新連載です！　皆様、どうぞよろしくお願いいたします。

本日は３０分おきに第６話まで投稿します。

日本の上空高度３萬６千キロの靜止軌道上を航行する學監視衛星〔魔１號〕、この人工衛星はこれまでの衛星とは一線を畫す最新の魔法工學を用いた魔力監視システムを搭載して、はるか高度から日本各地に発生したダンジョンに魔力的な異常がないか人工的な監視の目をらせている。

５年前から日本各地にダンジョンと呼ばれる謎の地下空間が発生し、時にはその空間から魔と呼ばれる魔力を帯びた生命が溢れ出して各地に被害を出した経験から、政府がダンジョンから発生する魔力を常に監視する必要に迫られた努力の結晶でもある。

そして令和６年７月のある日、魔１號の宇宙からの監視網は首都近郊のとある場所に過去に観測された例のない膨大な魔力の発生を知した。その魔力総量の桁はダンジョンが生じる際に発生する魔力の優に１０倍に及ぶ、前例がない規模の想像を絶する魔力であった。

魔１號が観測したデータは瞬時に政府と自衛隊中樞に送信される。そのデータは日本政府全がパニックに陥るほどの激震をもたらすこととなる。

「総理、統合參謀本部から急連絡です」

「うむ、すぐに出よう」

瞬時に繋がれたテレビ映像のモニターには顔面蒼白となった統合參謀長の表が映り込む。日頃から冷靜沈著な自衛隊首脳と謳われた參謀長がこれだけ取りした様相を呈するのは只事ではないと、首相邸全にも張が走る。

「総理、魔１號が観測した魔力の暫定的な解析値が判明しました。魔力の総量にして１２億５千萬に上ります」

「これまでダンジョン発生の際に観測された數値は？」

「１億と々です」

「ということは、優にダンジョン１０個を創り出す魔力が突如発生したんだな」

「その通りです」

「大至急魔力の観測地近辺を捜索して、ダンジョンの痕跡を必ず見つけ出してほしい。萬一このような大規模なダンジョンの生を見逃していたら、大変な被害を覚悟しなければならないだろう」

「了解いたしました。何か発見しましたら、いち早くご報告いたします」

こうして首相邸は眠れぬ一夜を過ごすのだが、近辺を懸命に捜索した自衛隊の努力にも拘わらず、観測地周辺でのダンジョン発見の報告はいつまで待っても齎されることはなかった。

◇◇◇◇◇

その頃膨大な魔力が発生した中心地であるとある學校の屋上には、フラついた足取りの高校生と思しき男子と意識を失って倒れている子の姿があった。

男子は年齢が１６～１７歳、やや長で十人並みの顔立ちをしており、この學校の制服を著用している。子は平均的な高校生よりもやや小柄な格で、目を閉じてはいるもののそれでもはっきりとわかる白で黒髪の、著用しているのは男子と同様にこの學校の制服に間違いなさそう。

目眩でも起こしている様子であるが、男子生徒は片手に剣を構えながらフラフラするを勵ますがごとくに自らの頬を左手で張って気合をれ直す様子が窺える。

「次元酔いだな。どうにもに力がらないぞ。気合いで乗り切るしかないか…」

獨り言のように呟くこの生徒は、楢崎（ならざき）聡史（さとし）。まだ目覚めないで寢ているのは彼の雙子の妹である楢崎（ならざき）桜（さくら）、共にこの高校に通學する高校１年生。

実はこの二人は高校學直後に異世界に召喚されて、この日１か月ぶりに日本へ戻ってきた。衛星が観測した膨大な魔力は、この二人が地球に戻ってくる際の転移式によって生じたものである。

転移をすると通常の人間は意識を失ってしばらく目を覚まさない。が一時的に分解されて次元を通り抜けたのちに再構される過程で生じる得も言えぬ気持ち悪さに人間の覚が耐えられないのだ。

だが聡史は、気合とで意識を保ったまま次元を越えていた。しばらくを休めたほうがいいとは重々承知ではあるが、彼にはノンビリと寢ていられない事があった。その理由は直後に判明する。

聡史の周囲の空間に揺らぎが発生して、その揺らぎの部から地球上には存在しない得の知れない何者かが姿を現してくる。

「しつこい連中だな。日本まで追いかけてきやがったか」

フラつくに鞭を打って剣を構える聡史。いまだに意識が戻らない桜を背後に庇って、絶対に守り抜く姿勢と気迫を見せている。

聡史の周囲の空間の揺らぎが収まると、その場に総勢８のアークデーモンが登場する。実はこれらのアークデーモンは、つい今しがたまで聡史が異世界で剣をえていた相手であった。ダンジョンと間違えて侵した地下神殿で、聡史たちを足止めするために冥界神が遣わした配下の中でもかなり上級な存在。

冥界神はその名の通り、世界を構する重要な神のひと柱である。その神自が神殿にした聡史たちに危機を覚えて、二人を配下によって足止めする間に何とか転移の式を作り上げて、アークデーモンごと日本へ送り返したのだ。

自らの手足であるアークデーモンごと転移せざるを得なかった冥界神の慌てぶりと、このような異世界での大騒を引き起こした聡史と桜の兄妹の非常識な暴れっぷりをどうか理解してもらいたい。

「わざわざ日本まで來やがって。妹には指一本れさせないぞ」

敵を目の前にして悲壯な決意を固める聡史、次々に迫りくるアークデーモンに魔剣オルバースを振り上げる。次の瞬間、目にも止まらぬ速さで剣を振り下ろすと、右手をばして長い爪で聡史を引き裂こうとしたアークデーモンの腕がいともたやすく斬り落とされる。

「グエェェェ」

腕を切り落とされたアークデーモンは痛みに聲を上げるが、いまだ致命傷は負っていない。聡史はその勢いのまま踏み込んで追撃で心臓に剣を突き立てると、今度は聲にならない聲を上げてアークデーモンのは霧のように消え去っていく。

「先は長いな。まずは手始めの一か」

聡史はなおも剣を振り上げて接近してくるアークデーモンを牽制する。調は「絶」の文字が４つほど重なってもおかしくないほどの不調を訴えている。だがここで自分が折れてしまったら、意識が戻らない妹にまで想像したくない危機が訪れる。

きの悪いを必死に宥めかして、時には活をれながら剣を振るっていく。視界が霞み、敵がばしてくる腕が二重に見えてくるが、だったら二本まとめて斬り捨ててやるとばかりに、剣の軌道を変えて振り下ろすと、また１のアークデーモンが霧のように姿を消し去る。

このような無茶な戦い方ですでに３を倒しているものの、聡史は力ばかりが無駄に奪われていくのをじている。そもそもアークデーモンは、ダンジョンの中ボスを務めてもおかしくはない強大な敵。地球でいえば悪魔の王サタンの直屬の配下と同等の実力と評したらいいのかもしれない。

聡史が前方の３に気を取られた一瞬のスキに殘りの２は素早く後方に回って、そのまま同時に聡史に襲い掛かる。気配に気づいた彼が左後方から迫る敵に剣を向けて斬り捨てるが、右後方から忍び寄るアークデーモンにはタイミング的に対処が間に合わない。

アークデーモンの長い爪が聡史にびていく。あと一息でその爪が聡史の心臓を貫く。聡史は視界の隅にその姿を捉えているものの、今から対処するには殘された時間があまりになかった。

「クソッ！　ここまでか…」

無念の思いが聡史を包む。せっかくこうして日本に戻ってきたにも拘らず、両親にも顔を見せないうちにこの場で命を落とす無念を…　そして、意識を失っている妹を守れなかった慚愧の念を…

だが、その剎那…

ズドドガガーン

「ウギャァァァァァァ」

まるで発のような派手な音と長い尾を引く悲鳴を殘しながら、アークデーモンのは彼方へと飛んでいった。そのは空中でバラバラとなって霧のように消えていく。

何が起きたのか理解できない聡史が未だフラ付く頭をそちらに視線を向けると、そこにはオリハルコンの籠手を両手に裝著した桜が立っている。

ニッコリした笑顔を聡史に向ける桜、その表は月明かりに照らされて怪しいまでにしく輝いている。

「お兄様は、相変わらず甘いですわ。時折右後方にスキを作る癖がまだ抜けきれませんのかしら？」

「桜、気が付いたのか。助かったぞ」

意識を取り戻した桜は瞬時に立ち上がって、後方から聡史に迫ろうとするアークデーモンを毆り飛ばしていた。

外見のしさや丁寧な言葉使いに騙される人間が多いが、魔を毆り飛ばすことに生き甲斐をじる超危険人かつ戦闘狂こそ、この桜という娘の本に相違ない。その拳の威力はトレーラーサイズのベヒモスを簡単に吹き飛ばす荒れ狂う嵐のような猛威を振るうことも可能だ。

異世界での數々の冒険を経て他の冒険者から付けられた桜の二つ名は『魔の天敵』『Ｓランクの魔キラー』『魔の討伐コレクションをする』『他者の追隨を許さない戦闘狂』と様々であったが、いずれも騒なものばかりが並んでいる。

「桜、調はどうだ？」

「お兄様、目が覚めたら、絶好調ですわ」

「すまないが、俺は限界だ。任せていいか？」

「ええ、どうぞお任せください。言われなくとも殘ったアークデーモンは全て私が毆り飛ばす予定でしたから」

ここまで前に立って剣を振り回していた聡史が後方に下がって、代わって桜が前に出てくる。

「私に毆られたいのは、どなたかしら？　死にたい順に掛かってくるとよろしいですわ」

桜の目が本格的な戦いを前にスッと細められる。戦闘狂のが騒ぐのを抑え込んで、波紋一つない靜かな湖面のごとき境地まで神を集中しているよう。

桜の挑発を理解したのかどうかはわからないが、殘った３のアークデーモンが同時に襲い掛かる。

「お兄様同様、あなた方も甘いですよ。相手がどのようにくのか、まるっきり予想ができていませんね」

その言葉を殘して桜のがその場から消え失せる。いや消えたかに見えたのは、あまりに速いきに目が付いていかなかったことが原因。桜の姿を見失ったアークデーモンは一瞬棒立ちの狀態。

そして、その背後から…

ドカーン

パンチがぶつかる衝撃はさながら千ポンド弾が発したかのようで、その衝撃に耐えきれずにアークデーモンのが四方に飛び散っていく。五が文字通りバラバラとなった模様。そして発音は続けざまにあと２回発生する。その度にアークデーモンのは、々になって弾けて飛んでいった。

「生溫い相手でしたわ」

「桜、ご苦労だった。相変わらずのワンパン振りだな」

「この程度の敵など一撃で十分ですの」

不調のところにもってきて、アークデーモン相手に大立ち回りをした聡史はまだ肩で息をしている。対して桜は息ひとつす様子もない。的な數値はまだ明かせないが、レベルにおいて、兄よりも妹のほうが倍近く高いのだ。

この妹、真に恐るべし！

「お兄様、もうちょっと休んだら、家に帰りましょう」

「そうだな。立てるようになるまであと５分だけ待ってくれ」

こうして誰もいない高校の屋上で、異世界から戻った兄妹とその世界の異形の者たちとの戦いは、靜かに幕を閉じるのだった。

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