を立てて故郷に錦を飾り、そのうえで改めて求婚するならミカラ家の顔も立つ。

何よりもまずは手柄。手柄さえ立てれば、たいていのことが通るのが男の世界か。

その考え方に思うところがないわけでもないが、手柄のない男に発言権がないのも事実。

ソネアさんの言ったとおり、確かに男を上げる機會を與えることは必要だ。駄目ならそれまでの男。切り捨てればいい。

だがハーディーの考えは甘い。戦場で手柄を立てる覚悟は立派だが、私が連れて行く戦場は。その程度ではない。

ハーディーは私が伯爵領の、そして國の魔族を駆逐する程度と考えているのだろうが、そこで終わらせるつもりはない。

「しかしハーディー殿。貴方はし間違えている」

私は彼の間違いを指摘した。

「言っておきますが、私はこの國だけを救うつもりはありません。魔族に征服された國々を解放し、この大陸からすべての魔族をたたき出します。そして魔大陸へと渡り、奴隷として連れ去られた人々を救います」

私たちを助けるために、トマスさんはそのを犠牲にした。

どれほど悔やんでも、ミシェルさんや小さいセーラは生き返らない。なら私にできることは、二度とミシェルさんやセーラのような犠牲が出ないように、人々を助けるだけ。それだけが唯一の贖罪なのだ。

「なっ、それは」

私の大言壯語にハーディーは絶句した。

「できないと思いますか?」

普通に考えればできないだろう。國り込んだ魔族だけでも五萬。大陸全土に散らばった魔族を數えれば、その十倍から二十倍はいると考えていい。

一方で私の兵力は四百に満たない。これで百萬に挑むというのだから、確かに頭がおかしいだろう。

「確かに今私の手元には四百もいません。しかし私がこの地に來たときは、ただ一人だったのです」

一年とかからずに一人が四百に増えたのだ。數年あればこの數を十倍にして見せる。そして十年、いや、二十年かかるかもしれないが、この大陸から魔族をたたき出す。そして私が死ぬ前に、必ず魔大陸へと渡って見せる。

いつになるかはわからないが、必ずもう一度あの大陸を踏み、人々を解放する。

それが私の野、決して変わることのない目的だ。

「私の目的を聞き、それでもなお、剣を捧げる覚悟はありますか?」

私の野は、ともすれば危険なものだった。

領地だけではなく國を超え、さらに別の大陸にまで行こうというのだから、越権行為どころの話ではなく、反逆ともとらえることが出來るからだ。

その私に忠誠を誓うということは、下手をすれば一緒に処刑されることとなる。

「どうです?」

「このハーディー、お嬢様に謝罪します」

頭を下げて謝る。

「何に対してです?」

「思慮と覚悟が足らなかったことを。そして改めてこの剣を貴方様に捧げます」

頭を下げたまま、再度ハーディーは剣を差し出す。

「あなたの騎士団に、一翼にお加えください」

私は靜かに彼の剣をけ取った。

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