《異世界から日本に帰ってきたけど、やっぱりダンジョンにりたい! えっ、18歳未満は止だって? だったらひとまずは、魔法學院に通ってパーティーメンバーを育しようか》17 自由課題
魔法の練習を終えて、聡史たちは……
魔法の練習を終えて、聡史と鈴は地下から出てくる。
「地下にいたから、日差しが強くじるわね」
「もうすぐ真夏だからな」
「それにしてもこれからずっと聡史君と一緒に魔法の練習ができるなんて、なんだか夢みたいな話よね。しかも今日一日でビックリするほど高度な魔法理論がわかったし」
「これからも能力向上第一でビシビシやるからな」
口ではそういうものの、ついさっきまで鈴に抱き著かれていた聡史はこれはこれでご満悅だったりする。ニヤニヤが止まらない顔を懸命に引き締めて、表向きは何事もなかったで押し通すつもりだ。
二人で學生食堂のり口で待っていると、グラウンドの方向からこちらに向かってくる桜と明日香ちゃんの姿が目にる。
「あら、桜ちゃんたちも來たようね」
「そ、そうだな」
聡史は務めて冷靜に振舞おうとするあまりにセリフがやや棒読みに。鈴が抱き著いてきたを今頃脳メモリーに保存しているせいだ。
それよりも聡史の事前の予想とは違って、意外と明日香ちゃんは元気そうな雰囲気。だが…
「お兄さん、鈴さん、聞いてくださいよ~。桜ちゃんに死ぬほど追い詰められて倒れるとそのたびに苦いを飲まされて、また死にそうになっての繰り返しなんです。おかげでまだ舌が苦さで痺れていますよ~」
聡史には心當たりがあった。桜の訓練においては相手を徹底的に追い詰めて死にそうになるとポーションを飲ませて再びシゴくの繰り返しが當然のスタイル。ビリー隊長のブートキャンプが延々と続く無間地獄のような超スパルタ訓練を、明日香ちゃんはこの2時間をもって経験したのであろう。
「明日香ちゃんも飲んだの? スポーツドリンクで薄めてあるとはいえ、酷い味だったわね」
「鈴さん、その意見はとんでもなく甘いですよ~。ハチミツに砂糖をまぶしたよりも甘いです。何がスポーツドリンクですか、私は原ですよ! げ・ん・え・き! 意識朦朧としているところに鼻を摘ままれてあの苦いを流し込まれる苦しさがわかりますか?」
常日頃お花畑の住人のようなポワーンとした格の明日香ちゃんが、頬を紅させて一気に捲くし立てている。よほどの目に遭ったようだ。やはり聡史が心の中で冥福を祈っていたのは無駄ではなかった。
聡史は祖父が孫を可がるような慈悲に溢れた目で明日香ちゃんを見て「また一人犠牲者が……」また一人犠牲者が…」と呟くのだった。
「桜ちゃんはどんなトレーニングをしたのかしら?」
鈴は明日香ちゃんの申し立てる苦はさらっとスルーして、桜に軽い興味本位で聞いてしまった。ここまで沈黙を守っていた桜がここぞとばかりにを乗り出す。
「鈴ちゃん、明日香ちゃんが大袈裟なんですよ。一回や二回死にかけたところで、大した問題ではありませんわ」
「それ、絶対に問題あるから」
聡史はここ大事とばかりに聲を上げる。だがその聲を飲み込む如くに、明日香ちゃんは涙目で訴えてくる。
「桜ちゃんは、オニです! 悪魔です! 地獄の閻魔様です!」
なんとなく鈴は察してしまったよう。自分は巻き込まれないように予防線を張ろうと決意した目で聡史を見る。
「わ、私は聡史君との魔法の練習が忙しいから、桜ちゃんは明日香ちゃんと仲良くやってね」
「鈴ちゃん、その気になったらいつでも聲を掛けてくださいね。お待ちしておりますわ」
絶対聲なんか掛けない! むしろ実技実習の時間に限って桜には近づきたくもないと、鈴は背筋が凍る思いをじながら首をブンブン橫に振っている。
「お兄さん、どうか私も一緒に魔法の練習に加えてください」
懸命に逃げを打つ明日香ちゃんだが、簡単に獲を逃がす桜ではない。
「明日香ちゃん、私と一緒に訓練すれば夕食はデザートを2品おごりますわ」
ピクッ
明日香ちゃんは「デザート」というフレーズに敏に反応するが、まだ辛うじて理を持ち堪えている。
「桜ちゃん、私はデザートでつられるような安い人間ではありませんよ~」
「よく考えてくださいね、明日香ちゃん。訓練で大量のカロリーを消費すれば、太る心配なしでデザート食べ放題なんですよ」
ガシッ
明日香ちゃんは桜の地獄の甘言に陥落した。騙されているとも知らないで、力強く桜の手を握っている。
「桜ちゃん、デザートのために頑張りましょう」
「ド安目の人間だろうがぁぁ」
聡史のツッコミなどどこ吹く風で、桜と明日香ちゃんは熱く友を確かめ合っている。騙されているとも知らないで…
一応明日香ちゃんも納得して落ち著いたようなので、ひとまず鈴はこの場を収集しようと…
「こんな場所でしゃべっていても仕方ないから、食堂にりましょう」
「鈴ちゃん、そうでしたわ。さっきからお腹がペコペコですの」
鈴の言葉に桜はハッとしたような表で食堂に向かって突進を開始。人が溢れているり口にも拘わらず、その波をすり抜けるが如くの見事な捌きであっという間に食堂の中に姿を消す。
テーブルに著くと四人が思い思いのメニューを選んで、ひと時だけゆっくりできる食事時間が始まる。
桜は相変わらず大量の食事を二枚のトレーに乗せて席に持ち込んでおり、脇目も振らずに晝食に集中している。対して明日香ちゃんは普段よりも控えめな量をあまり食がない様子で口に運ぶ。疲労は回復しても、胃が食べをけ付けないらしい。
桜が黙って食べているのを好機とじて聡史が口を開く。鈴と明日香ちゃんに関してちょっと気になっている件があったのだ。
「鈴と明日香ちゃんはステータスレベルが低い気がするんだけど、あまりダンジョンにはっていないのか?」
「ああ、その件ね。私もレベルを上げたいのは山々なんだけど、パーティーを組んでくれる人がいないのよ」
「お兄さん、私も鈴さんと一緒ですよ~」
鈴と明日香ちゃんから同じ回答を得て聡史は不思議そうな顔をしている。二人の発言に々と疑問が湧いてきたのだ。
「パーティーを組まないとダンジョンにれないのか?」
「ええ、自由課題の時間にダンジョンにるには最低でも四人以上のパーティーを組まないといけない規則があるの」
「そうなんですよねぇ~」
鈴の言葉を聞いて明日香ちゃんがため息をついている。パーティーに関して何か困り事があるよう。
「パーティーは簡単に組めないのか?」
編してまだ2日目の聡史はその辺の事に疎い。だがこの聡史の言葉で鈴の表が暗く沈み込む。
「パーティーを組んでダンジョンにったとしても、私は生徒會の仕事があるでしょう。3時になったら生徒會室に向かわないといけないのよ。途中で帰ってしまう人間とパーティーを組みたがる人がいると思う?」
鈴の話にあるように、午後の自由課題も生徒が自由に取り組むプログラムである。専門実技演習との違いは校外での活も認められる點。つまり學院に隣接しているダンジョンにることも可能となる。そしてほとんどの生徒は実際にダンジョンで活をしている。
午後からダンジョンにった生徒たちは、帰りのホームルームはパスして放課後もダンジョンを探索する場合がほとんど。途中で戻ってしまうとわかっている鈴をわざわざパーティーに迎えれるメリットはどこにも存在していない。
ここには生徒のために仕事をしている役員がパーティーを組む際に冷遇されてしまうという矛盾が生じている。その辺の救済措置として學年を超えて生徒會役員でパーティーを組むのも可という規則があるのだが、秋になるまでは仕事が忙しすぎてそのような余裕はなかった。
「鈴は苦労しているんだな」
聡史は同が籠った眼差しを鈴に向けてから、次に明日香ちゃんを見る。自分の出番がきた明日香ちゃんはなぜかを張って待機している。
「明日香ちゃんはパーティーを組めない理由があるのか?」
「フフフ、兄殿、よくぞ聞いてくれたな。私はEクラス最弱の存在!」
「あー!」(察し)
Eクラスでビリということは明日香ちゃんはこの學年でビリということ。世の中にはトップがいればビリもいる。それこそが世の常であろう。
明日香ちゃんは誰かが欠席して人數が足りなくなった時以外は、どこのパーティーからも聲を掛けてもらえなかった。
こんな話をしているところで、タイミングよく桜が食事を終える。箸を置くと聡史に向かって思いをぶちまける。
「お兄様、明日香ちゃんの実態をご理解していただけましたか? このままでは進級も難しいレベルですわ。ですから私が心を大悪魔にして鍛えようというわけです」
だがこのような桜の意見に対して、明日香ちゃんが反論を試みる。
「桜ちゃん、私だって魔法になるために々と努力しているんですよ~」
「おやおや、どのような努力でしょうか?」
「魔法といえば、やっぱり放課後のお茶會ですよね。積極的にお茶とオヤツを口にするようにしています」
ピクッ
聡史、桜、鈴、三人のこめかみが一瞬く。
「それから裝にもこだわっていますよ~。私服はいつもフリフリがいっぱい飾ってある服を選んでいます」
ピクピクッ
三人のこめかみが再度く。
「ダメ押しに自由課題の時間はヒマなので、図書館で魔法のマンガを読んでいますよ~」
「ビリに決まっているでしょうがぁぁ」
「ニートだ! 學園ニートが、ここにいる」
「生徒會としてポッチの対策を真剣に考えなくては…」
桜が聲を荒げ、聡史が天を仰ぎ、鈴がテーブルに突っ伏している。あまりの明日香ちゃんの仰天告白に魂が口から抜けかかった三人だが、真っ先に桜が再始する。
「明日香ちゃんの恐るべき実態が判明しましたが、私はこの程度ではメゲませんわ」
「桜、一どうするつもりだ?」
「お兄様、私に考えがございます」
聡史の中に一抹の不安が去來する。桜がこんな顔をしている時は、大概周囲を巻き込んで大変な目に遭わせるのだ。
「鈴ちゃん、明日香ちゃん、この場は私が一ぎましょう。今日の午後はここにいる四人でダンジョンに突撃いたします」
「唐突すぎるだろうがぁぁ」
聡史の意見などさらっと聞き流して桜は続ける。
「経験値は一緒にいるパーティーで平等に配分されますわね。私とお兄様は當分経験値など必要ありませんから、スキルで獲得経験値をカットいたします。お二人で経験値山分けですよ」
桜は食事をしながらも話題がダンジョンになった気配を察していた。ひとたびダンジョンというフレーズが耳にると、ひと暴れしたいという求が疼き始めていた。自らの求を満たしながら鈴と明日香ちゃんの問題を解決する方策をかに考えていたのだ。
食事に集中するフリをしながら、この娘はどのようにこのメンバーをダンジョン探索に引き込むかを算段していた。甘い言葉でって鈴と明日香ちゃんの賛を得ようと企んでいる。
「桜、東先生が『今週は授業に集中しろ』と言っていただろう」
「お兄様も、甘いですわ。要はバレなければよいのです」
「はあ?」
「お兄様、もう一度よくお聞きくださいませ。世の中の悪事の大半はバレなければ犯罪ではないのですわ」
「どこの悪代だぁ」
聡史はあまりの発言に耳を疑っているが、鈴と明日香ちゃんはその表からして、桜による扇にノセられている様子。ダンジョンにれるばかりか経験値が優遇されるなど、これだけオイシイ話を聞かされたら気持ちがグラつくのは當然。それこそが桜の思う壺であった。
「桜ちゃん、とっても魅力的な提案ね」
「私も早くレベルを上げたいですよ~」
だが二人ともとあることに気が付いた。
「桜ちゃん、裝備を準備していなかったわ。寮に戻って今から支度を整えると30分くらいかかりそうなのよ」
「私もですよ~」
鈴は生徒會の仕事があるのでタイムリミットは々引き延ばしても15時半まで。間もなく13時に差し掛かろうというところで、このロスは大きかった。だが桜は平然としている。
「裝備など必要ありませんわ。私とお兄様がいればお二人には何の危険もありませんから、どうかご安心ください。さあ、お兄様、このままダンジョンへ向かいますわ」
「聡史君、桜ちゃんの自信はどこから來るのかしら?」
「お兄さん、桜ちゃんがこんな態度をとる時は、私の経験からいって碌な目に遭いませんよ~」
鈴と明日香ちゃんが聡史に縋り付くような表を向ける。桜を押し留めるのは不可能と判斷した聡史には二人の不安を取り除くしか道は殘されていなかった。
「安心していい。いざとなったら、俺が何とかするから」
こうして桜に押し切られるようにして、四人は學院に隣接する大山ダンジョンへと向かうのだった。
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